かつて2012年6月のWWDC 2012の基調講演にて「Eyes Free」の名称でコンセプトが発表されたAppleの「CarPlay」だが、その市場がようやく立ち上がりつつある。今年1月初旬に米ネバダ州ラスベガスで開催されたCES 2016の会場では、このCarPlayと、その競合技術にあたるGoogleの「Android Auto」に対応したインフォテイメントシステムが多数登場し、一気に市場が構成された印象がある。

CarPlay対応車種は2016年モデルが市場に投入され始めた2015年後半以降に出現したが、今年のCESでは現行モデルと2017年モデルの両方でCarPlay対応車種が一気に増え、会場を見る限りではほぼ標準オプションとなりつつある。世界最初のCarPlay対応がFerrari FFだったことからもわかるように、以前まではやや高級モデル寄りに近かったが、会場で話を聞くと2017年モデルからはエントリーモデルを含む幅広いラインナップにCarPlay対応が広がるとのことで、少なくとも来年以降に北米で新車を購入したり、あるいはレンタカーを借りると、CarPlay搭載モデルに遭遇する確率が上がるはずだ。

Syncの新バージョンでスマートフォン連携を大々的にアピールするFord

CarPlayのような車載システムに比較的昔から熱心なのはFordだ。同社はCES開催前日にプレスカンファレンスを実施し、プレジデント兼CEOのMark Fields氏が登壇して最新戦略を発表した。2007年のCESでMicrosoftとの提携を発表し、「Sync」と呼ばれるWindows CEベースの製品を市場投入している。携帯音楽プレイヤーとの接続で、プレイヤーに保存された楽曲をカーオーディオで再生できたりと、現在につながるインフォテイメントシステムの基礎はすでにこの時点で確立したといえる。

CES開催前日のプレスカンファレンスに登壇する米Fordプレジデント兼CEOのMark Fields氏

FordはMicrosoftとの提携で2007年より車載インフォテイメントシステム「Sync」を提供している。同社は2020年までにSync搭載車両を全世界で4,300万台以上にすることを目標にしている

昨年2015年に提供された最新バージョンの「Sync 3」。AppLinkというインターフェイスを搭載し、iPhoneまたはAndroidスマートフォン内のアプリをSync上から呼び出せる。なお、Sync 3からハードウェアとOSが一新され、Windows EmbeddedではなくQNXベースに移行している

Ford新モデルではAppleのCarPlayとGoogleのAndroid Autoを標準でサポートする。既存のSync 3ユーザーにはアップデートの形で機能追加が行われる見込み

Sync Connectはスマートフォン向けに提供されるアプリで、これを利用することでスマートフォンを経由してSyncをインターネットに接続させることができる

AppLinkがSyncの独自機能だとすれば、Smart Device Linkはオープンソースで公開され、スマートフォン内のアプリをインフォテイメントシステムに接続する機能を提供する仕組み。複数の企業がコンセプトに参加している

Fordに関しては、事前に「Googleとの提携発表で自動運転車ビジネスに本格参入する」という報道があったこともあり、記者会見場は多くの報道陣が詰めかけて賑わったが、このタイミングでGoogleとの提携が発表されることはなく、代わりにインフォテイメントシステムに関する最新の取り組みの数々と、米Amazon.comとの提携が発表された。

Amazon.comでは昨年より「Amazon Echo」と呼ばれる情報家電装置の販売を行っており、ユーザーはこのデバイスとクラウドサービスの「Alexa」を介して家電制御や情報入手が可能になる。FordはこのAlexaによる自動車連携をアピールしており、Syncのインタフェースを介してAlexaが利用可能になる。CarPlayのSiriみたいなものを想像すればわかりやすいだろう。

米Amazon.comとの提携を発表。同社は家電制御用のAmazon Echoと、そのインタフェースとなるクラウドサービスのAlexaを提供しているが、これらを使ってFordのSync搭載機から家庭内の家電を制御したり、音声コマンドで情報の入手が可能

FordのブースではSync新バージョンのAndroid AutoやCarPlay対応のほか、Amazon Echo+Alexaの連携機能を積極的にアピールしている