効率化のためには複数の作業を平行して行う「マルチタスク」で仕事をこなそうと考えているなら、すぐにでもやめた方が良さそうだ。マルチタスクは生産性の敵であるだけでなく、本質的に人間はマルチタスク仕様ではないのだ。それを科学的に証明する報告書も出てきているようで、Inc.comが記事「マルチタスクがあなたの脳をダメにする(原題:Multitasking Is Killing Your Brain)」で紹介している。

マルチタスクをやめておいたほうが良い理由として「人間はマルチタスクをするようにできていない」と「マルチタスクは品質と効率を下げる」という2点が記事で挙げられている。

脳がマルチタスクに不向き

それぞれを見てみよう。

前者は、脳の仕組みとして1つのことをやるようにできており、情報の洪水になると脳は自ずと減速するという意味だ。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の脳神経科学者Earl Miller教授によると、一見マルチタスクに見える場合でも、「1つのタスクから次のタスクに迅速に切り替えているだけ」なのだという。そして切り替えて新しいタスクになるたびに"認知コスト"がかかっているという。「常時タスクを切り替えることは、脳に悪い習慣をもたらす」と指摘している。

「メールを書いて送信ボタンを押す」「ツイートを投稿する」などの小さなタスクを終えると、脳内ではわずかながらドーパミンが放出される。脳はドーパミンを好み、われわれはこのドーパミンを得るために小さなタスクを切り替えて瞬時の満足を得ようとする。

しかし、これは「危険なフィードバックループを作り出している」と記事は警告する。達成したと思いがちだが、実は大したことをしていないからだ。実際、中毒のようにTwitterやFacebookをチェックする人がいることも報告されている。

マルチタスク"対策"とは?

このようにマルチタスクは実際に不可能だし、それを試みることが悪影響を及ぼしかねないだけでなく、品質が下がるというのが後者の内容につながる。上の説明から想像がつきそうだが、マルチタスクを試みるとアイディアを組織化したり、情報を整理したりすることが難しくなり、結果的に効率は悪くなり、品質にも悪影響を与える。

ロンドン大学の調査によると、認知的作業をマルチタスクで行った人はIQが著しく下がったという。その度合いは、徹夜明けと同じぐらいだったとのことだ。ストレスが関係あるコルチゾールの分泌が増えることもわかっており、脳はかなり疲れてしまう。

最悪の作業はメールだ。受信ボックスにある未読メールを確認し、その間に入ってきたメールの件名を見るなどのマルチタスクはわれわれのIQを大きく(10点程度)下げるという。電子メールだけではない。緊急性のあるスマートフォンのテキストメッセージ(SMS)やSNSのメッセージングはもっとよくないとのことだ。

効率化、そしてストレス対策のためにも、電子メールをチェックする時間を決めるなどの対策を講じよう。時間の感覚はできる限り空けたい(記事では1日3回としている)。メッセージング系は、作業中はオフにするなどの工夫をしたい。

英サセックス大学の調査によると、複数の端末を同時に利用する(スマートフォンでメッセージをしつつTVを視聴するなど)人の脳のMRIスキャンからは、前帯状皮質のタンパク質の密度が低いことがわかったという。前帯状皮質は共感や感情などの認知機能や自律機能に関係していると言われている部分だ。

このように、「マルチタスクを人間がやるのは百害あって一利なし」と言えそうだ。