日本アニメーター・演出協会(略称:JAniCA)は、日本で制作されているアニメーション業界関係者向けのセミナー「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)『ペーパーレス作画の現状と未来予測』」を開催した。本稿では、すでにデジタル作画を導入している企業/クリエイターによる講演の模様をお届けする。

「紙と鉛筆」で作られているアニメ、デジタル化の潮流は

政府による「クールジャパン」政策の登場を待たずして、日本独特の文化として世界的に知られるところとなったアニメーション作品。近年では、子供向けの作品だけでなく、大人も楽しめる深夜帯のTV向け作品も増加している。非常に多くの作品が日々生み出されており、制作工程のデジタル化が進められている。しかし、アニメーションの肝となる「作画部門」は、現在も文字通り"紙と鉛筆"によるアナログ作業が主流だ。

そんな状況の中、個別対応の向きが強いものの、「作画部門」をデジタル化する流れは確実に広がっていて、現場で働くクリエイターたちの興味・関心も非常に高い。同フォーラムの対象者は多忙な業界関係者に限られていたにも関わらず、一時入場制限を行うほどの満員御礼であったことも、その裏付けと言えるかもしれない。

デジタル作画で"線画の味"はなくなる?

今回のイベントでは、デジタル化にすでに取り組んでいる企業・クリエイター3者が登壇し、現状や課題などを思い思いに語った。本稿では、テレビアニメを中心に多数の作品を手がけるアニメーション制作会社「旭プロダクション」の事例を中心に取り上げていく。

デジタル動画の環境はセルシスの「RETAS STUDIO」についてくるStylos(スタイロス)。あわせてセルシスの「CLIP STUDIO PAINT PRO」をレイアウトの際に使っている。これはアナログ作画の動画スキャンデータ(左)と、デジタル作画のデータ(右)を比較しているところ

約5年にわたってデジタル作画を取り入れてきた同社。2010年にデジタル導入を開始し、それと同時に完全デジタル制作を行う地方スタジオ(宮城白石スタジオ)を設立した。そのスタジオ名から分かる通り、東日本大震災などによる被害を受けてしまった過去もあるが、デジタル作業のノウハウを身につけた原画スタッフが育ちつつあるという。

デジタル作画を導入すると聞くと、描き手の側から見た変化にフォーカスが行きがちだが、実は「描く」工程ではなく、その後の「仕上げ」工程への影響が大きいという。完成形のアニメーションの線はなめらかにつながっているが、その状態は仕上げ担当者の修正によって実現している。視聴者が見ている状態に持って行くには、まず動画のスキャンを行い、スキャンデータの線が途切れた部分やアナログ画のスキャン時に発生する「ゴミ」を除去する作業が必要となるという。このあたりの作業は、アナログで下絵を描き、スキャンして着色するスタイルでイラストを描く人ならピンと来るかもしれない。デジタル作画の場合、はじめからソフト上で線を引くため、前述のような補正作業は省略できる。

また、スキャン時にどうしても発生しがちな線画の途切れがなくなることで、色塗りの際にはみ出しが生じないため効率化が図れる。実際、鉛筆画のスキャンデータとデジタルツール(「RETAS STUDIO」の付属ソフト「Stylos」)による作画データが並べて表示されたが、線の連続性はデジタル作画データのほうが上であった。加えて、アナログ作画の場合は紙の裏に書いてある影指定を参照しながら仕上げの担当者が塗っているが、デジタルの場合は別レイヤーに記載できるため、用紙を裏返す煩わしい手間がなくなり、こういった部分でも時短と作業者の負担減少が望めると語った。

デジタルデータで作られたモブ(群衆)登場の場面

こうした効率化による利点も多くある一方、同社が把握している範囲でも、現場のクリエイターから「デジタル作画に変更することで、手描きの線のニュアンスや"入りと抜き"の再現が失われるのではないか」と懸念の声があがっているという。その点に関して、現在のアナログ動画のスキャンデータを補正する段階でも、線を二値化(アンチエイリアスをかけない、白と黒のみの線に変換)する工程を通過しているため、非常に繊細なニュアンスについてはすでに失われていると考えているという。そして、何より作業者の工程省略による負担減は大切であると強調した。