日本中から1500名以上のMATLAB/Simulinkユーザーが集うユーザーカンファレンス「MATLAB EXPO」が、今年も10月29日に、東京・台場の「ホテル グランパシフィック LE DAIBA」にて開催される。MathWorks Japanが主催するようになり6回目となる今回は、「MATLAB/Simulinkの適用分野の拡大」というキーワードが掲げられている。はたして、このキーワードが意味するところとは?、MATLAB EXPO 2014の見どころと併せて、今回のイベントテーマの選定などを先頭になって指揮してきたキーマンである同社インダストリーマーケティング部マネージャーの阿部悟氏に話を聞いた。

2014年はMathWorksが創業して30年目の節目の年

MathWorks Japan インダストリーマーケティング部マネージャーの阿部悟氏

まずはキーワードの謎について。実はMathWorks、創業が1984年ということで2014年は30周年目の節目の年となっている。この30年の間、MATLABもSimulinkもさまざまな機能が追加されたり、使い勝手が向上したり、ツールも進化してきたが、SimulinkはR2012からプラットフォームの大きな変更が行われた。そして今年、同社は毎年春と秋にMATLABプロダクトファミリのアップデートを行っているが、その秋版となる「R2014b」にて、大きな変更が行われる予定だという。

「具体的なことはまだお伝えできないが、グラフィックス関連が刷新されるほか、ユーザーインタフェース(UI)や出力されるグラフもグラディエーションなどがより綺麗に表示できるようになり、次世代バージョン(バージョン2)と呼べるようなものになる予定」(阿部氏)とするほか、内部構造的にもデータアクセスなどの構造のオブジェクト化が進められており、従来はプロパティなどを個々に設定する必要があり、慣れていないユーザーにとってはマニュアル片手に調べながら作業を進める事が多かったが、プロパティのサジェスト表示などがされるなど、従来に比べ格段にユーザビリティが向上する予定だという。

「SimulinkもR2012bよりUIやエディタが大きく変更され、以降、それに付随する形で機能拡張が図られてきているが、MATLABもR2014bを機に、将来の機能拡張に向けた変革が行われようとしている」と阿部氏は語るが、その背景には、MATLABユーザーがプログラマやエンジニア中心であったこれまでの状況から、デザイナやアナリストといったよりカジュアルな、これまであまり使われてこなかった層のMATLAB利用者の増加があり、そうしたカジュアルユーザーにも使いやすい配慮がなされるようになったとも見ることが出来る。

「日本ではMATLABのプログラミングが難しいという印象を持たれているので特に大きなチャレンジの地域だと思っているが、例えば業務でVB(Visual Basic)などのそれほど難しくないスクリプトを書ける程度の知識でもMATLABを使うことは可能だ、というメッセージを出す良い機会になる」(同)とする。

データアナリストや医療/バイオ関係者も活用できるMATLAB

実はMATLAB EXPO 2014では、そうしたこれまでMATLABと縁遠いと思っていたビジネス分野で、MATLABを使う可能性がある人たちに向けたトラックとセッションが用意されている。1つはその名もズバリの「データアナリティクス」。いまや"ビッグデータ"や、"データ分析"といった単語をビジネスシーンで聞かない日はないほど、あちこちで使われている感はあるが、その実、膨大なデータをどうやって使えるデータに変えるのか、ということで頭を悩ます担当者は意外と多い。そうしたデータ分析の世界においてMATLABがどういった位置づけで、どういったことができるのか、といった話を同トラックでは複数のセッションに分けて用意しており、実際のシステム開発の現場での活用例などを聞くことができるとのことで、ビッグデータの解析をやってみたいという人には、MATLABがどういったところで活用でき、ほかの手法と比べてどういった点にメリットがあるか、といったことを知ることができるだろう。

また、創薬や医療機器開発といった医療分野でのMATLAB活用の話題を聞くことができる「メディカル」、そしてこれまでのMATLAB EXPOでは制御設計系のトラックに位置づけられていた「電源制御(パワーエレクトロニクス)/エナジーマネジメントシステム(EMS)」といったトラックも用意されている。特に電源制御(パワーエレクトロニクス)/EMSのトラックは、キーノートスピーチでも東京工業大学の藤田政之氏が「分散協調型エネルギーマネジメントシステム構築を目指して」というタイトルで講演することもあり、注目が高まっている分野ということで独立して用意されたものとなっている。

さらに、その電源制御(パワーエレクトロニクス)/EMSのトラックの最後のセッションはIECやISOといった規格認証系の話題を扱うものとなっており、制御機器の開発や、産業機器などと同様にさまざまな認証規格が存在する医療機器の開発に携わる人たちに向け、MATLAB/Simulinkを活用したリファレンスワークフローについてのトピックや、ドキュメンテーション・レポート生成の自動化やカスタマイズなど実開発における環境構築についての話を聞くことができるものになるとする。

一方のメディカルも、医療機器の制御関連と言われると、産業機器の延長線上といったイメージを持ちやすいが、今回は田辺三菱製薬株式会社が創薬開発のワークフローの中で、どういったところにMATLABを活用しているのか、といった話も用意されているとのことで、創薬や新材料、化学分野などで、無数にある材料/素材データをどのように組み合わせて、新たな物質開発を行うか、といった分野の人の参考にもなるだろう。

これまでMATLAB/Simulinkというと制御系で活用というイメージが特に日本では強かったが、世界的な潮流として、そうした分野以外での活用が進んでいる。今回のMATLAB ECPO 2014も、そうした世界的な流れを受ける形で、幅広い分野での活用を知ることができるセッションが多数用意されている。また、阿部氏は個人的なキーワードとしながら「つながる」という言葉を掲げている。MATLAB/Simulinkにすべての世界を結びつけることができるポテンシャルがあることを踏まえての言葉だろう。実際に、世界ではクラウドの進展により、さまざまな産業の垣根がなくなってきている。そうした意味では、その各現場で使われるツールにもシームレスさが求められるようになってくるはずだ。今秋に登場するであろうR2014bの変革も、そうした世界の移り変わりに対応するためのものだろう。

残念ながら本原稿執筆時点(9月22日時点)では、まだMATLABのR2014bの話題は出ていない。しかし、例年、MATLAB EXPOの会場にて、最新版に関する説明が行われてきたことを考えると、おそらく今回も会場にて、なんらかの説明があるはずだ。より詳しい情報を知りたい人は、MathWorks JapanのWebサイトを頻繁にチェックしてもらえれば、おそらくどこかのタイミングで、何らかの案内がでるであろうし、その情報の詳細については、会場で実際に同社のエンジニアと顔を突き合わせて、質問として聞くことができるであろう。

なお、MATLAB EXPO 2014は無料で参加が可能であり、参加登録もすでに開始している。各セッションごとに定員があり、人気のあるセッションはすぐに埋まってしまう可能性が高いので、興味を持って参加してみようと思った方は、タイムテーブルを見て、自分に合いそうなセッションを登録してみると良いだろう。

MATLAB EXPO 2014のタイムテーブル。今回、新たに「メディカル」、「電源制御(パワーエレクトロニクス)/EMS」といった昨今のトレンドを踏まえたトラックが用意された

ちなみに余談だが、MATLAB EXPOは朝から夕方まで一日中の開催であるため、折々にコーヒーブレイクなどの時間が用意されており、コーヒーと併せてお菓子なども提供されている。中でも大量の「うまい棒」は、もはやMATLAB EXPO=「うまい棒」という人までいるほど、おなじみとなっており、昨年は1800本ほどが提供されたが、あっという間に参加者の胃袋へと消えて行った。今年も、昨年同程度の本数の提供が予定されているとのことなので、コーヒーブレイクなどの際に、コーヒーコーナーの近くなどで見かけたら、ぜひ、確保していただければと思う。

もはやMATLAB EXPOではおなじみとなった感がある「うまい棒」。今年も前年と同じ程度の本数が用意される予定だという