2015年から順次始まる予定のFM補完放送を前に、ラジオ聴取の機運が高まっている。FM補完放送とは、難聴対策や災害対策などのため、FM放送用の周波数(90.1M~95MHz帯)を使って、AMラジオ番組を放送する施策だ。ソニーが1月にFM補完放送対応の防水ラジオを発表するなど、メーカー側もラジオの聴取に新たな取り組みをみせる。

一方で、専用の受信機がなくともラジオを聴取できる方法もある。インターネット経由でラジオ番組を配信する、IPサイマルラジオサービス「radiko.jp」は2010年3月に実用化試験配信、同年12月に本格運用を開始した。2012年4月には月間ユニークユーザー(UU)数1,000万人を突破。2014年4月には、エリアフリー聴取が可能な初の有料サービス「radiko.jpプレミアム」をローンチし、着々とサービスの拡充を図っている。

radiko.jp

2015年で5年の節目を迎える「radiko.jp」は、今後どんな施策を考えているのだろうか。運営元であるradiko代表取締役の岩井淳氏に、 2014年の振り返りと2015年の展開を聞いた。

radiko取締役代表の岩井淳氏

――まずは、2014年のサービス状況を振り返っていかがでしょうか。

一番大きな出来事は、4月に「radiko.jpプレミアム」というサービスをローンチしたことですね。2015年1月で9カ月が経ちましたが、おかげさまでたくさんの方にご登録をいただき、ラジオにはまだまだ根強いファンがいることを実感させられております。当サービスを開始するにあたりご協力いただいた、すべての権利者の皆様に改めて感謝しています。

「radiko.jpプレミアム」というサービスについて説明しておくと、radiko.jpは、インターネット上で無料でラジオが聴けるサービスなのですが、関東の人は関東で聴取できるラジオ局だけ、というように、ユーザーが居るエリアによって聴くことのできる局が決まっています。

2014年にリリースした「radiko.jpプレミアム」は、このエリアを超えて、全国どこでも全国のラジオ局の番組を聴くことができる月額制のサービスです。地元で昔聴いていたラジオ番組を、東京に出てきても聴くことができる、というわけです。

radiko.jpプレミアムは、税別350円/月で、自分のいるエリアに関係なく全国のラジオ番組を聴取できる

――初の有料サービスでしたね。反響はどうだったのでしょうか。

当初は、「radiko.jpプレミアム」の登録者数が10万人に届けばな、という思いがあったんですが、おかげさまでローンチから3カ月後の2014年7月に目標の10万人に到達し、約9カ月を経た2015年1月では、15万人に到達しました。予想よりも、だいぶ早いペースで皆さまにご登録いただけたようです。

サービス開始当初のような高い増加率ではないですが、今でも少しずつ新規のユーザーに加入していただいて、数自体は増えていっています。もうしばらくは利用者が増え続けていくと思います。

――どういったユーザーが「radiko.jpプレミアム」を使っているのですか。

「radiko.jpプレミアム」のユーザーは、30代、40代の男性が中心です。もともと通常のradiko.jp利用者全体でも男性が7割と多いのですが、プレミアムユーザーでは約8割が男性です。利用デバイスはPC・スマートフォンの併用が最も多く、約5割を占めていますね。

また、もともとradiko.jpを使ってくれたユーザーが「radiko.jpプレミアム」に移行しているのですが、プレミアム会員登録後にはラジオ聴取の時間が約20分~30分ほど増えているのも嬉しいです。非常に活用して頂いているし、radiko.jpに長く接してもらっているので、有難いと思っています。

radiko.jpプレミアム登録会員の性別・年代別データ

実は「radiko.jpプレミアム」には、「ふるさとのラジオを聴きたい」、「エリア外のアイドルやアーティストの番組を聴きたい」などの他に、「地元のプロ野球のナイター中継を聴きたい」といった動機で登録された方もかなりいらっしゃるんですよ。それを把握していたので、野球のシーズンオフになると、会員の方も減っていくのかなと心配していたのですが、そういった影響はあまりみられませんでした。

有料で聴き放題のサービスなので、プロ野球の聴取がきっかけで登録された方も、他の番組を聴くんですね。こんな面白い番組があるんだなと楽しんでいただいて、プレミアムの良い面が浸透していると感じています。ラジオの自体のコンテンツに魅力があるので、聴いてみたら面白いな、と率直に感じてもらったんじゃないかと。

――radiko.jpプレミアムに何か課題はありますか。

先ほど登録ユーザー数が15万人に到達したと言いましたが、そうは言っても、まだ15万人、とも言えるんですよね。radiko.jp自体のユーザーは、1カ月のUU数ベースで1,200~1,300万人くらいの方に聴いていただいているので、そこと比べると、もう少し伸ばしていきたいと思います。

プレミアムでなく、通常のradiko.jpも、2010年のサービス開始から右肩上がりで進んできて、2014年4月にUU数1,365万人と過去最高のUU数を記録したのですが、今、ちょっと伸び悩んでいる部分があります。現在のradiko.jpの年代別聴取率は、30代・50代が約20%、40代が約30.7%と高いのですが、10代・20代はともに約10%強と、特に若年層の低さが目立ちます。この部分の解消が、2015年の課題だと思っています。

――課題となっている若年層のリスナーの増加について、具体的な施策は予定していますか。

まだ計画中で名称も決まっていないのですが、聴き逃しサービスといいますか、「タイムシフト」のような、放送が終了した番組を後から再聴取できるサービスを、できれば2015年内に提供したいですね。

もちろん、関係者や権利者のご理解を頂いた上でのローンチになるので、年内というリリース時期は社内的な目標値ですが。

――いわゆるタイムシフト機能ですね。ユーザーからも要望は多かったのでしょうか。

ユーザーからの要望は多いですね。「いつも聴いている番組をたまたま聴き逃してしまった」とか、「あの番組をもう一回聴きたい」とか。コアなラジオファンからの声ですね。きっと喜んでもらえると思います。

一方で、我々が、仮にタイムシフト機能としますが、タイムシフト機能で目指すのは、ライトユーザーの取り込みです。ラジオ番組を常に録音している人は稀ですから、放送後の番組が後から注目されることがあっても、実際にその放送を聴取できない。これは残念です。

例えば2014年の12月、福山雅治さんがニッポン放送の「福山雅治のオールナイトニッポン」で、夜放送のパーソナリティを卒業する、とコメントしたのですが、これがネットのニュースで大きく注目されました。

私もそのニュースを見て、「ああ、実際の番組を聴きたかったな」と思ったのですが、自宅でその番組を録音しているわけじゃない。すると、「ああ、そうだったんだ」で終わってしまいますよね。「来週もっと詳しく紹介します」とラジオで流れていても、「あ、来週やるんだ」とその時思うだけで、一週間後には忘れてるじゃないですか。そうすると、せっかくラジオが注目されているのにもったいないじゃないですか。

ラジオに触れたことのない人が、福山雅治さんが好きだから「へー、どんなの?」と興味を持った時、そこで実際のラジオを聴ければ、「ラジオの番組ってこんな番組なんだ」「オールナイトニッポンでこんな面白いことやってるんだ」というラジオ体験を、10代20代の若い人にも感じてもらえる機会ができる。これがradiko.jpを通じてのラジオリスナーの拡大につながって、ユーザー数の増加にもつながると思っています。

――岩井さんもそのラジオを聴きたかったと(笑)。ご自身はラジオをよくお聴きになるんでしょうか。

大好きですね(笑)。私は今53歳で、中高校生の頃、まさにラジオっ子でした。帰宅して部屋に入ると、すぐラジオをつけて聴いていました。

当時は若者がラジオの文化を作っているという雰囲気があったんですね。学校のクラスでも、「昨日のあのラジオ、聴いた?」なんて話題が出たりしました。洋楽も好きだったので、エアチェックをしたり(笑)。

レコードもそんなに買えないので、FM雑誌を買って、番組表を見て、好きな曲がかかるところでラジカセ(録音)をオンにする、と。個人的にも、非常にラジオとは深い思い入れがあります。

中高生の青春時代にラジオがあったと語る岩井氏

――タイムシフト機能は、radiko.jpのローンチ時から提供を希望していましたよね。

radiko.jpプレミアムもそうですが、このタイムシフト機能も、以前からリリースする計画はありました。ただ、radiko自体なにせ少人数で回している会社です(笑)。沢山のことを1度にできないので、順番を付けながら進めないといけないんですよね。

タイムシフト機能以外にも、現状のHE-AAC 48kbpsより高音質での配信や、レコメンド機能などもやりたい、という希望はあります。レコメンド機能は、ラジオ番組を紹介する機能ですね。「このアーティストが好きな人はこの番組が好きですよ」という紹介ができると、より聴いてもらえるのかなと。ラジオって新聞の番組表も見づらいですし、面白い番組を発見しにくいんですよね。ラジオが好きな人は自分でどんどん聴いていきますが、そうでない人にはハードルが高い。「ラジオ番組ってこういうものなんですよ」という魅力を伝えるサービスにしたいです。

ただ、まずはタイムシフト機能ですね。エリアフリー聴取が実現した今となっては、一番にやっていきたいことです。

――タイムシフト機能は有料での提供になりますか。

現在、検討中ではありますが、無料の通常ユーザーにも、有料のプレミアムユーザーにも使ってもらえる、一般機能にできればいいなと思っております。

タイムシフト機能が実現すれば、番組が放送された後でも番組情報をシェアする、といった風にも使ってもらえるのかなと。有料にしてしまったとたんに番組情報が広まらなくなって、使われなくなると思います。

先も言いましたが、タイムシフト機能を提供する目的の1つに、新規ユーザーの獲得があります。せっかくタイムシフト機能があっても、無料で使えなければ「じゃあもういいよ」、となりがちですよね。有料のradiko.jpプレミアムを使ってくれているユーザーはコアなファンですが、今回の大きな目的として、ラジオに触れたことがないユーザーにラジオを聴いてみて欲しいという部分があります。そのためにはやっぱり、有料では難しいかなという判断です。

しかし、一方、無料で提供するとなれば収益は一切見込めませんので、この機能を実装するためにかかる大規模な初期投資や日々の運用費など、それをどう解決していくのかが大きな課題になると思います。

――サービス提供にあたり、現時点でのこだわりはありますか。

有料のプレミアムサービスの時は、ユーザーさんから機能や使いやすさの面で改善点をご指摘いただいたりといったことがありました。お金を頂くのに見合うだけのユーザーインタフェースや機能があるのか、満足してもらえるのか、という内容面の問題を見直すきっかけになりました。

今回はそういった満足度も考えてリリースしていきたいです。radiko.jpの目的は、ラジオ自体のメディア価値向上に貢献していく、というものです。要するに、radiko.jpを使ってより広くラジオ番組を聴いてもらう、ということが目的ですので、そのために何をやっていくか、ということなんですよね。その部分が根っこにあります。

タイムシフト機能は、あくまでも、新しいラジオリスナーの獲得、ラジオメディアの再価値化を目指すための施策と位置づけています。その部分をラジオ放送局と連携し、権利者の方々に丁寧なご説明をした上で、サービス提供につなげていきたいです。

――改めて2015年の展開を教えて下さい。

2015年の目標は、ユーザー層の底上げ、新機能のリリースの2本柱です。radiko.jpだけのことを考えているわけではなくて、radiko.jpでの新規のリスナーの拡大がラジオ業界への寄与につながるという理由で、新規リスナーの獲得は進めていきたいですね。

2015年すぐに、というわけではないですが、現状の倍くらい、できれば2,500万人。夢は3,000万人です(笑)。2014年にUU数が落ち着いた理由に、特に思い当たるものはないのですが、サービスのローンチから今までずっと、大きなプロモーションを打たずに展開してきたので、口コミやニュースだけの告知では、現状で頭打ちなのかもしれません。ユーザー数の獲得に向けて2015年は動いていきます。

風呂敷を広げましたが、2015年には少しでもユーザー数を増やしたい、その方法として新しい魅力あるサービスを提供する、ということが1つです。それから、大きなプロモーションを進め、radiko.jp自体を皆に認知してもらう。これが1つ。

3つ目が、全民放ラジオ局が参加するプラットフォームにしたいなと。それによってもっと充実したradiko.jpになると思います。今、全国でラジオ局は101局あるのですが、radiko.jpに参加して頂いている局は73局なんですね。ということは、まだ28局未参加の放送局さんがある。そこも頑張って広げていきたいなと。そのうえで、新規リスナーの獲得を進めていきたいと思っています。

――有難うございました。