キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は4月10日、3D SYSTEMS製3Dプリンタのラインアップを強化すること、ならびにそれに合わせ、キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)が手掛ける3D CADソフトやMR(Mixed Reality)システム「MREAL」を組み合わせた3Dソリューションビジネスを本格展開していくことを明らかにした。

従来、同社の3Dソリューションビジネスは、インプットとしてキヤノンITSの3D CADソフト、アウトプットとしてMRシステム「MREAL」が提供されていたが、カスタマからはCGとして見るだけではなく、実際に触れて感触なども確かめたい、という要望が強かったという。そこで、実物をアウトプットするという意味で、今回の3D SYSTEMSとの関係強化による3Dプリンタのラインアップ拡充に至ったという。また、同社では近い将来、インプット側として3D CADデータを実際のモノを読み取ることで作製する3Dスキャナ(レーザースキャナ)も取り扱う予定としており、現在、3D SYSTEMSと契約内容の調整などを行っているという。

同社が3Dソリューションビジネスに注力する背景には、2014年度からの3カ年計画「中期経営計画」の中に、「グループの総力を結集したスピード感のある事業創造・新規商材調達」と「全事業領域における"Beyond JAPAN"の推進」という2つの戦略が掲げられていることが挙げられる。自社製品に限らず、海外の良いものを取り入れ、カスタマに提供していくことで事業の拡大を図るという戦略で、同社では独自事業という位置づけだが、同社の今後伸びていくであろう「NVS(ネットワークカメラ)」、「プロダクションプリンティング(PP)」、「医療や流通といった業種向けソリューション展開」と合わせた成長エンジンに指定されている。

同社におけるビジネスソリューション(BS)の売り上げは全体の約5割を占める。BSの今後の成長エンジンとして、3Dソリューションビジネスに期待がかかる

3Dソリューションの販売は、ものづくりの現場に販売していくこととなるが、「デザインやプロトタイプに携わる部門などをターゲットに販売していく」(同社)とのことで、製造業をはじめ、建築・建設業、教育分野、そして将来的には医療分野などに、3Dプリンタの販売を行い、2016年度には260億円と予想される国内法人向け3Dプリンタ市場(材料・保守費用含む)の20%を獲得することを目指すほか、3Dエンジニアリング事業などでも50億円程度の売り上げを目指すとしており、3Dソリューションビジネス全体で100億円以上の売り上げを目標に掲げる。

しかし、すでに大手を中心にかなりの数の企業が3Dプリンタを活用しており、そこにどうやって食い込んでいくか、というビジネス上の課題が生じることとなる。これについて同社では、すでにインプットの部分では3D CAD(SolidWorks)の普及が進んでいるほか、そしてアウトプットの部分ではMREALが自動車業界を中心に一定の評価を得ており、「仮想現実に関しては先行しており、このメリットを現実に拡張していく」(同社)と、これまでのビジネススタイルを拡張していく形で顧客の獲得を目指すとする。

ターゲットとするのは「製造」「建築・建設」「教育」「医療」そして出力サービスを手掛ける「サービスビューロー」。仮想現実に対するインプット/アウトプットはこれまでのビジネスでノウハウがあり、そのノウハウを現実方向に横展開していくことで市場の獲得を狙う

特に製造業の分野では、3Dプリンタの操作性や精度が向上し、価格も下がり、サイズや稼働音もオフィスにおけるレベルになってきたものの、そうしたことを知らない人がまだまだ居たり、金型を起こして試作を行うという文化が根強く残っていたりと、参入の余地が大きいという。特に、グローバル化が進む現在、製品開発の短TAT化が求められるようになり、ラピッドプロトタイピングの実現は必須となってきており、手戻りなどの回数や試作時の金型費用の抑制が可能な3Dプリンタの活用が重要になってくるとする。

日本のものづくりの多く現場がさまざまな課題を抱えている。そうした課題の解決策の1つとして3Dプリンタ/ソリューションの活用を提案していくこととなる

また、3Dプリンタメーカーは複数あるが、大手の1社である3D SYSTEMSと組んだ理由として同社は、「製品バリエーションが幅広く、ハイエンドの性能や精度をローエンドにも展開しやすいほか、精度やマテリアルの混合、フルカラー対応など機種選択の幅が広いという利点がある」とするほか、「3Dプリンタそのものだけではなく、スキャナからツールまで一貫して提供しており、そこに3Dソリューションを手掛けてきたキヤノンMJのノウハウやインプットからアウトプットまで手掛けるといった想いと被る点が見受けられたため」とする。

3D SYSTEMSの各種製品やツールにキヤノンITSなどが培ってきたノウハウなどを組み込むことで、インプットからアウトプットまでトータルなソリューションを構築することができるようになる

実際の販売体制だが、当初は専任メンバー10名と全国に30名のキーパーソン30名を配置し、販社やパートナー企業と連携し、各地の顧客にアプローチをかけていくほか、サポートとして、3D SYSTEMSよりサービスマン認定を受けたカスタマエンジニアを東京に5名配置するほか、2014年6月末までに北海道・東北・関東・中部・近畿・中国/四国・九州の7エリアにも1人ずつ配置する予定としており、その後も、3Dプリンタを導入したカスタマ近くに認定を受けたカスタマエンジニアを配置していく計画とする。

さらに東京・品川にプロフェッショナルモデル「ProJet 3500 HDMAX」と「ProJet 660Pro」を実際に体験できるショールームも開設しており、今後、大阪などでも実際に体験できるショールームを開設していく計画だとしている。

このほか、資金力に乏しい中小企業や小規模事業者に対しては、3Dプリンタなどを導入する際に助成が受けられること、その助成がどういった内容であるか、といったことも含め、3Dプリンタの活用提案を行えるだけの「御用聞きにはならないプロフェッショナルな営業チーム」を育成していくとのことで、ソリューション全体の活用に向けたアプローチなども教育といった側面含め、進めていくという。

なお、キヤノンは2014年3月10日に発表した2014年経営方針説明会にて同社代表取締役会長兼社長 CEOである御手洗富士夫氏が3Dプリンタビジネスを将来の事業の柱の1つにしたいということを話しており、そこからもキヤノン全体としても3Dソリューションビジネスに向けた意気込みを窺い知ることができる。

東京・品川にある3Dプリンタが設置されたキヤノンMJのショールームの様子。大型の方が「ProJet 660Pro」、小型の方が「ProJet 3500 HDMAX」。なおショールームで実際に出力を行う場合、あくまで商談が前提のため事前に同社にデータを渡して、当日にその出力されたものを受け取る、またはその出力の様子を確認するといったものとなる

左と中央は実際に「ProJet 660Pro」にて出力された(出力途中)のもの。右は3D SYSTEMSの3Dスキャナ

MREALと、MERALを通してみた場合(MR)と通さなかった場合(現実)の画像の違い(下段中央と右)。バイクのハンドル部分を3Dプリンタで出力している。重ねあわせて、実際に触れてみることで、ハンドルの感触をより現実に近い形で確かめることが可能になる