理想を現実へと形づくるために

夢にあふれた企画は、このときから現実へと向かうことになった。その過程で大きな役割を担った尾澤氏は、当時を次のように振り返る。

尾澤氏「カシオが足を踏み入れたことがないクラフト女子向けの企画だったので、どうやったらユーザーの目に届いて、手に取ってもらえるんだろう…というのが最初の印象でした。取り扱ってもらうショップなどを新たに広げていかないと、pomrieそのものを知られることなく終わりそうだという不安もありました。でも、何十ページもある厚い企画書を手に何度も説明してくれる彼女の熱意に、何かいい形にして商品化できればと思いました」

どんな企業も、前例がないプロジェクトをそう簡単には進ませてくれない。積極的に社員のアイデアを採用するカシオでも、かなりのハードルがあったという。

pomrieは机やテーブルの上に"ちょこん"と置いて使えるサイズ。写真左はスマートフォンとボールペンと並べてみた。写真右は男性の手に持ったところ

尾澤氏「やはり、ある程度は売れる見込みがないと商品化できません。事業として本当に成立するのかと何度も念を押されていたので、村田にはもっとターゲットを広げてみようよと説明したりしました」

カフェや雑貨店での取り扱い、オリジナルの絵や写真をスタンプにする機能が活用できそうな幼稚園など、より効果的にユーザー層へとリーチできる工夫や仕組みが加えられた。

村田氏「デザイン室に戻って考えていると『クラフト好き女子はこうで…』という方向にどうもアイデアが向かってしまって。軌道修正するようにと、よく叱られました(苦笑)」

尾澤氏「でも、普段は営業や商品企画のメンバーが中心になることが多いので、デザインチームという新たな風があったのはとても新鮮でしたね。デザインチームは理想を追いかけるので、できないことは多いんですけど(笑)、そんな方法もあるんだと気付かされることも多くて。ターゲットや流通も今までと違う新しい商品なんだし、逆にこちらも今までと違った目線で提案できたり、常に良い刺激がありました」

スタンプの天面には印影のシールを貼る仕組み(写真左)。印面では複数のインク色を使える(写真右)

カシオのエンジニア魂が込められたキュートなプロダクト

こんなカワイイ小瓶も簡単に

技術面でも新たな開発が必要になったこともあり、プロダクト全体でのやり取りが平行されていった。コストに関する厳しい意見があったり、女性エンジニアの少なさもあって、気軽さからは遠く離れた機能や操作性になりそうになったりと、苦しい部分も多くあった。

尾澤氏「とはいえ、開発に要望を伝えると、それに対して思った以上の工夫をして戻してくれるので、本当に嬉しかったです。例えば、お客様により手ごろな価格でスタンプを作って楽しんでいただきたいという思いから、スタンプ印面の付替え提案をしました。木材のボディは質感は良いのですがコストがかかるので、1つのボディを繰り返し使えると経済的ですよね。

私たちのアイデアは『印面を両面テープで張り替える』でしたが、戻ってきた方式が『着脱方式』だったのです。このアイデアにはとてもビックリしました。開発メンバーは、常にユーザーの方々が使いやすい方法を考えてくれてました」

また、pomrieの特徴の1つである多色インク使いも、技術開発の中から実現したものだ。印面の表からインクを染み込ませる構造ができ上がり、部分的な塗り分けも可能になったというから驚きだ。その他にも、スタンプ絵柄作成用アプリのUI(ユーザーインタフェース)や本体の質感、Webサイトなど、さまざまな要素が事業部とデザイン部、営業部のトライアングルの中で詰められていった。

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