昨日から掲載を開始したレポート「事例から見る動画活用の可能性」では、3回にわたり、顧客のデータに基づいてOne to Oneで動画コンテンツを再生する「パーソナライズド動画」の活用事例とその優位性を紹介していく。

前回は、動画活用の難点とも言えるだろう「内容の検索性の低さ」は、顧客のニーズや関心に沿った(パーソナライズされた)動画の活用によって解決できるのではと述べた。

今回は、パーソナライズド動画のCRM(顧客関係管理)領域における活用事例を紹介したい。

事例1 : 米AT&Tのvideo bill

2012年、米国の電話・通信会社となるAT&Tが、米SundaySkyの提供するソリューションを利用して配信した「請求金額の説明動画 (video bill)」は大きな話題を呼んだ。

この動画は、IPテレビサービスU-verseの契約者に対し、最初の2回の請求時に送ったもの。複雑な請求の明細を分解し、それぞれの項目の意味を説明しながら金額を表示している。

同動画に関する顧客満足は非常に高く、ある調査では9割以上が満足と答え、コールセンターへの請求に関する問い合わせも大きく削減することができたという。

AT&Tが配信したvideo billのイメージ

事例2 : Atlantis Paradise Islandの予約者向けコミュニケーション

Atlantis Paradise Island (以下、Atlantis)とは、バハマ諸島にある巨大な高級リゾート。Atlantisは、リゾートを予約した顧客対し、予約1~3日後と到着30日前、到着1週間前の3回メールを送り、パーソナライズド動画で施設の案内やオプションサービスを紹介することで顧客の期待感を高めるとともにクロスセル、アップセルを促進している。

例えば予約1~3日後の動画では、豪華な施設を詳しく紹介する綺麗な映像と、予約したプランやアトラクションを紹介するほか、レストランの案内が流れる。同動画には予約ボタンが表示されるため、そのまま予約できる仕組みだ。

また、イメージ動画部分は、対象者に合わせて、ファミリー向けやカップル向けという具合に出し分けを行う。

Atlantis Paradise Islandが配信したパーソナライズド動画のイメージ

さらに、到着30日前の動画では追加アトラクションを、1週間前の動画では部屋のアップグレードをそれぞれ訴求。これらはすべて、施設やアトラクション紹介の映像と共に紹介されていく。

Atlantisによると、同動画の利用により、旅行申し込みの時点で発生する金額が13%増加したほか、到着後も含む旅行全体では9%利用金額が増加したという。

事例3 : 大和ハウス工業のパーソナライズド動画 (国内事例)

これまで、日本国内にてパーソナライズド動画の活用事例はほとんど見られなかったが、2015年4月に住宅メーカーの大和ハウス工業(以下、大和ハウス)がパーソナライズド動画によるプロモーションを実施し、いくつかのメディアで紹介された。

同社は4月下旬、ゴールデンウイーク期間中における住宅展示場への来場促進を目的として、「TRY家コラム」のメルマガ会員にメールを送信。

メールの件名は「【大和ハウス】○○様だけの動画を配信 ! ぜひご覧ください」と記載されていたほか、メール中の画像をクリックすると受信者ごとの動画再生ページが開き、モデルハウスを映した動画が再生される。

苗字と都道府県を音声合成で差し込み、最寄りの住宅展示場を案内

このモデルハウスの表札や途中に表示されるテキスト(○○さまの家づくりの進捗はいかがでしょうか?といった具合)には、受信者それぞれの苗字が差し込まれる。

また、ナレーションは、冒頭の挨拶「○○さま、いつもメールマガジンをご覧いただきありがとうございます」のほか、途中で二回、名前(苗字)が呼びかけられる仕様だ。

大和ハウス工業のパーソナライズド動画のイメージ

この動画では最後に、「○○さまがお住まいの○○県の展示場のご案内をさせていただきます」というナレーションと共に受信者の居住地に合わせた住宅展示場の紹介画像が表示される。「○○さま」と「○○県」の部分は音声合成によってデータから生成されているが、実際に見てみると不自然な印象はない。

視聴者の1.7%が来場

この動画は、日本で開発されたパーソナライズド動画サービスを提供するlivepass社の仕組みを利用して配信されたもの。

「動画視聴者のうちの80.3%が、最後に住宅展示場が表示される部分(60秒の動画のうち、56秒以降)まで閲覧しており、複数回見ている人も多くいました。住宅展示場サイトのアクセス数は、メール配信時に通常より3割増加し、GW期間中には動画視聴者のうち1.7%が実際に住宅展示場に来場しました」と語るのは、大和ハウス 総合宣伝部 東京センター事業販促企画室主任の小林高英氏だ。

同氏は「初めてのトライアルで時間も無かったため、パーソナライズの仕様も最低限でシンプルなものになりました。しかし、8割もの人に最後まで閲覧いただくことができ、とても驚きました。来場促進の効果も大きく、費用対効果も高かった。また、パーソナライズしたことにより、営業の応対も丁寧だと想像できるというご意見もいただき、企業に対する好感度も向上させる効果もあったのではないでしょうか」と手応えを語っている。

これは、国内では数少ない事例の1つだが、今後より活発化していくのではと筆者は見ている。次回(最終話)では、パーソナライズド動画のWeb広告としての活用やインタラクティブ機能について紹介しよう。

著者紹介

岡本泰治

株式会社ディレクタス 代表取締役。リクルートを経て、1993年にディレクタスを設立。以後一貫してデータベースマーケティングに携わる。航空会社や自動車メーカー、総合電機メーカーなど大手企業のEメールマーケティング戦略を立案したほか、2012年よりBtoC向けマーケティングオート メーションの導入・運用を開始。クロスチャネル One-to-Oneマーケティングの戦略立案から実行までを支援する。著書に「ケースで学ぶマーケティングの教科書」(出版社 : 秀和システム / 出版日 : 2008年2月)がある。