わずか1%の改善でも莫大な価値を生む

またインダストリアル・インターネットがもたらす経済的効果については、航空、電力、医療、鉄道、エネルギーなどの各産業がわずか1%でも燃費や出費の削減を実現したり、システム効率を1%向上しただけで、15年間の累積では27億~90億ドルほど節約が可能という試算結果(図3)を示した。

図3 わずか1%の改善でも15年間に生まれる価値は莫大なものとなる (出所:日本GE)

さらなるデジタル技術やソフトウェアへの注力

GEは2011年11月に10億ドルを投資して、米国カリフォルニア州シリコンバレーに「グローバルソフトウェアセンター」を設立し、本格的にデジタル技術やソフトウェアの研究を始めた。物理的理論や最新デジタル技術を駆使したシュミレーションにより対象産業システムをコンピュータ上で仮想的に稼働して最適オペレーションの向上をめざす「デジタルツイン」の研究を行い、すでにデジタル・パワープラント構想を発表している。今後、主要な産業システムで、この概念の実現を目指すという。

GEは「デジタル・インダストリアル・カンパニー」(GE用語)を目指しており、2015年10月に「GEデジタル」と名付けた事業部門を発足させた。デジタル技術・ソフトウェア分野で2020年に15億ドル(1兆8000億円)規模の売り上げを目指すという。

GEは、社内で使っていた、クラウドベースの産業用ソフトウェア・プラットフォーム「Predix Cloud」を2015年社外に公開し、販売することを決めた。「Predix Cloudは「業界初の産業用クラウド」、「高度なセキュリティ」、「スピーディなデータ処理」という特徴がある。国内では東芝と協業して、東芝製ビル設備を対象としてPredix Cloudを適用し、データ収集・見える化・分析・予測・最適化などによる保守業務の効率化や予防保守の高度化などの実現性についての検証を行っているという。

ソフトウェアそのものの販売も開始

また2015年12月には、日本の住宅設備機器メーカーであるLIXILへPredix Cloudの販売を行った。LIXILはPredix Cloudの世界第1号の顧客だという。LIXILの子会社である住宅設備機器・建材の工事、リフォームやメンテナンスを実施するLIXILトータルサービスは戸建て住宅向けの浴室設置における施工員手配を効率化させるためにこのソフトウェアを導入している。GEはソフトバンクを販売パートナーとして、このソフトウェアの販売を促進するという。

本社をボストンに移転しソフトウェア開発に注力

このようにGEはソフトウェアに特化したビジネス展開を始めたので、「朝起きて見たらソフトウェア企業になっているかもしれない状況だ」と田中氏は冗談交じりに話す。しかし、これがあながち冗談とも言えない状況が田中氏の講演直後も次々と起きている。1月13日(米国時間)に同社は40数年ぶりに本社を米国コネティカット州フェアフィールドからマサチューセッツ州ボストンの中心街に移転すると発表した。ボストン周辺には、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学など世界でもトップクラスの大学が多数あり、これらの大学とデジタル技術やソフトウェア研究開発で連携を深め、技術に精通した人材も採用して「デジタル・インダストリアル・カンパニー」を目指す狙いだ。

家電ビジネスを中国ハイアールに売却

さらに金融ビジネスや家電ビジネスなどインフラやソフトウェア以外のビジネスの売却を次々と進めているのは先述のとおりだが、2015年末には日本における法人向けのリースおよび融資事業を三井住友ファイナンス&リースに売却することを明らかにしているほか、1月15日(米国時間)には、家電事業をHaierの子会社で上海証券取引所に上場する青島海爾(青島ハイアール)に54億ドルで売却すると発表した。当初は家電事業をスウェーデンの家電大手Electroluxへ売却することに検討していたが、独占禁止法に抵触するということで米国政府当局の承認が得られなかったことから、新たな売却先を探していた。Electroluxへは家電ビジネスを34億5000万ドル(負債込み)で売却することになっていたが、Haierへの売却額は、それより5割以上吊り上った。中国から米国へそして世界に打って出たがっているHaierの足元を見たGEの売却のうまさが際立つ。GEのソフトウェアカンパニーへの変身はますます加速しそうな勢いだ。