実は過去にも同様の原因で失敗していた

原因が明らかになったのは今回が初めてではあるものの、過去の打ち上げでも2回、今回と同じ原因で失敗が起きていた可能性があるという。

プラトーンMを開発したフルーニチェフ社のアリークサンドル・ミドヴェージフ氏がタス通信に語ったところによると、その1回目は1988年1月18日の失敗で、今回事故を起こしたプラトーンMのひとつ前の世代にあたるプラトーンKロケットが、第3段の不調で墜落している。このときはデータ不足で原因を完全に究明することができず、製造ミスということで調査が終わっている。

2回目は2014年5月16日に起きた失敗で、このときはRD-0214のターボ・ポンプと、RD-0213との接合部が破損したことによって異常振動が発生し、ガス・ジェネレーターの燃料配管が破損したために失敗したとされ、当時その原因は、製造段階でのミスであると結論付けられていた。

イヴァーナフ氏によると、それ以前に起きた失敗が、部品の取り付け間違いや燃料の入れ過ぎなど、製造や組み立ての段階で起きていたため、今回も同様の原因だろうという思い込みが働いたことは否めないとしている。

また、2014年の事故調査の際にも、ローター・シャフトの設計ミスではないかとする説が候補に挙がっていたものの、当時は証拠が不十分であったため断定はできなかったとされる。そこで事故後に製造されたプラトーンMのRD-0214のターボ・ポンプに、新たに振動センサーが取り付けられることになったのだという。つまり関係者の間では、あらかじめ目星は付いていたということだ。

また同種のセンサーは昨年の失敗時にもロケットに装着されていたが、そのときはくだんのターボ・ポンプから離れた位置にあったため、本当の原因を特定するには至らなかったとされる。

イヴァーナフ氏は、今回本当の原因が特定できたのはこのセンサーのおかげだ、と語っている。

品質管理にも問題が見つかった

さらにロスコースマスの発表によると、今回の事故調査を進める過程で、品質管理に関する問題が広い範囲で発見されたともしており、今後1カ月以内に、それらの問題を解決する手段を講じるとしている。

これはかなり衝撃的な事実だ。前述のように、これまでもプラトーン・ロケットは、品質管理の問題で失敗を起こしたことが何度かある。その都度、チェック体制の見直しから果ては責任者の更迭まで、さまざまな対策を取ることが発表されてきたが、結局のところそれらの対策がさほど役に立っていなかったか、あるいは実行すらされていなかったということになる。

今回の事故とは直接関係はないとされているが、こうした状況であったなら、設計ミスの問題がなかったとしても、遅かれ早かれ打ち上げに失敗することになっていたであろう。

5月29日に開かれたロスコースマスの記者会見の様子(C)Roskosmos

本当に設計ミスなのか

ところで、今回の「設計ミスである」という結論には、いくつかの疑問が残る。

プラトーンは1960年代に開発され、第3段を搭載したプラトーンKの初飛行は1967年のことだ。もし本当にイヴァーナフ氏の言うとおり設計ミスが原因であったなら、この欠陥はプラトーンが開発されてから今日に至るまで、実に半世紀もの間潜み続けてきたことになり、にわかにか信じにくい話だ。もっとも、短期間に何千、何万もの個数が製造される他の工業製品とは違い、プラトーンは全シリーズ通して約400機しか製造されていないため、まったくありえない話というわけでもない。

もうひとつの疑問は、その対策にある。前述のように、今回の事故を受けて「ターボ・ポンプのローター・シャフトの材料を変更」、「ターボ・ポンプのローターのバランス技術を改良」、そして「RD-0214のターボ・ポンプと、RD-0213との結合方法を改良」という、3つの対策を採ることが発表されている。このうち、材料の変更と結合方法を改良の2つについては設計ミスを修正する対策として納得できるが、バランス技術の改良はそれと相成れない。

バランス技術というのは、高速で回転するターボ・ポンプのローターの軸振動を解析し、それを抑えるために修正(アンバランス修正)を行う技術のことだ。ロケット・エンジンだけではなく、例えば発電所で使われるガスタービンや航空機のジェット・エンジンなどのローターをはじめ、高速回転する部品がある機械であれば広く一般的に行われていることである。

こうした部品は、どれだけ設計書通りに造ったとしても、個体によってバランスに差は生じてしまうものなので、それを修正する過程は必要不可欠であり、それを改善するということは、設計を見直すということではなく、製造段階における検査のやり方を見直すということになる。つまり、本当に設計ミスであったならバランス技術を改良する必要はなく、逆に言えばバランス技術を改良するということは、設計ではなく、製造や検査の段階でミスがあった可能性を示している。

実は、ロスコースマスが今回の発表を行うより前の5月25日と28日に、タス通信は「今回の事故原因は、製造、組み立て段階におけるヒューマン・エラーが原因でほぼ間違いない」とする、匿名の関係者の証言を報じていた。ところが、ロスコースマスはまるで正反対の原因であると発表した。これは非常に奇妙な話だ。もっとも、タス通信の記事が誤報である可能性や、証言した関係者が間違っていた可能性なども十分考えられる。

しかし一方で、「設計ミスであった」と明言したイヴァーナフ氏が間違っている可能性は考えにくい。イヴァーナフ氏はリニングラート航空大学を卒業し、ソ連地上軍(陸軍)に入ってプリセーツク宇宙基地に務め、その後新設されたロシア宇宙軍にも在籍し、2012年には衛星開発の名門ISSレシェトニェーフ社の重役も務めた経歴を持つ、技術についてよく知る人物である。したがって、彼の「設計ミスであった」という証言は、十分な根拠があるはずだ。

現段階で明らかにされている情報から、これ以上のことを推測するのは難しい。今後新しい情報が出てくれば、またこちらでご紹介したい。

(続く)

参考

・http://www.roscosmos.ru/21511/
・http://tass.ru/kosmos/2006055
・http://tass.ru/en/russia/797713
・http://www.russianspaceweb.com/mexsat1.html
・http://spaceflightnow.com/2015/06/01/
roscosmos-design-flaw-brought-down-proton-rocket/