そうなると、避けられないのは製品バリエーションの拡大だ。Appleは同一製品で世界展開を行っているため、「中国向けのWi-Fi非対応モデルやTD-SCDMAモデル」といったものを除けば、地域特化型のモデルは市場投入してこなかった。また、仮にインド向けにミッドレンジ以下のモデルを投入したとしても、これが他の地域に拡散して少なからず既存のiPhone需要を侵食して売上や利益減少につながる(販売台数自体は伸びる)可能性があり、かつて廉価版といわれたiPhone 5cの市場投入にも慎重になっていたほどだ。だが、今年春ごろの投入が噂される4インチ版iPhone (一部では「iPhone 5se」などと呼ばれている)のレポートでも紹介したように、現在のAppleは「廉価版を出すことによる既存製品シェアの食い合い(いわゆるカニバライズ現象)」を以前ほど気にすることもなく、iPhone成長の止まった今こそ販売台数拡大を優先する方向に向かいつつある。つまり、前述の(1) (2) (3)の戦略はすべて製品のラインナップ拡大に振り向けられる可能性が高いと筆者は考える。

地域別のネットワーク事情に合わせた複数SKUの存在を考えなければ、現在のiPhoneの最新モデルは「iPhone 6s」と「iPhone 6s Plus」の2つしかない。だが今後2~3年をかけて、AppleがこのiPhoneバリエーションを最大で5~6程度まで増加させるのではないかというのが筆者の予想だ。考えられる6つのバリエーションは次のようになる。

(A) 5.5インチ版iPhone
(B) 5.5インチ版iPhoneの"ハイエンド版"
(C) 4.7インチ版iPhone
(D) 4.7インチ版iPhoneの"ハイエンド版"
(E) 4インチ版iPhone
(F) ミッドレンジ以下の市場を狙ったiPhone

このうち(A)~(D)はいわゆる現行のフラッグシップモデルだ。(A)と(C)は価格体系も現状のままで、正統進化のiPhoneとしてユーザーへとアピールする。それとは別に、さらに"プレミアム"な機能を搭載した特別版と呼べるバリエーションを提供するのが(B)と(D)だ。「iPhone次期モデルにデュアルカメラが搭載される」という噂を紹介した記事でも触れたが、Appleは一律にすべてのユーザーに新機能を提供するわけではなく、「価格と機能のニーズに合わせてラインナップを細分化」する可能性を見せつつある。

今回、KGI SecuritiesのアナリストMing-Chi Kuo氏が指摘したのは(B)についてだが、こうした傾向は将来的に(D)にも波及する可能性がある。例えば考えられるのは「iPhoneへの有機EL (OLED)採用」で、何度か指摘しているようにiPhoneの総販売台数に対するOLEDパネルの供給力が圧倒的に不足しており、OLEDパネルを搭載したものを"プレミア"なモデルとして分離する可能性が高いとみられている。特にiPhoneの販売台数は5.5インチ版よりも4.7インチ版のほうが圧倒的に多いため、もし4.7インチのモデルにOLEDを採用するのであれば、自ずと(C)と(D)への分離は必須となる。

新たに投入されるという4インチのiPhoneの位置づけは、以前のiPhone 5cと同じ?

(E)は間もなくの登場が噂される4インチモデルだが、おそらく価格帯は現行のiPhone 6sの16GBモデルとそう大差ない、以前のiPhone 5cに近い値付けになる可能性が高いとみられる。そのため、前述のようにインドをはじめとする新興市場を本格的に開拓したいと考えるならば、(F)の投入が必要になる。位置付けとしては非常に難しく、Appleの戦略にそもそもマッチしているのかも疑問だが、今後も成長を続けたいと考える同社の動向に注目したい。