この製品分けは非常に面白いと思う。もしRenesas SynergyシリーズがMCUのみで提供された場合、それは既存のCortex-MベースのMCUを提供しているベンダーとの喰い合いになる。それどころか自社のRX/RLシリーズとも間違いなく喰い合いになるだろう。ところがThreadXとのパッケージで提供することで、Cortex-Mを使いつつも実際は「ThreadXが利用できる汎用プラットフォーム」というポジションで製品を提供することになるからだ。

実はこのRenesas Synergyシリーズの企画は日本ではなくアメリカサイドから出たものらしい。アメリカではThreadXが広範に使われており、実際ルネサスも幾つかの製品でExpress Logicと提携している(例えばコレ)。もちろんThreadXはルネサス専用な訳ではなく多くのMCU(もちろんCortex-Mもそこに含まれる)をサポートしている( http://rtos.com/products/threadx/ の左ペインを参照)から、逆にここで使いやすいMCUパッケージを提供することで、より多くのThreadXを採用する開発者を集めたいという意図であると思われる。また国内に関して言えば、ThreadXそのものがμiTRONとのCompatible Kitを提供しており、これを利用する事でμiTRON採用の開発者を集めたい、という意図もあるようだ。

ただ、では例えばARMの提唱するmbed OSとか、OICやAllSeenなど、IoT向けには多くの標準規格が存在している。こうしたものへの互換性は? と確認したところ、それにあたるのがPhoto08に出てくるAdd-Onだという話だった。Photo08でSSPの脇にグレーで記されているBSPやVerified Software Add-Onがこれにあたる部分で、例えばmbed Deviceの振る舞いをするようなAdd-Onを提供すればmbed Device Serverとかに繋がるし、OIC(になるのかIoTivityになるのかは不明だが)のClientにあたるAdd-Onを用意すればOICに接続できることになる。これはデバイスも同じで、S1~S7のRenesas SynergyプロセッサそのものにはWireless Connectivityが入る可能性は少ないようで、これは外付けの形で接続することになる。現時点ではどんなサードパーティが何を提供するか、に関してはまだ水面下で色々やっている状況で発表は出来ない(これが発表されるのは10月のRenesas Devconだろう)との話だが、こうしたデバイスはサードパーティがBSPやVerified Software Add-Onを提供する形になるとする。こうした拡張の余地があらかじめ用意されているという話であった。

現状はどちらかというとコンセプトの発表に近いので詳細はまだ未公開(というか未定)であるが、面白い形でのソリューション提供に踏み切ったな、というのが正直な感想である。当面の主戦場はアメリカと思われるが、国内ではどんな形でこれを普及させてゆくのかちょっと楽しみである。

Photo13:Renesas Synergyプラットフォームの特徴

Photo14:Renesas Synergyプラットフォームのルネサスにおけるポジション