9種類の抹消方式の違い
このような手順でストレージだけでなくファイルやフォルダーを抹消できる「HD革命/Eraser Ver.4」だが、ストレージに対する抹消方法は、MBR(マスターブートレコード)の抹消を含めて9種類をサポートしている(図12)。
「MBRの抹消」は、HDDの先頭セクタに作成されるMBRを対象にした抹消方式。MBRにはパーティションサイズやOSの起動情報が記録されているため、MBRを消去することで見た目上はディスクの内容が抹消されたように見える。ただし、データ領域に保存した内容はそのままとなるため、抹消は一切行われない。
「0(ゼロ)で抹消」は、クラスタ(複数のセクタをまとめた単位)に対して「0x00」を書き込む抹消方式。抹消レベルは非常に低いが、他の抹消方式と比べると圧倒的に早く終えるものの、残留磁気を読み取る復元方法を用いると復旧できる可能性はある。「乱数値で抹消」も同じ方法だが、ランダムに生成した数値を各クラスタに書き込むことで、各種復元方法を抑制するというものだ。「HD革命/Eraser Ver.4」も同方式を推奨している。
「NCSC方式」は、米国の国家安全保障局(NSA)の麾下(きか)組織であるNCSC(国際コンピューターセキュリティーセンター)が定めた抹消方式。1回目は各クラスタに固定値「0x00」を書き込み、2回目はその補数として「0xFF」で上書き。そして最後となる3回目は異なる固定値「0x77」で上書きするため、残留磁気を読み取る復元方法の精度も低下する。
「米国陸軍方式」は文字どおり、米国陸軍(United States Army)が定めた抹消方式。NCSC方式に似ているが、各クラスタへ最初に書き込む数値は乱数を書き込みし、2回目は固定値「0xFF」で上書きして、最後に補数の「0x00」で上書きしている。
「米国海軍方式」も、米国海軍(United States Navy)が定めた抹消方式だが、米国陸軍方式とは少々異なるのが特徴的だ。初回は固定値「0x88」、2回目は補数となる「0x77」、そして最後に乱数を上書きするのは同じだが、その後書き込みの検証を行っている。これにより、さらに高い精度で残留磁気からの復元を抑制することが可能だ。
米国国防総省方式は、俗にペンタゴンと呼ばれる米国合衆国国防総省(United States Department of Defense)が定めた抹消方式。各クラスタに固定値「0xFF」、次に補数として「0x00」、最後に乱数を上書きし、その後書き込み検証を行うというものだ。「HD革命/Eraser Ver.4」から新たにサポートした「NATO方式」は、北大西洋条約機構が定めた抹消方式。 1回目は固定値「0x00」、2回目も固定値の「0xFF」を交互に計6回上書きし、さらに乱数を上書きするというもの。残留磁気読み取り装置で復旧できる可能性はかなり低い。
最後の「GUTMANN方式」は、コンピューター科学者であるPeter Gutmann(ピーター・グートマン)博士が提唱した抹消方式。乱数を4回上書きした後、特定の固定値で27回上書きし、さらに4回の乱数を上書きとなる計35回の上書きを実行。NATO方式と同じくデータ復元ソフトや残留磁気読み取り装置による復旧の可能性は著しく低くなる(図13)。
抹消方式による所要時間の違いを試してみた
このように9種類もの抹消方式をサポートする「HD革命/Eraser Ver.4」だが、それぞれの方式の所要時間がどの程度必要なのか気になる方も少なくないだろう。一台のマシンだけでは時間の差が気にならないという場合もある。「HD革命/Eraser Ver.4」には、複数デバイスの同時抹消機能が新たに搭載されているが、台数が多くなればなるほど、その抹消の正確性と時間との匙加減が重要になってくる。
そこで、各抹消方式を実行してかかった時間を測定することにした。今回は適当な実機を用意できなかったので、仮想マシン上で抹消方式による速度の違いを検証してみた。ホストマシンはIntel Core i7-3770に32ギガバイトメモリーを搭載したWindows 8マシンで、2つの論理プロセッサを仮想マシンに割り当てた。また、60ギガバイトの仮想HDDはシリアルATA 3.0経由で接続したHDD上に作成している。
あくまで、各方式の所要時間の違いを図る目的のため、実機と比べると遅くなるのは明らかだが、各抹消方式は同一の条件で実行しているため、その方式の差は正しいはずだ。
結果は図14をご覧頂きたい。「0(ゼロ)で抹消」は約10分で終えているが、「HD革命/Eraser Ver.4」が推奨する「乱数値で抹消」はその倍となる約20分の時間を要した。今回は仮想HDDとはいえ、60ギガバイトと現在主流のテラバイトクラスと比べても圧倒的に小さい。そのため、実際のHDDに対して抹消を実行する際は、この数倍程度の時間を要することを踏まえて欲しい(図14)。