名古屋大学は9月9日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のモデルマウスを対象とした実験で、長寿遺伝子産物「サーチュイン」として知られる脱アセチル化酵素「SIRT1」が延命効果をもたらすことを確認したと発表した。

同成果は同大学環境医学研究所の渡邊征爾 助教、同 山中宏二 教授らと同大学 大学院理学研究科の木下専 教授らの共同研究グループによるもので、英学術誌「Molecular Brain」に掲載された。

ALSは、大脳から脊髄を経由して筋肉に指令を出す神経細胞が徐々に死に至る神経難病。認知機能や人格が保たれたまま、全身の筋肉が麻痺していき、発症から2-5年以内に呼吸菌の麻痺により人工呼吸器なしには生存できなくなる。特定の異常タンパク質の蓄積することで運動神経細胞が死ぬことは知られているが、詳しい原因や病態はわかっておらず、治療法の開発が望まれている。

同研究グループは、脳・脊髄で「SIRT1」の量を通常の3倍に増やすように遺伝子操作した「SIRT1マウス」を作成し、「ALSモデルマウス」と交配して発症時期や生存期間への効果を観察した。その結果、「SIRT1」を増量させた「ALSモデルマウス」で、発症後の進行が遅れ、生存期間が延長したことが確認されたという。

さらに、作用機序を確認するため、脊髄に蓄積する異常タンパク質や、その処理に関わるタンパク質を解析したところ、「SIRT1」が遺伝性ALSの原因となる異常タンパク質の分解を促すことが判明した。

今回の研究結果を受けて同研究グループは「赤ワインに含まれる『レスベラトロール』のように、『SIRT1』活性効果の高い化合物が開発できれば、ALSやそのほかの神経難病において異常タンパク質の蓄積を抑える治療薬となる可能性が期待される」とコメントしている。

「SIRT1」活性化ALSマウスは、生存期間と罹病期間が平均して約15日延長した。