要は、前回、前々回で紹介してきたカーナビ用および歩行者用の地図データは人が利用するためのものだが、高精度空間データベースは車載コンピュータが利用するためのものである。

もう少し詳しく説明すると、ADAS機能とは4つの要素がつながって1つの流れとなっている。4つの要素とは、(1)見えにくいものを見えやすくする「知覚拡大」(運転行動としては「認知」)→(2)注意すべきことを伝えて状況理解を支援する「注意喚起」(運転行動は「判断」)→(3)回避操作を促す「警報」(運転行動は「操作」)→(4)ドライバーに代わって回避操作を行う「制御」(運転行動は「回避」)であり、(4)まで行ったらまた(1)に戻って繰り返す仕組みだ。詳しくは画像8「運転行動とADAS機能の関連図」を見てほしい。

画像8。運転行動とADAS機能の関連図

その中で、地図(高精度空間データベース)の役割は3種類の情報提供とするものである。1つ目は自車の位置を特定するためのもので、2つ目は自車の動きを予測するためのもの、そして3つ目が他車の動きを予測するためのものだ。

それではまず、自車の位置を特定するための情報提供で高精度空間データベースがどのように役立つかという点から触れていこう。自車の位置を正確に知るには、まずどのレーンを走行しているかという特定が不可欠となる。GPSがあれば問題ないように思う人もいるかも知れないが、日本版GPS衛星の準天頂衛星が最終的な7機体制(2025年までに実施の予定)になったとしても、場所によってはどうしても誤差が発生する可能性がある。より正確に自車位置を特定するには、現実世界を整備した高精度空間データベースが必要というわけである。

次に自車の動きを予測するための状況提供だが、どれだけ優秀なセンサが多数搭載されていても、見通しの利かないカーブの先にある交差点を右左折するといった状況の時に、カーブを曲がってから周辺環境情報を取得して判断して大急ぎで車線変更を促して……などとやっていたのでは車載コンピュータへの負荷が大きいし、そうした状況に対応しようとするとコストの増大にもつながる。しかも、このタイミングでの指示ではドライバーも慌てるのでその結果、事故につながる可能性すらあるというわけだ。

それが、あらかじめ地図データによってカーブを曲がった先の交差点があるという情報をクルマが知っていれば、余裕のある段階から車線変更を促すことが可能である。地図データを持つことで、クルマがその場その場で判断する情報量が大きく減り、結果としてシステムの負荷が減り、コストの削減にもつながるのである。さらに自動運転になったら、住所などを選択して目的地を設定したら、そこに向かうためには確実に地図データが必要なのはいうまでもない。