京都大学は7日、近視、強度近視の発症に関わる遺伝子変異が同大学大学院医学研究科の山城健児講師と吉村長久教授らによって発見された、と発表した。

この遺伝子変異は、22番染色体中の遺伝子の一つであるWNT7Bの中に見つかった。吉村教授は「日本人の2、3人に1人が近視で、そのうちの5%程度の人は強度近視といわれている。近視を確実に予防する方法はなく、今回の研究成果は近視の発症原因を探るための第一歩となる」と語っている。

この研究成果は、市民と研究者の強い連携によって生まれた滋賀県長浜市民を調査対象とするコホート研究「ながはまコホート」によってもたらされた。研究チームは9,800 人のデータを解析することによって、WNT7B 遺伝子にみられた変異(一塩基多型=SNP)が近視の発症に影響していることを突き止めた。さらに 1,000人の強度近視患者のデータを解析したところ、強度近視の発症にも関わっていることも分かった。また、動物実験で角膜と網膜の細胞が出す WNT7B の量が、近視発症時に変化することも確認されたという。

ながはまコホートは、京都大学大学院医学研究科が予防医学のさらなる発展には、遺伝子をはじめとする健康に関する諸々の情報を、まとまった集団で追跡調査するゲノムコホートが不可欠と考えたことに端を発する。調査対象地域として、2005年ごろ長浜市に協力を呼びかけた。長浜市が選ばれたのは、人口移動が比較的少なく、10年、20年続けて同じ人を追跡調査するのに適していることと、市民による献血運動など伝統的に地域活動を重んじる地域であることが評価された。

コホート研究は、被ばく者の健康影響調査など大人数の対象者を長期にわたって観察し続けないと影響が分からない調査に不可欠な研究手法とされる。多額の費用を要するほか、得られた個人情報が研究目的以外に使われないようにする厳しい管理、さらには対象者となる市民の理解を得るための協議など丁寧な事前準備も必要となるなど、実施に当たっては多くの困難が伴う。

ながはまコホートは、欧米に比べこの分野の研究が遅れていた日本では先駆的な取り組みとして知られる。科学技術振興機構の社会技術研究開発事業や戦略的創造研究推進事業にも採択され、「ながはまルール」と呼ばれるゲノム疫学研究のルールを研究者、医師、市職員、法律専門家、長浜市民代表の協力で策定するなど、着実な実績を積み重ねている。