イラストや写真を扱うクリエイターなら、一度は導入を考えたことがあるだろう液晶ペンタブレット。2013年3月、ワコムからコンパクトで10万円を切る低価格帯の「Cintiq 13HD」が発売されて大きな話題となり、今も多くのクリエイターの関心を集めている。今までプロ向けの専用機材との向きが強かった液晶ペンタブレットの裾野が広がり、さらに多くのクリエイターの創作手段として見られるようになったと言えるだろう。
今回は、創作の現場に数多くの最新デバイスおよびソフトを取り入れ、実際に「Cintiq 21UX」を用いた作業も行っている漫画家・平尾リョウ氏に、普段用いているソフトから、「Cintiq」シリーズと使うことでより効率や使い心地の向上するものをピックアップしてもらった。
CLIP STUDIO PAINT EX (株式会社セルシス)
平尾氏は、カラーイラストからモノクロ漫画まで、多くの作業をこのソフト1本で制作している。仕事用のソフトを1本に集約したことで、漫画用の複数ページ管理画面をそのままプロジェクトの制作物管理としても使えるため、"参照したい絵がどこにあるか分からない"場面が減り、利便性が高まったという。
「CLIP STUDIO PAINT EX」はセルシスが提供する描画ソフトの中では最も多彩な機能を搭載した最上位版。同シリーズの「CLIP STUDIO PRO」はペイントソフトとしては安価な部類になるため、「Cintiqで何か描いてみたい」と思った時の最初の一本としてはお勧めだそうだ。
Photoshop CC (アドビ システムズ)
6月より提供開始されたアドビ システムズの最新写真加工ソフト「Adobe Photoshop CC」を、平尾氏は納品データの最終的な確認や調整に使用している。
「Photoshop」は画像編集ソフトの代表的なものであり、同氏の経験からしても、「出版社やゲーム会社問わず、必ずといっていいほど使われている」とのこと。つまり、このソフトで確認して問題なければ、納品先とのデータのやり取りにまず問題は出ないそうだ。
また、色味の微妙な調整の処理が速く容易なので、最終工程を行うのに適したソフトと感じているそう。そうした作業の中で、細部を複雑な形に切り出して指定したり、調整用のバーを細かく動かすことになるので、Cintiqのペンを使ったほうが効率良く作業できるという。
Illustrator CC (アドビ システムズ)
グラフィックデザインを手がけるクリエイターであれば避けて通れない描画ソフトの最新版「Adobe Illustrator CC」。平尾氏はイラストに組み込むロゴやシンボルマークの作成に使っている。一般的なペイントソフトでは表現が難しい、プロダクト的な硬質さや、切れ味の鋭い線が欲しい時には特に重宝しているとのこと。
また、CS4以降から搭載された写真を自動でトレースする「ライブトレース」機能が入ってからは、ラフからの仕上がりがより速くなったとコメントしていた。
Lightroom 5 (アドビ システムズ)
平尾氏が最後に挙げたのは、意外にもフォトグラファーがメインターゲットの写真編集ソフト「Adobe Lightroom 5」。漫画やイラストの資料として撮影した写真の管理、調整に用いているという。
写真の撮影から戻った直後は、背景やテクスチャ用の素材がメモリーカードに大量に入っている状態だ。そのため、スムーズに選別と編集を行うには、やはり専用ソフトが欠かせないと平尾氏は語る。また、資料写真にテクスチャ素材で強いコントラストや色調整を行なったとしても、同ソフトは現像ソフトであるため、元のRAWデータに影響がないことが重宝してるとのこと。データと調整の履歴が残っていれば、いつでも気軽に別バージョンにして使い回すことができるからだ。
また、Lightroom 5で強化された「スポット修復ブラシ」を用いれば、複雑な形状の修正箇所も、なぞって修復できるようになったため、ここでCintiqのペンが活躍。背景に必要ない人物や電線、テクスチャ素材のゴミなどが簡単に除去できて便利だということだ。
いかがだっただろうか。上記に挙げたソフトはプロの現場で使われているものばかりなので、液晶ペンタブレットの導入を検討する際にはぜひ参考にしてほしい。
平尾リョウ
首都圏在住の漫画家・イラストレーター。スクウェア(現在のスクウェア・エニックス)でイラストや絵コンテ制作などに従事。現在は、フリーランスとして、漫画やイラスト制作、キャラクターデザインなどを行なっている。現在、月刊ニュータイプ(角川書店)にて、「4じてん。」を連載中のほか、マイナビベアのキャラクターデザインも担当している