ネットワークで眼に物をみせてやる

質疑応答では、記者団からスプリントの経営に関する様々な質問が寄せられた。プレゼンにおいて「ソフトバンクが日本市場で他社を追い抜いた方法で、アメリカ市場でもスプリントの業績を改善させていく」と宣言した孫氏に対し、ある記者は「ソフトバンクの業績は、iPhoneがあったから回復できたのではないか。ノウハウだけなら、他社も追随するのではないか」と質問した。

これに対し、孫氏は「iPhoneがソフトバンクに来たのは、我々がボーダフォン・ジャパンを買収した数年後。その頃すでに営業利益は好転しており、純増もNo.1になっていた。iPhoneが業績を回復させたと解釈されるのは、いささか事実と異なる」と反論。また、業績回復の施策については「細かなノウハウがたくさんある。確かに他社が表面的に一部だけ真似することはできるが、他社とは違う成果を出せる。これに加えて、スプリントでは2.5GHzの周波数帯の電波を120MHz幅で持っている。これは他社が持っていない圧倒的な量の電波。これが武器になる。使い方には工夫が必要だが、上手に使いこなす方法がある。これを利用することで、他社が真似しにくい構えをつくれる」と自信をみせた。

記者団からはネットワークに関する、より突っ込んだ質問も相次いだ。孫氏は、ネットワーク強化の具体的な施策について「スプリントの次世代ネットワークのキーワードは2.5GHz。他の電波と比べると距離が飛ばない特性があるので、数をたくさん打つ。スプリントでは幅を120MHz分持っているので、圧倒的な数の弾を打てるように設備を整えていく。数打ちゃ当たるということ」と解説している。

「当初、アメリカにいない我々が日本からあまり細かく口出しをしすぎるのは良くない、と遠慮している部分があった」と孫氏。しかし「スプリントのエンジニアが提案してきたのは、巨額の設備投資が必要な、5年の月日がかかる、他社に追いつくためのネットワークだった。決して、他社を上回る設計になっていなかった。これでは実行する前から答えが見えている。それで我慢できなくなり、僕がチーフ・ネットワーク・オフィサーになった。代替案として、設備投資を大幅に圧縮させた、2年で終わらせる、他社をぶっちぎれるネットワークを提案した。本格的な改善はこれから」と解説。「少なくとも、現状のスプリントのネットワーク設計は私の手がけたものじゃない。でも、これから展開するのは俺の設計。眼に物をみせてやる、くらいの気持ちで取り組んでいる」と笑った。

業績を2年で改善させると語った孫氏に対して、ある記者は「2年でスプリントの再建を終えるという意味か」と質問。これに対して孫氏は「大幅な改善が認められるのが2年後という意味。いまは材料を集めている段階で、1年後には建設が始まる。2年後には7、8割の建設が終わる。お客さんにも成果を実感してもらえると思う。そこから先も毎年改善していき、いずれは他社を抜く」と回答した。

「スプリントを買いたい、という他社からの問い合わせはあるか」という質問には「あまり買いたいという申し出はない。世の中の大半の人は、スプリントは大丈夫か、と思っているのではないか」と苦笑い。しかし、続けて「買いたいって話は来てないけど、売りたくはない」と強気の表情もみせていた。