日本アニメーター・演出協会(JAniCA)は、ワコムとセルシスの協力のもと、アニメ業界で働く人を対象とした『アニメーター・演出のためのデジタルツール勉強会(第2回)』を4月13日に開催した。ここでは、旭プロダクションで原画や動画を手がけるスタッフを講師に招いて行われた講座における、デジタル作画導入の経緯や、実際に使用している機材に関する解説を紹介する。
『アニメーター・演出のためのデジタルツール勉強会』は、近年、発展が目覚ましいデジタル作画ソフトやペンタブレットなど、デジタルツールの最新情報やその技術を学ぶことを目的とした講習会。内容は、デジタルツールを使いこなすための効率的なノウハウや、工程管理・デジタル作画導入に際してのコスト面を解説する講座と、ワコムとセルシスが提供するデジタル作画環境が体験できるワークショップの2部構成(1部は約2時間、2部は約1時間)となっていた。
デジタル作画導入の経緯・沿革と利点
講座で最初に登壇したのは、旭プロダクションの技術部に所属するシステムエンジニア・遠隔地事業担当者であり、元撮影監督の濱雄紀氏。濱氏は、今回の講座で司会進行役を務めるとともに、旭プロダクションがデジタル作画を導入した経緯や沿革の解説を行ってくれた。
濱氏によると、旭プロダクションがデジタル作画を推進する理由は、「良質アニメを作るための原動力を手に入れたい」という思いから。そのための「リソース=時間&労力&コスト」を追い求め、「デジタル作画」という手法が浮上してきたのは、つい最近とのことだという。実際に、旭プロダクションでは「東京本社」と「宮城白石デジタル作画スタジオ」でデジタル作画を導入しているが、その時期は2010年からなので、まだ4年目に入ったところだ。
導入当初は研究的な意味合いが強かったが、続けていく事で効率の良いワークフローや解決していない問題点などが明確になり、近年になってデジタル作画環境の構成要素が成熟してきたと判断できる段階に達したという。その構成要素としては、人材の成長と人数の増加、作業スタイルの研究が進んだこと、制作側の受け入れ態勢の構築が進んだこと、ネットワーク技術の進化、設備の低価格化、コスト削減に対しての効用が明確化などを挙げている。コストに関しては、紙で作画するよりも様々な面でコスト削減が明確化しており、その分のお金や時間を他の部分に注ぎ込めると語っていた。
プロの使用するデジタル作画のハード環境
講座は、前半に「レイアウト/原画セッション」が約1時間、後半に「動画セッション」が約1時間というプログラムだ。双方のセッションで使用された環境は、ワコムの液晶ペンタブレット「Cintiq 13HD」に、セルシスから販売されているアニメ作成ソフト「RETAS STUDIO STYLOS」と、イラスト・マンガ作成ソフト「CLIP STUDIO PAINT PRO」という組み合わせ。これは、実際のデジタル作画環境と同じ機材・ソフトウェアが揃えられている。
また、講座前半を担当した橋本航平氏の場合は、キーボードの代わりにロジクール製アドバンスゲームボード「G-13」を使用。同ゲームボードは、25個のキー一つひとつにショートカットキーなどを割り当てる事ができ、右手でペンタブレットのペンを握ったまま、左手のみでショートカット操作が実行可能なため、キーボードよりも効率が良いそうだ。なお、講座後半で講師を務めた鈴木理人氏は、「Razer Nostromo ゲーミング キーパッド」を使用しており、旭プロダクションでは左手でゲーム用デバイスを使用する環境がほぼ標準になっている。こうしたゲーム用デバイスとペンタブレットの組み合わせは、アニメーターに限らず、イラストレーターやフォトレタッチャーにも有効なはずだ。
ソフトウェアの画面は液晶ペンタブレットに表示しているが、PCにはサブモニタも接続されており、液晶ペンタブレットとは別途の画面を表示している。今回のセッションは、原画を描く際に見比べる対象としてキャラクターや背景などの設定画が表示されていた。実際のスタジオでもマルチモニタ環境を使用している人がほとんどで、最低でもふたつ、多い人では4つのモニタを使用しているという。
プロが使用するデジタル作画のソフト環境
デジタル作画で使用するソフトは、アニメ作成ソフト「RETAS STUDIO STYLOS」だ。セッションでも、白紙の状態からラフを描いて動画作成まで行っており、全行程を同ソフトだけで行う事も可能とのこと。しかし、旭プロダクションでは、イラスト・マンガ作成ソフト「CLIP STUDIO PAINT PRO」も導入し、「RETAS STUDIO STYLOS」と平行して使用されている。
「CLIP STUDIO PAINT PRO」を使用するのは、原画作成やレイアウトを切る作業で便利な機能が多いため。その一例として橋本氏は、消失点の場所や数を自由に設定できる「パース定規」を紹介している。「パース定規」を使用すると、フリーハンドでもパースに沿った直線を正確に引くことができ、パースに沿った線を2等分や3等分に切る場合も、定規などを使わずにグリッドの利用のみで行うことができる。実演では、机の絵や壁の窓枠などを短時間で描いていたが、同じ作業を紙で行おうとすると、消失点の位置確認や等分の計算などで、もっと手間の掛かる作業になるとのこと。
そのほか、今回の講師を勤めた橋本航平氏と鈴木理人氏の紹介や、原画から動画へ進む作業の手順、液晶ペンタブレットやペンタブレット筆圧感知に関する話題、各種機材やソフトの導入費用も解説されており、具体的な内容は次回の実演編で紹介する。