2010年の社長就任以来、「3M戦略」を掲げてauの復活をけん引してきた代表取締役社長の田中孝司氏。当時はスマートフォンで出遅れ、純増数でも他社に引き離されるなど、危機的な状況にあった。

これを打開すべく、2011年度にはWiMAX対応スマートフォンやiPhone 4Sを導入。2012年度には、800MHz帯でLTEを開始し、今の"つながるLTE"の基盤を作った。2013年度は「3M戦略の深化」として、「auスマートサポート」や「auスマートバリューmine」などの施策を導入している。

こうした戦略や矢継ぎ早なサービス対応が功を奏し、KDDIの業績は一気に回復した。MNPでは他社からの流入が続き、直近に発表された第3四半期の決算も増収増益と好調だ。同社は2015年度上期まで、毎期営業利益を2桁成長させることを目標に掲げ、その勢いを維持しようとしている。

その目標に向け、KDDIは2014年度をどのような武器で戦っていくのか。新年度を迎え、KDDIの田中社長が今期のテーマや、そこに込めた思いを語った。

適切なレベルにキャッシュバック競争をとどめたかった田中氏

――まず、2014年にはVoLTE(ボイスオーバーLTE=LTEのデータトラフィックを使う音声通話)を導入すると思いますが、これについてはいかがでしょうか。

  • 田中氏

VoLTEになると、データパスに音声が流れてくるので、料金的にはバンドルプランになってくるでしょう。定額が導入されるというのは(他社と)一緒だと思いますね。でも、歴史的に見るとおもしろいんですよ。元々は音声に複数プランがあって、その上でうちだと「ダブル定額」や「ダブル定額ライト」があって、正直ややこしかった(笑)。あのときは、「複雑でわからない」と批判も受けました。

そのあと、ソフトバンクさんが音声にホワイトプランを入れてシンプルになり、そこに僕らが追従しました。データプランもフラットになりましたけど、使い放題だと上限がないと厳しいということで、ドコモさんがまず7GBを設定して、それが業界の標準になっています。

KDDI 代表取締役社長 田中 孝司氏

これが、VoLTEが始まり、音声とデータが一緒になると、また複数プラン化していくのではないかなと思っています。ただ、音質が良くて、複数のティアードタリフがあるというだけではつまらない。うちは、「WOW(驚きをあらわす英語)」まではいかないにしても、ワクワクするものにしたい。(編集部注:ティアードタリフは、「複数の料金プラン」を意味する)

サービス的には昨年度を通してみると同質化が進みました。LTEがそろってきて、端末の差別化も少なくなりました。ドコモさんが最後にiPhoneを導入されて、比較するものがなくなり、みんながキャッシュバックへ行ってしまいました。本当は「適切なキャッシュバック」と言ったときに、あのくらいでみんなやめてくれればよかったのに(笑)。

――あれは、他社をけん制する意味もあったんですね。その同質化が進むなか、今年はどうなると見ていますか。キャッシュバックはひと段落しましたが、次は何で差別化できるとお考えですか。

  • 田中氏

今期は、LTEがLTE Advancedになり、料金以外のところで訴求の軸ができます。新しいテクノロジーが入ってくるのは大きい。VoLTEが入れば、そこに引きずられて料金も変わります。インフラに合わせた新たな機能やサービスが出てくるので、次の世代に進む最初の年になるんだと。「au Wallet」のような少しリアルな世界も、自分たちのターゲットのドメインにしたいと思っています。

――田中社長の「あれ、高いよね」で話題になったソフトバンクの料金プランが、1日に改定されて条件がよくなりました。あれを受けて、KDDIはどのような手を考えているのでしょう。

  • 田中氏

うーん、うちの中ではまだファイナライズされてませんね。特徴というか、キャリアの中でバラエティはあった方がいいと思ってます。

面白いのは、ペネトレーション、いわゆる携帯電話の浸透率が日本では今107%ぐらいです。この辺りの普及率だと、「殴り合いの完成系」に近い形になるというか、相手を見ていいスキームがあったら、すぐにそこに引きずられてしまいます。韓国などの海外を見てもそうですね。いろいろな差別化要素があったものが、同質化していく。ここで差別化をするのは、すごく重要です。

飛び抜けたものではないかもしれませんが、去年は「auスマートサポート」をやりました。サポートは有料じゃないという文化みたいなものがあったじゃないですか、日本には。そこに有料で飛び抜けたものをやりたいと思い、そんなに儲かるわけじゃないですけど、やりました。「auスマートパス」のクーポンも、リアルに出て行くときのためにやっておきたかった。(単なる料金競争ではなく)違ったもの、新しいものを意識して進めていきたいですね。

モバイルOSが二元論で語られる現状は悲しい

  • 田中氏

消費者には許容できる心を持ってほしいという

端末でいえば、Firefox OSもそう。ちょっと脱線しますけど、いいですか? だいだい、日本は新しいものに対して、まず批判からスタートする。アメリカがなぜアーリーステージで大きくなれるのか。もちろん、資金的なサポートはありますが、悪いものをいいもので埋めるという文化があるからです。たとえば、何かソフトが出て、よく落ちるとしても、何か新しいところがばガーっと上がっていきます。日本だと、「こんなのダメ」や「品質が悪い」から先に入ってしまう。そうして、結局は何だかんだで大きい企業から物を買う。小さい企業に対してそういうことをやってはいかんと思うのです。うちも大きいんですけど(笑)。

何を言いたいかというと、とりあえず第1号機に細かなことを言わないでほしい(笑)。市場性なんかを考えると、ろくなことができないですから。(売れるか、売れないかでいえば)これは宣伝費みたいなもので、マーケティングの仕方も変えていきます。でも、気合としては結構すごい。これは違うというところまで、持っていきたいと思ってます。結構いいですよ。

――「INFOBAR」や「isai」など、他社とは違う端末を作ろうしているところは、auの評価にもつながっていると思いますし、期待も高いところだと思います。

  • 田中氏

そういうことを言われるとうれしいですね。

――ただ、Windows Phoneの後継機が出ていないこともあり、もう少し継続性があってもいいのではないかと思います。

  • 田中氏

そこで、あとさき考えてどうするんですか!(笑)

Windows Phoneについては、僕たちだけで出せるものではないですからね……。色々あるんです。でも、この前のノキアの端末は結構よかった。僕は割と好きです。世の中のOSに対する意識が(iOSとAndroidの)二元論のようになっていて、それ以外に興味がないという論調になってしまっているのは、ちょっと不幸なことだと思いますね。

iOS端末ばかり売れる現状は健全ではない

――端末という点では、iOSやAndroidはいかがでしょうか。昨年度はファブレットなど、新しい打ち出しもありました。

  • 田中氏

日本はまだiOSの比率が全然高い。韓国だと、iOSは5%とかそんなもんですからね。あちらではユーザーが完全にビデオ志向になってますし、画面はでかくなきゃダメとなっています。

日本がこういう状況というのは、同質が好きな国民性はあるのかもしれないですが、あまり健全ではないと思ってます。今期は少し(Androidに)戻ってくるのかもしれないですね。

――ただ、テレビなどを見ていても、Androidの宣伝の量が圧倒的に少ないですし、たとえばauがファブレットを打ち出しているということが、一般のユーザーまで伝わり切っていない印象を受けます。

  • 田中氏

そう。宣伝がどうしても表層的なところに閉じてしまっている。ネットでは話題になっても、見てない人はまったく見てない。その中間にあるミドルメディアがもう少しないとここも二極化しそうな感じがします。伝える努力はもっとしないと、何とかというサービスを考えても、伝わる前に終わってしまいます。

――タブレットについては、いかがでしょう。

  • 田中氏

引き続きがんばっています。売れてなくても。あ、売れないっていうのはダメですね(笑)。でも、実際には徐々に上がっていっています。いわゆるファブレットのような大きな端末1台で済むのか、2台持ちになるのかは国によるところもあるんじゃないでしょうか。

先ほどお話した韓国だと、タブレットがあんまり売れてないと聞きます。それはいわゆるファブレットが売れているからですが、日本はまだはっきり分かりませんが、どちらかというとタブレットが少し強いですね。ただ、それも今はiPhoneがあの(4インチ級の小さい)サイズなので、そういう結果になっているだけかもしれません。

データシェアプランも、もう少しタブレットが売れてくれると気合が入るのですが。あれはセットで非常に通信を安く見せていますが、ある程度のサブシディモデル(契約型モデル)は必要かなと感じています。