Tim Cook氏がTouch IDと決済に言及

NFCの大きな将来性を担っているモバイル決済についても、枯れた技術として掃き捨てられてしまうのだろうか。

調査会社Forrester Researchによると、米国のモバイル決済は2012年から2017年までの5年間におよそ7倍以上になると予測している。インターネット決済の仕組みを作り上げたPayPalに加えて、前述のモバイルによるクレジットカード決済からモバイル決済へと拡大するSquareや類似サービスも急成長する分野だ。

Appleも、iTunes Music Store開設以来、App Store、Mac App Store、iBookstoreとデジタルコンテンツのストアを拡充し、これらを購入するために登録してもらったクレジットカード番号を管理している。現在世界で5億7500万人に上り、このアカウントをいかに安全に実生活における決済で活用するかには、大きな可能性があるのだ。

その点について、最近インタビューの場でTim Cook氏が意外なセンサーの名前とともに展望を話した。それはiPhone 5sに初めて搭載された指紋認証センサーTouch IDだ。Wall Street Journalによると、「Touch IDを導入するにあたり、モバイル決済への興味を持っている」と。

Appleは既にTouch IDをパスワード入力の代わりとして、iTunes StoreやApp Storeでの決済に利用しており、またiCloudキーチェーンという機能ではウェブでのクレジットカード番号入力を簡略化する仕組みをSafariで取り入れている。

iOS 7のSafariではクレジットカード番号の入力を承認したすべてのデバイスで最新の状態に保てる

こうした状況からは、「指紋認証でアプリや店舗に対してクレジットカードへのアクセスの許可を与え、その認証デバイスとしてTouch ID付きのiPhoneを活用する」という非常にシンプルなアイデアが浮かんでくる。現在のiOS 7では、iPhoneに搭載されているマイク、位置情報、連絡先、カメラ、写真といったセンサーや情報に対して、アプリに許可を与える形式を取っている。

iCloudキーチェーンの情報を使う際、常に許可を取るのか、都度許可を取るのかは実装次第だが、前述のWi-FiやiBeaconで決済の場所を確定し、Touch IDで認証するという方法であれば、すぐにでもモバイル決済のプラットホームを作ることができそうに思える。

AppleがNFCについて何も考えていないわけではない。Appleのエコシステムの価値を高め、かつ新しく自然な使い方を提案することができるなら、あるいはiPhoneにNFCが搭載されることもあるかもしれない。

松村太郎(まつむらたろう)
ジャーナリスト・著者。米国カリフォルニア州バークレー在住。インターネット、雑誌等でモバイルを中心に、テクノロジーとワーク・ライフスタイルの関係性を追求している。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、ビジネス・ブレークスルー大学講師、コードアカデミー高等学校スーパーバイザー・副校長。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura