そしてイベントの前に行われたのが、、「あなたにとって、宇宙とは?」というアンケート。その一部を紹介する。ちなみに、読者の方なら何と答えるだろうか? 記者の場合は、「好きなもの。憧れ、いつかは行ってみたいところ」といったところ。

参加者のアンサーの一部を抜粋すると、「謎」、「不思議なところ」、「広くて謎が多くてこれから調べることがたくさんあるから興味深い!!」、「私にとっての宇宙は夢です」、「途方もなく自分より大きい存在」、「広くて星座がとてもたくさんあるところ」、「果てしないもの!!」、「可能性」、「カラフル、色んな形、おもちゃ箱」、「無限の可能性を秘めた宝石箱」といった具合。シンプルで「その通り!」という答えから、「なるほどねぇ」という答えまで、偉そうだけどなかなか面白いではないだろうか。

イベントは3部構成で行われ、まずは自分の現在地を考える「あなたは今、どこにいますか?」からスタート。これに対しては「できるだけ詳しく」という条件付きで、その結果、日本科学未来館とか、お台場とかは一般的だが、中には「日本科学未来館-お台場-東京-日本-地球」といった人も(画像4)。さすがに地球の後に、太陽系-天の川銀河-局部銀河群-おとめ座超銀河団…などと宇宙レベルまではなかった模様である(書いていても、気がつかれなかった、という可能性もあるが)。ただし、小学1年生のスーパーリケジョさんのように、「宇宙の中の地球の中の日本の中の東京の未来館の中のシアターの中の→から4個目の机のいすに座っている」などと超詳細に書いている人もいた。この子は、すごすぎである。ほかにも、「空気の中」なんて人も。

画像4。イベントの様子。7Fの部屋なので結構景色がよかった

現在位置に関しては、地球などヒトの目から見れば普通は不動のものを基準として住所を使ってみる方法もあれば、「誰々さんの右隣約1m」という相対的な表現もある。現在は、スマートフォンなどで地図アプリを使えば、どこにいるかというのを他者に伝えるのは簡単だ。しかし、そんなものがない時代、他者との遠距離コミュニケーションの手段が手紙しかないような時代、どのように伝えていたのか、という話に。そこでまず語られたのが、今から約2500年前のギリシャ人エラトステネスの話である。

エラトステネスはアレクサンドリア図書館の館長(正確には同図書館を併設する学術研究所ムセイオンの館長)を務めた人物だ。図書館に文献として、自分の現在地を他者に伝えられるよう詳細な世界地図を作ろうとして、まず自分がどこにいるのかを知る必要があることから地球の大きさを計測したことで有名である(この時点で、地球は丸いということはわかっていた)。エラトステネスは、離れた2地点の井戸に太陽光が真上から差し込む時刻の差などを利用して算出し、最終的に地球1周約4万5000kmとした。現在、地球は人工衛星などを利用して約4万kmであることがわかっているので、1割多い程度の答えを導き出したのだから、2500年前であることを考えればかなり正確な計算だったといっていいだろう。

続いては、エラトステネスと同じようなことをした日本人として、日本地図作りで知られる江戸時代の伊能忠敬の話へ。伊能忠敬は日本を正確に計測するのに、端から端まで10数年という時間をかけて歩いて計測。その正確さといったら、現代の地図との違いは埋め立て地などの関係で、東京を初めとする一部の都市の海岸線が大きく変わっているぐらいで、衛星などを用いて作成されている現代の地図と重ね合わせるとほぼ重なってしまうほど。2%ぐらいの誤差しかないそうで、さすがは職人気質を誇る日本人と感心させられてしまう話である。

また、伊能忠敬は日本地図作りの過程において地球1周の距離も算出しており、約4万kmに対して1~2%の誤差しかない数値だったという。そのほか、目印になるような高い山の高さも算出しており、富士山の高さは約3900mと3%ほどの誤差で、これまたかなり正確である。

という、人工衛星による測量はもちろん、レーザー測距機などの精密計測器もない時代に、頭脳と根気と方位磁針などわずかな道具を駆使した先人の話に習って、今度は、各グループ(10のテーブル別)ごとに壁と接している部分の天井(会場となった会議室は天井が窓側に向かって上がっていくので、要は最も低い部分)までの高さを測るというワークショップへ移行(画像5)。未来館特製大型分度器、1mのひもという2つのアイテムだけを使って計測するのである。

画像5。天井が斜めなので、壁と接している一番低い位置までの高さを計測

どうやって計測するのかというと、要は三角関数の世界である。なので、まずはどこから計測するのかを決め、そこから壁までの距離を測る(画像6)。この距離ももちろん1mのひもしか使えないので、その倍数の距離で測ると計算しやすい。そして測る人の目の高さを計測(画像7)。中腰になるなどして、ひもで測りやすい1.5mなどに観測者が合わせるというのもあり。次に、分度器で計測する人の目で見て天井と壁の接点の角度を測る(画像8)。分度器には赤いテープが照準としてつ両端にけられており、それらが計測者の目の位置から天井と壁のつなぎ目までを合わせることで角度を測れるというわけだ。

画像6(左):まずは壁から観測者までの距離を計測。画像7(中):続いて、観測者の目の高さを計測。画像8(右):分度器で角度を算出

計測者と壁までの距離、計測者の目の高さ、計測者の目から天井と壁の接点までの角度(見上げた角度)の3要素と、配布された「傾き表」という計算用の数値表、そしてヒントとなる図や計算の仕方などがあらかじめ記されているワークシートに各種数値を書き込み、算出(画像9)。結果、最も低いチームが258.55cm、最も高いチームが360.1cmということで、10チームの平均は約310cm。ちなみに今回のイベントをアシスタントした先輩リケジョ6名もあらかじめ同じ作業をして、2回測って、320.7cmと329.9cmだったそうである。

画像9。ワークシート(下に隠れているのが傾き表)。このチームは300cmと出たけど、果たして?

そして正解はというと、348cm。360cmとしたのは2チームあり、それがニアピンという感じ。3%ちょっとの誤差というわけだ。10チーム平均だと、12%の誤差である。エラトステネスはおおよそ12.5%の誤差で地球のサイズを導き出しているので、それと同じ程度の精度はあるわけだ。ニアピンとなったチームは、伊能忠敬クラスの正確さである。

そして、この誤差が生じてしまう理由は何かという話になり、定規が「1mのひも」と「分度器を利用した目測での計測」というところに要因があるということに。よって、もっと正確に測るには、より精密な計測用の道具もしくは機器が必要というわけである。ちなみに、たまに路上で作業着姿の人たちが何やら三脚の上の機器をのぞき込んでか作業をしていることがあるが、あれこそがレーザー測距機を用いた精密な測量作業というわけだ。

こうして科学技術の進歩と共に計測の技術がより正確になり、今では日本の建築・土木技術と組み合わさって、よく「プリン」などといわれるほど軟弱な地盤である東京の下町でもスカイツリーのような高い建造物を建てられるようになったというわけだ。