トイレが使えないという問題は、日本も他人事ではない

そして次のエリア5は、「みんなが幸せになれるトイレって?」だ。ここは、リンなどの下水の資源回収や赤潮の問題を扱ったエリア3以上に、大人としてはとても考えさせられ、子供たちにもよく伝えてもらい、一緒になって考えてほしいエリアである。

そもそも日本は水が豊富ということがまずあってのことなのだろうが、下水道が比較的早い段階から発展し整備され、特に都市圏での水洗トイレの普及率は高い(東京や大阪などいくつかの都府県が、2012年時点で90%以上となっている)。またそれ以外の地域だって水洗でない場合もまだあるのだが、トイレがほぼ完備されているのは間違いない。共同トイレで自室にはトイレがないという人はいるかも知れないが、最悪、コンビニのトイレを借りるにしろ、公園や公共施設のトイレを利用するにしろ手段はあるわけで、「トイレがないので、屋外でするしかない」などという生活を送っている人は、自ら率先していない限りはいないはずである。しかし、世界には実際にトイレを使えない人たちが約25億人もおり、屋外でせざるを得ない状況だという。その結果、飲み水が汚染されるなどして、不衛生のために多くの子供たちが命を落としているというのだ。

さらに、冒頭でも述べたが、学校では恥ずかしいからうんちをしたくないという小学生が6割以上といわれるような問題、介護の現場で大きな負担になっている排泄処理の問題、東日本大震災でも大きな問題となった、地震など大規模災害における非常時のトイレを含めた衛生管理の問題。ここでは、排泄という、人間の尊厳や生存に関わる大切な問題を考えるエリアとなっている(画像19)。

筆者も、震災時の非常用トイレを確保しておくのは前々からその必要性を感じていたので、改めてここでは勉強させられた(なんせ、我が家は家族が多い)。食事は、最悪、3日食べなくても(活動は大幅に鈍ってしまうにしても)、水さえ飲めれば生きていられるが、トイレは少なくとも尿の方はどんなにがんばっても半日に1回は行きたくなるだろうし、食事をしていれば1日1回はうんちだって出るだろう(もちろん、1日数回の人や数日に1回の人もいるが)。そんな時、トイレがなかったらどうしたらいいのか? 実際、東日本大震災で被災された人たちは、地震の直後の避難生活でそうした大変な思いをされたわけで、ちゃんと教訓として備えておかなければいけないなと強く感じるのである(画像20)。

画像19(左):世界では、平均すれば3人に1人以上が、きちんとしたトイレでできていないという現実。画像20(右):インフラが破壊されるような大規模災害時用の仮設トイレ

また話を戻すが、約25億人がトイレのない環境で生活しているという事実は、正直不勉強で知らなかったので、その人数を聞いてとても驚かされた。地球の人口約70億人の内の約25億人、つまりは3分の1以上の人たちがトイレのない生活を送っているという事実は、そうした現実を目の当たりにしない限り、この環境の整った日本に住んでいると普段はまったく考えることがないのが多くの日本人の感覚ではないだろうか。改めて自分が恵まれた環境である日本に生まれたことを感謝すると同時に、その約25億人の人たちにどうしたらトイレを利用できるようにしてあげられるのか、悩んでしまうのである。どうしたって清潔にしたいから河川などを利用するわけだが、そうすると今度は飲料水の汚染の問題も出てきて、大変な問題なのだ。

中には、日本の進んだトイレを設置すれば、と思う方もいるだろう。しかし、それは日本などの下水道が整っている地域だから設置が可能なハイテクトイレなのであり、インフラのない地域のためにはその土地に合ったトイレを考えないといけないのだ。しかも、そうした地域に、共用のくみ取り式トイレなどを設置できたとしても、それだけでもまだ足りないものがある。日本だってそうだが、夜中の公園などにある人気のないトイレとか、どれだけ治安がいい街だとしても、男性だって利用するのをためらわないだろうか?

そんな人の来ないところには、犯罪者だってずっと待っているのは大変だから、そうそういるものではないだろうが、それがテロリストなど武装集団などのいるような治安の悪い地域や、ストリートギャングが縄張り争いしているようなところでは、トイレの際に金品を巻き上げられるだけならまだいい方で、生命の危機に直面する可能性だってある。治安の悪い地域における共用トイレは、どうしても密閉された個室が居並ぶという構造から来る、犯罪の温床になり得る課題を持っているというわけだ(そのため、米国などでは、ドアの下がかなり広く開いていて、中で犯罪行為が行われていないか確かめやすくなっていることが多い)。こういう状況だと、結局は怖くて利用できないので、また近くの安全な屋外でする、ということになってしまうのである。

つまり、実現するための困難さは抜きにして、下水の整っていない土地でも利用できる仕組みのトイレを開発し、なおかつそのトイレを24時間、老若男女問わず危険性がないように利用できるよう、例えば警備をつけるといった何らかの安全性の確保までも含めたトータルでの設置が必要となるというわけだ(理想は、家庭ごとに1つトイレを設け、その排泄物を処理できる仕組みを整えられればいいのだが)。ここまで来ると、その地域の治安の問題になってくるし、支援するにしても予算的にかかりすぎるのではこれまた難しいし、その国が抱えるさまざまな問題が複雑に絡み合っているわけで、非常に大変な問題なのである。

こうした話も、ぜひ保護者の方はお子さんと話をしてほしいし、当の子供たちも、自分たちが恵まれていること、そして世界には、排泄という人として生きていくために当たり前の行為を安心して行えない人たちが、3人に1人以上という大変な割合でいることを知ってほしい。