リニアテクノロジーは12月5日、都内でプライベートカンファレンス「第2回 アナログ・グルとの集い ~日本の電子産業を強くする技術とは~」を開催した。

アナログ・グルとは、アナログ半導体分野で指導的な役割を担う知識や技術を有する存在を指し、今回のカンファレンスでもそうした日米4名の技術者が登壇し、現在、アナログ半導体技術が抱える課題や回路設計のポイントなどの講演を行った。

開催の挨拶を行ったリニアテクノロジー代表取締役社長である望月靖志氏は、この30年の間、デジタル半導体の進化に併せてアナログ半導体技術も進化してきたが、デジタル半導体のようにプロセスの微細化をすれば良いというものではなく、耐圧やノイズの問題の解決含め、アナログ・グルたちを中心にその頭脳に頼って進化してきたと振り返り、「今後もデジタル半導体の進化にアナログ半導体もついていく必要があり、そのためにはより多くのアナログ・グルが生まれる必要がある」と指摘し、「日本の製造業が世界で躍進するためには長い時間をかけて多数のアナログ・グルを輩出する必要があり、こうした取り組みから、日本の製造業を世界一に導く若者が育ってくれることを期待している」とした。

群馬大学 大学院 理工学府 電子情報部門の小林春夫 教授

また、基調講演には「温故知新: 古典数学の掘り起しとAD/DA変換器設計への応用」と題し、群馬大学 大学院 理工学府 電子情報部門の小林春夫 教授が登壇。「フィボナッチ数」や「魔法陣」、「剰余系(孫子算経)」のアナログ回路設計への応用として、フィボナッチ数は逐次比較近似AD変換器の冗長アルゴリズムとして有望であること、魔法陣はセグメント型DA変換器のレイアウトに有望であること、剰余系は時間デジタル回路に有望であることなどを示し、「AD/DA変換器、TDC(Time-to-Digital Converter)回路への整数論応用は未知の世界であり、今後、より大きな発見が待っている可能性がある」とした。

Linear TechnologyにてSAR型ADコンバータ(ADC)チームの設計マネージャを務める河本篤志氏

さらに、小林教授の話を受ける形で、米国本社Linear TechnologyにてSAR型ADコンバータ(ADC)チームの設計マネージャを務める河本篤志氏が、世界で現在もっとも高精度なADCである同社の20ビット/1MSps ADC「LTC2378-20」を例に挙げ、どのようにしてこの性能を実現してきたのか、その設計課題とはどういったものであったのかについて説明を行った。最初に参加者の技術的課題への理解促進に向け4ビットSAR ADCの設計を取り上げ、複数のレイアウトなどを提示し、どちらがより目標に近づけるのか、といった話や、プロセス要件などにより、ウェハの位置によりバラつきが生じることから、デザイナーとしては、そうしたことを考慮した配置を考える必要があることなどを指摘した。

2014年時点で世界で現在もっとも高精度なADCである同社の20ビット/1MSps ADC「LTC2378-20」の概要 (出典:リニアテクノロジー)

性能の高い20ビット品であっても基本的な考え方は4ビットと変わらないということで、4ビットSAR ADCを用いて説明が行われていった (出典:リニアテクノロジー)

「設計者の仕事は素晴らしい回路を描くだけでなく、それを実際のシリコンで実現し、あらゆる動作条件で使える安心なデバイスを作りだすこと」と同氏は述べ、それを実現するためにはアナログ半導体のレイアウトテクニックを身に着けることが重要であることを強調した。

また、「LTC2378-20」の開発と、同社での14年間の経験を振り返り、「アナログ半導体を実現する上で、アイデアは10%の比率。それよりも重要なのがハードワークや回路図をもとにしたレイアウトなどのノウハウだ」と、実際の製造プロセスの特性などを理解することの重要性を語ったほか、「シリコンには終わりが見えない。やり直しや改善の繰り返しであり、この製品を実現するためにも最後の0.1ppmのために大変な時間をかけた。製品化に向けたプロジェクトとしては、5年以上かかっているものもある」とし、アナログ半導体の設計者には根性と根気が必要であることも指摘した。

20ビット品とそれより前に開発・提供を行ってきた18ビット品とのINL(Integral Non-Linearity:積分非直線性誤差)比較 (出典:リニアテクノロジー)

ハイパフォーマンスアナログ半導体を生み出すためには実際の半導体素子などの特性を理解し、それを活用していく必要があるという (出典:リニアテクノロジー)