排気口は丸見え、でも「水没」OK

ARROWS Tab QH77/Mのタブレット部分は、IPX5/7/8準拠の防水性能、そして、IP5X相当の防塵性能を実現した点も大きな特徴だ。2013年秋に行われた製品発表会では、水槽の中でARROWS Tab QH77/Mを動作させ、水の中でもファンが動作している様子をみせた。これまでの常識からすれば、空冷ファンが水の中で動作している様子はあまりにも異様だ。排気口からファンが見える状態のタブレットをそのまま水に浸けるという時点で不安を覚える。

2013年秋の製品発表会で披露された完全水没デモ

「家庭内だけの使用、オフィスの中だけの使用ということを考えれば、非防水、非防塵でも構わないが、ARROWS Tab QH77/Mで想定している使い方は、室内でも室外でも使えるオールラウンド用途。最上位のタブレットに相応しい使い方を提案するためには、防水、防塵は不可欠であった」と、多鹿シニアマネージャーは語る。

防水、防塵は、富士通製タブレットの特徴ではあるが、ARROWS Tab QH77/MではHaswellを搭載するとともにvProにも対応。そして、ターボモードにも対応し、CPUの性能を最大限に発揮させるため、空冷ファンを搭載している。この仕様も最上位のタブレットとしては外せない要件だった。

だが、空冷ファンには、外に熱い熱を排出するための吹き出し口が必要だ。しかし、水や埃の浸入を防ぐ「防水」「防塵」は吹き出し口をなくさなければならず、相反する状況が生まれることになる。つまり、ARROWS Tab QH77/Mでは、一般的なタブレットでは背面にある吸気口、側面などにある排気口は持つことができない構造となるのだ。

そこで富士通では、モーター部などを防水対応した新たな空冷ファンを開発。これによって、水の中でもファンを動作させることに成功。防水構造を実現しながら、空冷ファンを搭載する仕組みとした。防水対応のシールド部などには、携帯電話のノウハウも活用されているという。

また、排気口部分は水が入るが、本体内部には水が浸入しないような構造となっており、本体内に約1.5mmの厚さの「断熱層」を設けることで電気部を保護し、効率的に放熱させる仕組みを新たに採用した。

製品発表会で説明された、新防水ファンの特殊な構造

ファンの排気口は本体左側面に設けられている

富士通周辺機 開発統括部 機構開発部 中道清担当部長

富士通周辺機 開発統括部 機構開発部・中道清担当部長は、「防水と放熱は相反する取り組みが必要になる。防水はパッキンで周りを塞ぐため、空気の流れができないようにする。逆に、薄型筐体のなかで放熱させるためには、空気の流れを作らなくてはならない。これまでのノウハウがそのまま通用しない、新たな放熱の考え方が必要とされた」と前置きし、「構造の一部には、携帯電話で活用した防水、放熱の考え方を採用した。ARROWS Tab QH77/Mでは、あえて金属のフレームを使わず、樹脂と一部に板金を使い、ここを空冷ファンで冷やすという方法を取った。何度もシミュレーション解析を行い、最も効率的な冷却方法を導き出した」とする。

マグネシウムを使えば、熱の伝導には適しているが、背面部が熱くなりやすいという課題が発生し、背面部を持った手に低温やけどを起こす原因にもなる。「設計当初は、表面温度が目標よりも10度以上も上回る状況だった」というが、ARROWS Tab QH77/Mでは樹脂の採用などとともに、背面カバーに熱を伝えにくい構造を採用し、そうした課題を解決しているという。

排熱ファンを除くタブレット本体の端子類には、防水仕様のカバーがかぶせられている

本体背面。樹脂の採用やレイアウトの工夫で、背面に熱を伝えにくい構造を実現した