フジX100シリーズの3代目「X100T」。レンジファインダー風の光学式ファインダーが目を引く古風な外観、そして23mm(約35mm相当) F2単焦点固定レンズというきわめてマニアックな仕様ながら、多くのファンを持つカメラだ。X100からX100Sに世代交代したときと同様、今回も素人目にはわからないようなバージョンアップに見えつつ、実際に使ってみると、おぉ、なるほど! と思わせる大きな進化を遂げている。

富士フイルム「X100T」。12月19日時点の実勢価格は税込146,000円前後

「アドバンスト・ハイブリッドビューファインダー」がさらに進化

一般財団法人日本カメラ財団が主催する歴史的カメラ審査委員会選定による2014年の「歴史的カメラ」8機種にX100Tが選出された。すでにX100Tをお使いのユーザーの方々は、そんなの当然だよ、と特段驚きもせずに言うだろう。それほど、X100Tは「歴史に残る」といわれる魅力を数多く備えている。

「アドバンスト・ハイブリッドビューファインダー」は、ギミック的な楽しさと実用性を兼ね備えたアイデアだ。光学式と電子式を切り替えて使用できるだけでなく、光学ファインダーの片隅にピントエリアの拡大画像やフォーカスピーキング、デジタルスプリットイメージなどを表示できるのである。

機構としては、ファインダー部のわずか1mmの隙間に、0.9mmの成形材を使用したNDフィルターを抜き差しするギミックを驚異的精度でセット。このNDフィルターにピント面のレンジファインダーをシミュレートした映像を投影している。まさに、ユニークな発想と高度な技術が凝縮された機構だ。

ファインダー窓左下に見える小さなプレートがNDフィルター。ファインダーを覗くとここにピント像が拡大表示される

ピントをより確実に合わせたいなら、電子ビューファインダー(EVF)か背面の液晶モニターに表示を切り替え、ピント拡大機能を使ったほうが得策だ。それに、撮影精度という点でも、光学ファインダーにはパララックス(※)が生じるというデメリットもある。

※ 光学ファインダーがレンズより左側にオフセットされていることで近接撮影時に発生する視差のこと。ファインダー窓から見えるものと実際に写るものの位置がずれる

だが、X100シリーズをこよなく愛するユーザーの多くは、この光学ファインダーを使いたいがためにX100シリーズを選んでいるのだ。その理由は、ファインダーを覗けば一目瞭然。撮影範囲フレームの視野率は約92%ながら、見える範囲そのものは広い視野空間、ガラスの存在さえ感じさせない、滲みや反射の一切ないクリアな透明感。それは、被写体が目の前の世界にあることをリアルに伝えてくれる。

X100TのEVFは、レンズ交換式のXシリーズ旗艦モデル「X-T1」のそれより見やすいと感じさせるほど進化している。が、それでも光学ファインダーに比べると裸眼と眼鏡ほどの感覚差がある。X100Tの光学ファインダーの見やすさは圧倒的で、これが唯一無二ともいえる撮影の楽しさに繋がっている。また、そのクラシカルなボディデザインと昔ながらのカメラ操作を意識したユーザーインターフェースと相まって、X100シリーズの情緒的な魅力となっていることも無視できない。

幅126.5mm×高さ74.4mm×奥行き52.4mm。重量は約440g(付属バッテリー、メモリーカード含む)

なお、パララックスに関しては、X100時代から補正機能が搭載されていた。これがX100Tでは進化し、カメラの動き(フレーミング)に対してリアルタイムでパララックスを自動補正する「リアルタイム・パララックス補正」を実現。X100やX100Sで必要だったシャッター半押しでピント合わせを行ってからの再フレーミングが不要になり、シャッターチャンスを逸することが圧倒的に少なくなった。

ちなみに、撮影フレームの視野率が92%なのは意図的で、撮影範囲にある程度余裕を持たせることで、被写体が切れることを避けたと思われる。この適切なゆるさにも、フイルム時代のレンジファインダーらしい空気感が漂う。

外観のデザインはX100Sから少し変更された。ブラックモデルが最初から登場したのが嬉しい!

フォーカスモードスイッチ。「M」(マニュアル)、「C」(コンティニュアス)、「S」(シングル)をスライドで切り替える。Mモード時にはワンプッシュAFも使用可

新たにアスペクト3:2の3.0型カラー液晶モニターを採用。解像度は約104万ドット

レンズの薄さは非常にありがたい。絞りの操作性は、タブがあるものの改善が望まれる

三脚穴は光軸上でなくボディの中心に設定されている

ローレット処理が施された、質感の高いダイヤル類が目を引く。手前のレバーで光学式と電子式のファインダーを切り替える。反対に倒すと電子式レンジファインダーがポップアップ

外部マイクとマイクロUSB端子(ともにリモートレリーズ端子兼用)、ミニHDMI端子を装備。マイクロUSB端子は充電も可能

記録メディアはSD/SDHC/SDXCメモリーカード(UHS-I対応)のほか、内蔵メモリー55MB。標準撮影枚数は約330枚(CIPA規格)。OVF撮影枚数UP ON時は約700枚

日本製ならではの高級感と安心感が嬉しい

高級感あふれる金属製のレンズキャップが付属

裏側には遮光と装着感を高めるモルトが貼られている