では、エレクトロニクス事業の回復遅れの原因はなんなのか。

最大の課題は、テレビ事業の低迷が長期化している点だ。2013年度業績もソニーのテレビ事業は赤字となった。これでテレビ事業は10年連続の赤字だ。

吉田CFOは「テレビ事業の過去10年間の累積赤字は7,900億円に達する。この数値は大変重い」とし、「この間、5回もテレビ事業のトップが代わっている。経営と施策が不安定だったことが、赤字を増幅させていた」と反省する。

その一方で、平井社長も「10年連続のテレビ事業の赤字という事実は大変重く受け止めている」と前置きし、「2年前からそれまでの数量拡大政策を抜本的に見直し、パネル調達コストも大幅に削減し、開発、設計の固定費削減も進めてきた。昨年度に比べると赤字幅が減っている。コスト構造は強いものになり、いい方向にあると考えている」と、回復に向けた道筋を歩んでいることを強調する。

テレビ事業は2014年7月から、ソニービジュアルプロダクツ株式会社として分社化することになる。

「分社化することで、自動的に黒字化するわけではない」と平井社長は語るが、「分社化によって、必要なものを持って行ってもらい、不要なものは本社に置いていってもらう。効率性とスピード向上が図れる」と、黒字化への総仕上げを分社化に託す。

分社化によりスピーディーな経営を実現する!

平井社長は分社化によるスピーディーな経営の実現に期待を寄せる

平井社長自らも、以前はソニー・コンピュータエンタテインメントで社長を務め、分社化した環境でプレイステーション事業を加速させてきた経験がある。

「ソニー・コンピュータエンタテインメントも、ソニーモバイルコミュニケーションズも、ソニー100%子会社として、スピーディーな経営を実現している。この仕組みをテレビ事業に持ち込むことになる」とする。

分社化したことで黒字化させるのが、2014年度におけるテレビ事業、ひいてはエレクトロニクス事業の重要なポイントとなる。

だが、今年度の計画に1,600万台という大きな目標値を置いていることは気になる。2013年度のテレビの出荷実績は1,350万台。これは、前年実績と同じだ。そして、2月公表値の1,400万台には未達という数字になる。そして、市場全体の成長率は鈍化しているなかにある。ソニーが得意とする国内市場も低迷したままだ。そこに、前年比約2割増となる1,600万台という、数字を追う目標を立てたことに、懐疑的な見方が出るのは当然だろう。

平井社長は「4K対応テレビや2K(フルHD)のハイエンドモデルが好評であり、ソニーらしい商品が出てきたという声ももらっている。確かに年間1,600万台の出荷計画は強すぎるという声があることも知っている」としつつも、「コスト構造改革や分社化、販社の改善施策効果があること、さらに台数の減少があってとしても、市場の変化に対応できる体質となっており、損益インパクトは最小化できると考えている。想定外の事象にも対応できるのが、いまのソニーのテレビ事業。今年度は、テレビ事業を必ずは黒字化に持っていける」と言い切る。

仮に、1,600万台の数値を下回っても、テレビ事業は黒字化するというのが平井社長の考えのようである。ただ、市場環境が厳しいなかで、黒字化を優先するという施策を打ち出しながら、台数を追う成長戦略を持ちこむことには、違和感を感じざるをえない。