具体的に提供されるものがこちら(Photo08)である。先ほどPhoto07で「完全かつ品質認証されたプラットフォーム」とあったが、この品質認証とは何かといえば、機能と性能、テスト条件が明示されるということである。面白いのは、このうちBSPあるいはHALドライバに関しては、ソースコードの形で提供され、必要なら開発者が手を入れることも可能とされている点だ。もちろん手を入れたものに関してはサポート対象とはならないのだが、逆に何か袋小路に陥った場合はそこを元に戻せば再びサポート対象となるわけで、そこから開発をリスタートできる形だ。

Photo08:逆にThreadXそのものやミドルウェア/スタック、アプリケーションフレームワークなどはがっちり作りこむので、そこには手を入れられないという話だった

さてこのSSPが動作するハードウェアプラットフォームとしては、S1~S7までの4種類のMCUが提供される。利用されるコアは冒頭に述べた通り、Cortex-Mシリーズで、具体的にはCortex-M0+とCortex-M4であるとする(Photo09)。S7はCortex-M7かと思ったが、今のところCortex-M7に関するプランは無いとか。またCortex-M3を採用する予定は無いとの事で、当面はこの2つの組み合わせになるだろう。まだ詳細は発表されていないが、恐らくS1/S3はCortex-M0+、S5/S7がCortex-M4で、S7のみが40nmプロセス(他は130nmプロセス)というあたりではないかと思う。Photo07にあるように、ピン互換とスケーラビリティが確保されるというのも特徴である。

Photo09:S7はここには300MHzとあるが、実際には当初想定されているのは最大240MHzとか

では、先ほどのPhoto05の問題がRenesas Synergyシリーズでどう解決されるか? まずは開発期間の短縮である(Photo10)。これは、単なるBSPのみならずRTOSのポーティングやスタック/ミドルウェアまで提供されているから、システムコードの開発は最小に抑えられる事になる。同社はこれによって短縮された開発期間を、さらなるイノベーションに振り分けて欲しい、としている。

Photo10:0にならないのは、必ずしもルネサスが提供する基本的なパッケージですべてが解決されるとは限らないからだが、これは後述

2つ目がTCOの削減。同社に言えば、いわゆるBOMのような目に見えるコスト以外に、ソフトウェア的な隠れコストが馬鹿になっておらず、これの削減が強く求められていたとする(Photo11)。Renesas Synergyではこの隠れコストに当たる処理をルネサス自身が分担することで、相対的に隠れコストの削減に繋がる、というものだ(Photo12)

Photo11:これは当然何を想定するか、という話もあり、素でMCUを買って来て、それを自身でRTOSを移植するようなケースを考えればこれは大きいが、MCUメーカーが提供しているRTOS(例えばFreescaleのMXQ)をそのまま載せるなんてケースではそう大きくは無いと思われる

Photo12:もちろん開発者自身も製品で確認の必要はあるから0にはならないが、サポートコストを削減できる、という話である

最後が開発障壁の削減である。ここで出てくるのが、先ほどPhoto07で出てきたGalleryである。敢えて言えばこれはmbedのDeveloper siteに近いものと考えるのが判りやすい。これはmbed OSの話ではなく、すでに広く使われているプロトタイプボードとしてのmbedの方だが、これを使う場合はまずmbed.orgにmbedボードを登録すると、オンラインのIDE経由でそのボードを使っての開発が可能になる。ここでさまざまなサンプルコード、あるいは他の開発者が作成したプロジェクトなどがImportできるし、コミュニティ経由で質問をすることも出来る。Galleryは似たような形で、ここでSynergyプロセッサを登録すると、以後はそのプロセッサ用に開発環境やサンプルコードなどを入手できるようになるとする。またさまざまな開発キットが提供され、これで参入障壁を少しでも下げよう、という働きかけである。というか、提供される環境は、mbedのそれを非常に参考にした節がある。

こうなってくると、では既存のMCUのラインアップとの整合性は? ということになる。これに対して葛西氏は「IoTという世界は広いので、例えばギリギリまで消費電力を削りたいといった用途は無くならないし、こうした用途向けには引き続き従来のRX/RLシリーズを提供し続ける」とした上で、端的に言えばMCUが何をベースにしているかなどに拘らない様な用途向けにRenesas Synergyシリーズを提供する、としている。