米Dellは6月30日、女性起業家に関するレポート「Global Women Entrepreneur Leaders Scorecard」を発表した。日本を含む31カ国における女性起業家の現状を分析・評価したレポートで、日本は100点満点中49点の10位となった(スペイン、ジャマイカと同順位)。

10/31という数字は決して悪くなさそうに見えるが、その一方でスコアリングが満点の半分にも至らない事実もある。日本の課題は何か、Dell出資のもと、同レポートを作成したジョージ・メイソン大学で博士号を持ち、ACG創業者兼CEOのRuta Aidis氏に話を聞いた。

女性起業家のタイプは3つ

ACG創業者 兼 CEO Ruta Aidis氏

このレポートはDellが3年前からAidis博士とともに年に一度作成しているレポート。女性起業家の現状をデータにより示すことで、各国の政府などの当局や産業界による課題の認知を促すことを目的とする。31カ国で世界の女性人口の70%をカバー、これらの国のGDP総額は世界のGDPの76%を占める。

レポートは、毎年Dellが主催する女性起業家イベント「Dell Women's Entrepreneur Network Summit 2015」で発表された。今年のイベント開催地となったドイツ・ベルリンの会場で、Aidis博士は3回目となるレポートのポイントを説明した。

これまでは数値やスコアの提供にとどまってきたが、今回の特徴は「単なるアウェアネス(意識)の喚起から一歩踏み込み、この現状からどのようなアクションをとれるのかのアクションステップの提案も行なった」とAidis氏。女性起業家はヘルスケアのTheranosを立ち上げたElizabeth Holmes氏などの成功例が出てきているが、まだまだ課題は多い。

例えば、Jessica Alba氏が立ち上げたベビー用品のECサイトThe Honest Companyなどもあるが、「セレブなのでリソースにアクセスできるものの、他の一般の女性にはこのようなメリットはない」(Aidis氏)。このような特権階級にある起業家(グループ1)のほかには、成長の可能性を追求し潜在性のある起業家(グループ2)が成長国で生まれつつある。

そして最も多いのが、途上国で見られる女性起業家で、生活のために起業し、成長を考えず、そのノウハウを持たない消極的なビジネスオーナー(グループ3)の3種類に大別できるという。

これらの問題をすぐに解決できる「万能薬」は存在しない。全体的なアプローチが必要とはAidis氏の弁。そこで、

  1. ビジネス環境

  2. リソースへのアクセス

  3. 女性のリーダーシップと権利

  4. 起業家パイプライン

  5. 潜在的な起業家リーダー

の5つのカテゴリから31カ国を評価した。

その結果、総合トップは米国、次いでカナダとオーストラリアが2位となり、4位スウェーデン、5位イギリスとなった。日本は北アジアではトップの10位だが、課題が多い。

日本の問題点は?

女性CEOの比率をみると、米国ではS&P500インデックスの企業で4.6%を女性が占めており、上級管理職は21%、取締役会の肩書きを持つ女性は19.2%となっている。また、総合15位の中国でもCEO比率は5.6%となっている(McKinsey データより)。

翻って日本を見ると、日経225インデックス企業における女性CEOはゼロ。上級管理職についても日本は8%と他国(ロシアの40%、ポーランドの37%、ジャマイカの35%など)に比べると格段と少なく、取締役会も3.1%と韓国の1%の次に低い。

日本がそれでも10位にランクインした理由は、1つ目に挙がった「ビジネス環境」で高い評価を受けているためだ。

日本の順位は10位と決して悪くないのだが……

ビジネス環境は、研究開発への投資、イノベーションエコシステム、資本、競争を重視する市場などから割り出すものだが、日本はこのビジネス環境、高い教育レベルなど素地はそれなりに整っている。

「ビジネスの成長が簡単で、新規事業参入障壁も低い。大学と企業の連携もあり、インターネットや教育へのアクセスが整っており、雇用均等法もある」とAidis氏は日本の状況を評価する。

一方で、起業家創出につながる「起業のためのパイプライン」は、31位の最下位に。

日本では女性の75%が就労しているが、上記のようにリーダー的立場にある女性となると少ない。また、起業マインドの低さも指摘されている。なお、これは女性だけの課題ではなく、「男性も起業するというマインドが少なく、ビジネスをスタートするチャンスをあまり見出していない」とレポートは日本を評価している。

総合的に、「ビジネス環境は強いが、女性にスキルがないこととビジネス創出の機会を感じていないことが課題」とAidis氏は分析する。安倍政権になり女性の就労支援に関連したイニシアティブが取られつつあるが、女性が働く意識を損なわせるといわれる"税制の改革"も必要だとレポートでは指摘している。

日本のビジネス環境の改善に必要な要素とは?

日本へのアクションステップとしてAidis氏が提案するのが、公共調達で女性がトップを務める企業の比率を設けることだ。

「公共調達はGDPの10~15%を占める重要な市場だ。米国では女性企業の比率を設けており、これが企業の成長を支援している。政府が女性を支援しているというメッセージをもっと明確にすべきだろう」(Aidis氏)

女性リーダーを増やすという点でも、英国ではじまった「30%Club(取締役会における女性の比率を30%にする)」など自発的な動きがあると紹介した。

なお、Aidis氏がDWENの前である5月に来日した際、女性経営者のための一般社団法人エメラルド倶楽部代表理事の菅原智美氏ら4人の女性起業家や経営者が募ってラウンドテーブルが開催された。

その際、集まった4人の中からは、「日本の女性は受け身」「学校教育にビジネススキルの獲得が含まれていない」「昇進すると叩かれる」「働いている女性が退社すると周囲が文句をいう。このようなコメントを聞くと未婚の女性は働くか家庭かしか選択するしかないと思うのでは」「転職をもっと簡単にすべきだ」といった課題が提起されたとしていた。