前回は、マイナビ賃貸に関わるシステムの増強案を例に、担当者の話と「クラウド 見積シミュレータ」の使い方を交えながら、ニフティクラウドで実現できること、およびその費用感を紹介した。今回は同様の検討について、マイナビの別システムを例にして展開したい。

クラウド見積シミュレータで検討段階からコスト感を掴む

ニフティクラウドは純国産のパブリッククラウドサービスだ。どんなサービスがいくらから利用できるのかについては、料金一覧で確認できる。必要なサーバスペックなどを入力することで、Web上で見積もりができる「クラウド見積シミュレータ」も提供している。

クラウド見積シミュレータの画面

前回も紹介したように、ニフティクラウドの特長の1つは、電話やメール、対面で相談することで、Web上での見積もりにとどまらないアドバイスが受けられることにある。国内サービスであるため、海外のサービスと比べると、コミュニケーションのしやすさや対応スピードの面で優れているといえる。

クラウド本部クラウド事業部
クラウドパートナー営業部
武居真広氏

今回、相談に乗っていただくのは、クラウド本部クラウド事業部クラウドパートナー営業部の武居真広氏だ。武居氏は、初めてパブリッククラウドを利用する人へのアドバイスとして「まずはクラウドでの利用を考えている典型的な構成について、クラウド見積シミュレータで概算することが検討の第一歩です。最初から複雑なシステムを構築するのではなく、用意されているものにシンプルにあてはめていくことがポイントです」とコメントする。

システムは、利用が進むにつれ、増強や改修で複雑になる傾向にある。そこで、そのままクラウドに持っていくのではなく、クラウド化を機にできるだけシンプルにするのがよいそうだ。武居氏は、クラウドの考え方について「すべてをクラウドに移行しようというのではなく、どの部分をどうクラウドにすれば効果がでやすいかを考えた方がよいでしょう。これまでの社内システムと連携するハイブリッドクラウドを構成することなどがポイントです」と話す。

どんなハイブリッドクラウドが望ましいのか

今回、例として取り上げるのは、弊誌「マイナビニュース」である。

第2回登場担当者
  • アプリケーション開発・運用担当
  • サービスインフラ担当
  • マイナビニュースのトップページ

    マイナビニュースのシステムは、ニュース記事を配信するWebサーバと画像を格納しておくファイルサーバを中心とした構成となる。また、会員システムも運用しており、こちらはデータベースサーバ、アプリケーションサーバなどで構成されている。そのほか、APIサーバ、スマホ向けのWebサーバ、姉妹サイトのWebサーバなども稼動しており、これらがプライベートクラウドの上に構築されている。

    プライベートクラウドに移行したのは2008年頃。アクセス数の増加に応じて物理筐体を買い足してきたが、導入/改修サイクルの短縮を目的として移行を決めた。現在は、実験的にサービスを開始する際も仮想サーバを即座に立ち上げて運用を開始するなど、以前とは比べ物にならないほど施策の展開がスピードアップしている。

    武居氏によると、ニフティが社内環境をプライベートクラウド化したのも、実は同じ頃だという。

    「当時は、AWSさんさえも国内にデータセンターを持っていなかった時代のため、多くの企業にとってパブリッククラウドという選択肢は現実的ではありませんでした。そこで、まずはプライベートクラウドから始めようという企業が多かったと思います。今は、そうして作ったプライベートクラウドとパブリッククラウドをうまく組み合わせられるようになりました」(武居氏)

    マイナビニュースの相談事項も、プライベートクラウドと外部のクラウドをどう組み合わせると効果的かという内容になっている。

    通信コスト削減、安定した品質のサービスを探す

    相談事項の1点目は、サイト拡大に伴う通信コストの増大だ。

    当初は、インターネット回線契約が従量制の課金体系だったこともあり、トラフィックの増加が通信コストに跳ね返っていた。そこで、まずはCDNを採用し、その後より通信費を抑えるため、通信費固定の、あるパブリッククラウドへと移行した。今後は、予測不能な将来を見越して、莫大なトラフィックを捌け、かつそれを予算の範囲内で対応できるものを用意したいという。

    2点目は、リソース増強の迅速さだ。プライベートクラウドを採用したことで、拡張にかかる時間は短縮されたが、ニュースサイトというサービスの性質上、どれだけ余裕を持った構成にしていても、そこに切迫するトラフィックが突然発生する可能性は否定できない。そうした場合に、パブリッククラウドと連携して、リソースを素早く外部から調達できないかと考えているという。

    3点目は、運用コストだ。現在は、プライベートクラウドを含むインフラの運用と監視を自社で行っている。内部向けの監視サーバ、外部からの監視サーバをそれぞれ立てているが、可能であれば、その運用効率化のためのヒントを得たいという。

    試しに見積シミュレータで概算

    1点目「サイト拡大に伴う通信コストの増大」については、武居氏から以下のような構成案が示された。

    クラウド上に、Webサーバを複数台割り当て、リバースプロキシを構成してキャッシュを有効にする。サーバ数は柔軟に変更可能で、ネットワーク転送量は月10TB以内であれば無料だ。また、複数台のサーバでロードバランシングする場合は、ロードバランサを別途追加するか、ロードバランサ用のサーバを利用する。場合によっては、サーバ自体のフェイルオーバー機能に任せてしまい、冗長構成による可用性の確保を行わないという判断もありえる。

    今回は、ロードバランサを別途追加する構成で見積もりを行った。

    まずはテスト用途で、1CPU/3GBメモリの小さめのWebサーバ3台を設置。

    1CPU/3GBメモリの小さめのサイズのサーバを選択。OSは無料で利用できるCentOSを選択した

    さらにロードバランサ1台を設置。いつでも拡張できるというIaaSの特長を生かすかたちで、ロードバランサのネットワーク帯域は40Mbpsと低めに設定。

    ロードバランサを40Mbpsで1台契約。その上にある項目「ネットワーク転送量」に関しては、10TBまで無料なので、範囲内で収まると判断している

    そのほかの項目は現在のところ不要なので、何も設定せずに見積もりを出した。

    「操作オプション」、「増設ディスク」、「追加オプション」、「関連サービス」は今回の要件では必要ないため、何もつけていない

    ページをスクロールするとシミュレート結果が表示される。今回の見積もりでは、月額費用が9万1840円と、かなり安く抑えられた。

    各項目を入力すると、見積シミュレータ画面下部に金額が現れる

    ロードバランサをほかの手段で代用する場合は、コストをもう少し下げることができる。また、ロードバランサの帯域は柔軟に変更できるので、APIを使って時間帯に応じたピークサイジングを行うといったことも可能だ。 「例えばスポーツ関連のニュースサイトを運営しているお客様は、配信するニュースが多い時期はロードバランサの帯域を上げるといった使い方をしています。コントロールパネルから一定の負荷が継続したらアラートを上げることもできます」(武居氏)とのこと。ニフティクラウドの見積シミュレータでは、こうした時間単位での、より詳細な価格も算出することができる。

    無料の標準サービスをうまく使ってコスト削減

    相談事項の2点目「リソース増強の迅速さ」については、特別なオプションを契約しなくとも元々、サーバへのディスク増設が容易であるうえ、サーバのメニューも豊富で、オートスケールできる機能もあるため、特別な対応は必要ないことが説明された。

    増設ディスクは前回も紹介したが、サーバが稼動したままディスクを追加できるので切迫した状況にも柔軟に対応できる。また、サーバのスペックについては、「mini」から「wlarge64」までの20種類があり、月額固定と従量課金のいずれかで選択できる。オートスケールは、サーバ台数を自動で増やすことができるので、必要なときに負荷対策をするといったことも可能だ。

    また、ニフティクラウドでは、インターネットVPN、拠点間接続サービスといったネットワーク機能も豊富に提供されているという。ネットワーク転送量については、課金対象はグローバル側通信のみで、プライベート側通信は無料。グローバル側通信も、上述のように月10TBまでは無料(リージョンごと)で、10TBを超えた分については15円/GBがかかるという仕組みになっている。

    武居氏は「さまざまなサービスをうまく組み合わせることで、コストを下げ、可用性や品質を上げることが可能です」と話す。

    3点目「運用コスト」に関しても、そうした話を引き継ぐかたちで、外部サービスの活用を提案。基本的な監視機能は標準搭載されていることを説明したうえで、外部からの監視について「例えば、Zabbixをサーバにインストールして対応する」といった手法を提示。ニフティクラウドにはそうしたサービスを提供するパートナーがいることが紹介された。このようなパートナーを活用することで、運用の効率化がはかれそうだ。

    以上の説明を受け、マイナビ側も「すぐにリソースを拡張できることは、拡張性/可用性を高めるうえで大きなメリットになると思います。シンプルな構成や凝った構成をさまざまなかたちで展開できるようなので、いろいろなシーンで利用できると思います」と語った。

    * * *

    見積シミュレータには、ここで紹介したもの以外にもさまざまなメニューが織り込まれており、実際に必要となる価格感を知ることができる。料金一覧に掲載された機能から必要なものを見つけることもできるが、見積シミュレータをいじり、金額を確認しながら最適な構成を探るのもよいだろう。

    ちなみに7月上旬には、新たなサービスとして「ニフティクラウド 専有コンポーネントサービス」もリリースされる。こちらは専用のハードウェアをニフティが用意して、ユーザー独自の環境をニフティのデータセンター内に構築するサービス。ニフティクラウドとの連携も容易なうえ、初期構築費用が不要。月額課金モデルで運用していくことができるという。今回のようなケースでは、こうしたサービスも検討の俎上に載るだろう。

    もちろん、問い合わせを行えば、本稿のように個別に相談に乗ってもらうことも可能だ。ニーズや検討状況に合わせて使い分けるとよいだろう。

    実例で学ぶ、IaaSの見積もり方法 前編
    実例で学ぶ、IaaSの見積もり方法 中編(本記事)
    実例で学ぶ、IaaSの見積もり方法 後編