米Appleが9月10日(現地時間)にカリフォルニア州クパチーノにあるApple本社でスペシャルイベントを開催し、新型iPhoneの2機種「iPhone 5s」「iPhone 5c」を発表した。発売日は両機種ともに9月20日で、日本でも同日発売となる。また、今回からNTTドコモがiPhoneの販売に参入し、これによりiPhone 5sとiPhone 5cは日本ではドコモ、KDDI、ソフトバンクから販売される。本稿では、各社のネットワークに着目し、新型iPhoneを取り扱う3社が今後繰り広げる競争ついて展望していきたい。
最先端モデル「iPhone 5s」とカラフルな「iPhone 5c」
今回、AppleはiPhoneシリーズで初めて2機種を同時発表した。iPhone 5の後継となる上位機種「iPhone 5s」と、5色展開されるポリカーボネート製の「iPhone 5c」だ。それでは、両機種について詳しく見ていこう。
iPhone 5sは、対角4インチのRetinaディスプレイ(1136×640ピクセル、326ppi)を搭載した最先端モデル。CPUには、64bitのApple A7チップを搭載。また、モーションデータを扱うM7モーションコプロセッサも搭載する。メインカメラは800万画素とピクセル数は変わらないものの、ピクセルの大きさが15%増している。また、F値2.2の明るいレンズ、2色のLEDのTrue Toneフラッシュを搭載し、より美しく、現実の色に近い撮影が可能となっている。さらに、ホームボタンには新たに指紋認証センサーを搭載。指紋認証により画面ロックの解除が行えるほか、iTunesでのコンテンツ購入も同機能により可能となる。
連続通話は最大10時間(3G)、連続待受は最大250時間。ストレージは16GB/32GB/64GBの3タイプを用意。サイズ/重量は、(H)123.8×(W)58.6×(D)7.6(mm)/112gと、iPhone 5と同じサイズ、重量となっている。デザイン面ではiPhone 5と大きく変わらないものの、ブラック、ホワイトを基調にした従来のカラーラインナップから変わり、スペースグレイ、シルバー、ゴールドカラーの3色展開となる。OSはiOS 7を採用。通信面では、3G、LTE通信ほか、Bluetooth 4.0、無線LANは802.11a/b/g/n(2.4GHzおよび5GHz)に対応。
一方のiPhone 5cは、5色展開されるカジュアルなモデルとなる。カラーラインナップは、ホワイト、ピンク、イエロー、ブルー、グリーン。本体にはポリカーボネート素材を採用。対角4インチのRetinaディスプレイ(1136×640ピクセル、326ppi)を搭載し、CPUには、iPhone 5と同じApple A6チップを搭載。メインカメラは800万画素で、LEDフラッシュを搭載。指紋認証センサーは搭載しない。
ストレージは16GB/32GBの2タイプを用意。サイズ/重量は、(H)124.4×(W)59.2×(D)8.97(mm)/132g。iPhone 5sと比べると、高さと幅が約0.6mm、厚さが約1.3mm大きく、重量は20g重くなる。連続通話は最大10時間(3G)、連続待受は最大250時間。OSはiOS 7を採用する。通信面では、36G、LTE通信ほか、Bluetooth 4.0、無線LANは802.11a/b/g/n(2.4GHzおよび5GHz)に対応。
iPhone 5sとiPhone 5cは、それぞれ対応ネットワークに応じて4つのモデルが用意されている。詳しくはAppleのWebサイトに紹介されているが、前機種のiPhone 5と比べて、対応するLTEの周波数帯が大幅に増えている。日本のドコモ、KDDI、ソフトバンクから販売されるのは、iPhone 5s(モデルA1453)、iPhone 5c(モデルA1456)となる。日本でLTEに利用されている周波数帯では、従来の2GHz帯、1.7GHz帯に加え、ドコモとKDDIが利用している800MHz帯にも対応した。
新型iPhoneを巡る3キャリアの競争の軸はネットワークに
iPhone 5sとiPhone 5cの新型iPhone2機種は、日本ではドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社から販売される。これまでiPhoneを販売していなかったドコモがついに参入し、iPhoneという主力製品を手にした3キャリアの本格的な競争が開始される。同一製品を扱うことで、各社の競争の軸となるのは、ネットワークと料金プランだ。料金プランについては、近日中に発表が行われる見込みだが、ここでは新型iPhoneのネットワークについて見ていこう。
先述の通り、新型iPhoneは前機種iPhone 5と比べて、対応するLTEの周波数帯が大幅に増え、2GHz帯、1.7GHz帯に加え、800MHz帯にも対応した。ここで、各社の新型iPhoneが利用できるLTEの周波数帯をまとめてみると、ドコモ版は800MHz・2GHz帯、KDDI版も同じく800MHz・2GHz帯、ソフトバンク版は1.7GHz・2GHz帯となる。
中でも、とくに注目すべきは800MHz帯のLTEへの対応だ。マイナビニュースでも以前取り上げたが、電波の周波数帯のうち700MHz帯から900MHz帯までは「プラチナバンド」とも呼ばれている。これらの周波数帯は減衰が少なく、障害物を回り込む性質があるため、遠くの場所やビル陰などにもよく届き、つながりやすいのが特長。プラチナバンドを利用するLTEが「プラチナLTE」であり、つながりやすいLTEネットワークとなる。
日本では800MHz帯をLTEに利用しているのはNTTドコモとKDDIの2社で、とりわけKDDIは800MHz帯をメインでエリア展開し、下り最大75Mbps対応エリアの実人口カバー率は8月末現在で97%となっている。一方、ドコモは800MHz帯LTEの展開は消極的で、1.5GHz・2GHz帯をメインに展開している。また、ソフトバンクはプラチナバンドである900MHz帯も所有しているが、現在は3Gのみで利用しており、LTEでは利用していない。900MHz帯を利用したプラチナLTEは、2014年のサービス開始を予定している。このような各社の周波数帯の状況から言えるのは、新型iPhoneのネットワークでは、現時点でKDDIが優位に立っているということだ。
通信速度調査も示す800MHz帯LTEの優位性
KDDIの800MHz帯LTEは、前機種iPhone 5では対応していないが、同社のAndroid端末ではすでに対応しており、通信速度などの各種調査では好成績をおさめている。イードが運営するIT総合ニュースサイト「RBB TODAY」が、8月28日に公開した通信速度の調査結果レポート(http://news.mynavi.jp/articles/2013/08/29/lte_research/)では、3キャリアのLTE接続率、平均スピード分布を比較分析している。
同調査によると、日本全国のLTE接続率をOS別に比較したところ、最もLTEに接続できたのはKDDIのAndroid端末で、接続率99.1%とほぼすべてのエリアでLTEが利用できた。次いで、ドコモのAndroid端末のLTE接続率が84.7%、ソフトバンクのiPhoneが84.0%という結果だった。なお、KDDIのAndroid端末のLTE接続率は、各都道府県別で見た場合も総じて90%以上をキープしたという。
また、通信速度8Mbps以上の高速環境で接続される割合を調査した結果、首位となったのはKDDIのAndroid端末で82.3%。以下は、ソフトバンクのAndroid端末が70.8%、ドコモのAndroid端末が51.8%だった。さらに、通信速度16Mbps以上で接続される割合についても、KDDIがトップで53.8%、次いでソフトバンクのAndroid端末が44.2%、ドコモのAndroid端末が25.5%という結果となり、各社端末の中でKDDIのAndroid端末が高速環境で接続できる割合がもっとも高いことがわかった。
同調査のレポートでは、「KDDIのAndroid端末のLTEは他キャリアよりも高速でつながりやすい」と指摘。その要因として800MHz帯のLTEを挙げ、「(KDDIの800MHz帯の)整備が充分に進んでいる」と考察している。
同調査は、KDDIの800MHz帯LTEを利用できるAndroid端末の速さとつながりやすさを実測データに基づいて明らかにしたものだが、今回、新型iPhoneが800MHz帯に対応したことで、調査で優勢となったKDDIのネットワークを新型iPhoneでも利用できることになる。
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ついに姿を現した米AppleのiPhone 5sとiPhone 5s。最新OSのiOS 7をはじめとして様々な新機能にも注目が集まるが、新型iPhoneのキャリアを選ぶ際に見逃せないのが各社のネットワークだ。中でも、新型iPhoneが新たに対応した800MHz帯のプラチナバンドのLTEは、各社のネットワーク競争の行方を占う上で焦点となると思われる。現時点では、800MHz帯をメインで展開しているKDDIが優位に立つが、ドコモ、ソフトバンクを含め、今後3社がそれぞれどのような取り組みを打ち出すかに注目したい。