広範な動作条件下で優れた安定性と最適性能を発揮する電源を実現することは、設計者にとって大きな課題でした。この課題に対処するために、電源IC技術は過去20年間に大きな変遷を経ながら進化してきました。最新の技術的進化の1つの成果が、デジタル制御技術です。これまでに、いくつかの半導体メーカーがデジタル制御技術の電源ICへの応用に成功しており、コストの低下と性能の向上が実現し、市場でのデジタル電源の普及が広がり始めています。ここでは、Intersilの新製品であるデュアル降圧PWM(パルス幅変調)コントローラ「ZL8800」(写真1)が実現した最新のデジタル制御機能について紹介します。

写真1 「ZL8800」デジタルPWMコントローラ

多くのケースでデジタル電源選択のカギとなっているのは、テレメトリ機能(システム監視)へのニーズです。さらに、一回設計すれば、幅広いアプリケーションに同じ設計を再使用できる柔軟性へのニーズも高まっています。こうしたニーズに対応した機能に加えて、「ZL8800」は安定性向上のためにデジタル制御技術を採用しており、部品の経年劣化、条件変化、熱ストレスを考慮せずに設計が可能になることから、設計の自由度が向上します。

電源の安定性向上のための標準的なアプローチ

データセンタや携帯電話基地局などの複雑なシステム向けの電源を設計する際には、通常、直流電源バスにローカル・ポイント・オブ・ロード(POL)ユニットを配し、個々の基板に必要な電力を供給する分散型給電方式が採用されます。これにより、システムのモジュール化レベルが向上し、通信インフラ・システムの運用の際にシステム稼働時間と電力効率を改善できます。

こうした分散型電源の実現のために、従来は電圧または電流モード・フィードバック機能を備えたアナログ固定周波数スイッチング方式が採用されていました。固定スイッチング周波数方式の場合には、インダクタやコンデンサなど、エネルギー・ストレージのための受動部品内の電流値予測が可能になり、選択が容易になります。次に、こうした部品のサイズは、負荷電流、出力電圧リップルなどの出力関連のニーズをもとに決定されます。その際に電源設計者にとって課題となるのは、これらの受動部品の設定後のループの安定化です。環境などの変動要因とワースケース分析を考慮に入れると、問題はさらに複雑になります。全動作条件下でのシステムの安定性を確保するため、性能や帯域幅を犠牲にせざるを得ないケースが多くなるのが実情です。

インダクタ選択の際の部品の許容誤差の問題について考えてみます。インダクタのような非線形部品の性能は、電流、温度、スイッチング周波数、時間により変動します。非フェライト系インダクタは広く使われていますが、変動幅がその全定格電流範囲で50%にまで達することがあり、最適化が大きな課題となります。出力コンデンサでも、やはり、温度、直流バイアス、経年劣化により同様な変動が現れます。その結果、ループを安定化させようとすると、システム帯域幅の大幅な縮小を強いられます。ループ特性の改善のために出力コンデンサのサイズを拡大する以外には、過渡応答特性の向上は不可能なことから、実装面積とBOMコストの増大を余儀なくされます。