機体の公開に先立ち、開催された記者説明会では、JAXAの國中均・はやぶさ2プロジェクトマネージャが登壇。「宇宙機器が特殊なのは、たった1つしか作らないということ。1万個を作って99%成功すればいいものではない。開発は決して簡単ではなかったが、今日紹介するハードウェアは我々の自信作。ぜひ見て欲しい」と胸を張った。

JAXAの國中均・はやぶさ2プロジェクトマネージャ

「はやぶさ2」の細部をチェック

「はやぶさ2」の大きさは約1.0m×1.6m×1.25m(本体部分)、重量は約600kg(推進剤込み)。初号機と同規模の探査機ながら、トラブルが多かった初号機での経験を反映させ、様々な改良が施されている。

「はやぶさ2」の搭載機器(その1)

「はやぶさ2」の搭載機器(その2)

まずイオンエンジン「μ10」は、イオン源を改良することで、推力を従来の8mNから10mNへと向上させることに成功。また初号機では復路、中和器の劣化が問題となったが、磁場を最適化することで、長寿命化を実現したという。これまで、地上で1万8000時間くらいの耐久実験を行っており、性能を実証したそうだ。

イオンエンジン。4基のスラスタが搭載されている(同時運転は3基まで)

これが中和器。ここから電子を放出することで、探査機の帯電を防ぐ

見えているのはイオン源のグリッド(電極)。透明のカバーが付いていた

イオンエンジンは2軸のジンバルに乗っており、推力の方向を変えられる

サンプラーも各所が改良された。その1つは、サンプラーホーンの先端内側に追加された"返し"だ。タッチダウン時にmmオーダーの砂粒を巻き上げられるようになっており、万が一、初号機のように弾丸が発射されなかった場合でも、サンプルの回収が期待できる。またメタルシールの採用で気密性を上げ、ガスも密閉して持ち帰れるようになった。

サンプラーホーンは縮まっている状態。軌道上で1m程度の長さになる

この角度で先端部の返しが見えるはずだが、残念ながらカバーで覆われていた

「はやぶさ2」には新規に搭載される装置がいくつかあるが、注目は「衝突装置(SCI)」である。これは直径30cm程度の円筒形の装置で、内部には5kg近い爆薬を搭載。これを爆発させることで、銅製の衝突体を秒速2kmに加速、小惑星にぶつけて人工クレーターを作り、露出した風化前のフレッシュなサンプルの回収を目指す。

衝突装置は探査機下面のリング内にあるため、見ることはできなかった

「はやぶさ2」では人工クレーターの付近に着陸したいので、初号機よりも精度が高い「ピンポイント着陸」に挑戦する。複数のターゲットマーカの使用が想定されており、ターゲットマーカは3個から5個へと増えている。國中プロマネは「初号機は"降りられる所に降りる"だったが、はやぶさ2は"降りたい所に降りる"」と違いを説明した。

衝突装置を使用する際、探査機本体は小惑星の陰に退避するが、すると衝突の様子を見ることができない。探査機に代わって"目"となるのが、分離カメラ「DCAM3」だ。小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」に搭載されたDCAM1/2をさらに発展させたもので、アナログ/デジタルの2種類のカメラを搭載している。

探査機上面のDCAM3。ボディが青く見えるが、実際の色はシルバーらしい

イオンエンジンの上の方にあるこれがDCAM3用のアンテナとのこと

着陸機の「MASCOT」も初号機には無かった装置だ。ドイツ航空宇宙センター(DLR)/フランス国立宇宙研究センター(CNES)が開発したもので、左舷側の側面に格納。小惑星表面に投下され、着陸後、搭載した広角カメラ、熱放射計、磁力計、分光顕微鏡などの科学機器で近接観測を行う。観測データは探査機本体を経由して地球に届けられる。

MASCOTの開発試験用モデル(EQM)。ミカン箱よりも一回り小さい

全体で10kgくらいの本体内に、計3kgの科学機器を搭載している

MASCOTのミッションについては、CNESのWebサイトに分かりやすい動画が公開されているので、そちらを参照するといいだろう。豪快な着陸方法にちょっとびっくりするかもしれない。

動画
MASCOTのミッション動画(wmv形式)

ローバーは「ミネルバ2」を搭載する。ミネルバ2は3機の小型ローバーから構成されており、ローバー1Aと1BはJAXA、ローバー2は大学のコンソーシアムが開発している。初号機の「ミネルバ」とはかなり違うようだが、詳細については明らかにされなかった。

この中にローバー1A/1Bが格納されるようだ。両機は平べったい円柱形状

ローバー2は少し小さめ。ローバー2の形は初代ミネルバに近いようだ

外側からはスラスタくらいしか見えないが、初号機で燃料漏れという深刻なトラブルを起こした化学推進系(RCS)は、信頼性対策のため、構成が大幅に変更されている。初号機は燃料が漏れたとき、A系/B系の両系統が凍ってしまい、どちらも使えなくなってしまった。まずこの問題に対しては、両系統の配管を空間的に分離して、熱的に切り離した。

スラスタの位置は初号機と同じ。合計12カ所に付いている

上を向いたスラスタのみ、コンタミ防止のためか、袋を被っていた

ところがその後、金星探査機「あかつき」の化学推進系において、バルブが閉塞するという不具合が発生。「はやぶさ2」でも起きる可能性を排除できなかったため、通常は共通で使う調圧系を燃料側/酸化剤側で分けるという、かなり思い切った対策を取った。この案の採用については、初号機の川口淳一郎プロマネからのアドバイスもあったとか。

左が「あかつき」、右が「はやぶさ2」の化学推進系。「あかつき」では、燃料と酸化剤を押し出すための調圧系の配管を蒸気が逆流、バルブで両者が反応して塩が生成されたことが閉塞の原因と考えられている。調圧系を完全に分けた「はやぶさ2」では、この問題は原理的に起こり得ない(「はやぶさ2」化学推進系の追加対策について(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/uchuu/016/002/gijiroku/
__icsFiles/afieldfile/2011/12/02/1313456_01.pdf)より抜粋)

外観の変化で目立つのは、上部に搭載されたハイゲインアンテナだ。パラボラ型から平面型に変更されたほか、従来のXバンドアンテナに加え、新たにKaバンドアンテナが追加されている。KaバンドではXバンドよりも4倍も高速な通信(8kbps→32kbps)が可能になっており、より大量の観測データを送ることができる。

2つ並んだハイゲインアンテナ。左舷側がKaバンド用、右舷側がXバンド用だ

表側の銀色のカバーはゲルマニウム蒸着カプトンだ。熱は遮断し電波は通す