――今回家具をリデザインされた秋田木工をはじめ、これまでもコクヨや日清、コカ・コーラ、スターバックスなど、さまざまな企業とのコラボレーションを多く手がけられていますが、佐藤さんご自身が一から物をデザインする際のプロセスとの違いはありますか?

基本的にはあまり変わらないですね。そこにあるのが当たり前だと思っていた物に対して、いかにして新しい視点を与えるかというところが大切だと考えています。高級品を買ったり海外に行ったりするのも、それはそれで素晴らしいことですが、日常を豊かにするのは、何も非日常的な物事だけではないんです。日常生活にひそむ、ふっと癒やされるような感覚をデザインにこめたいなと思っています。

そのためには、題材となる物について、すべてをひっくり返すような大きな刺激を与えることはしません。今まである物の中から次の時代に引き継ぐ物を見極め、それを生かして磨くことを意識しつつも、欠点となる部分を落としていきます。結構、地味な作業です。その中で、何か肩の力が抜けるような、くすっと笑えるような感覚だったり、感情に訴えるような感覚をアクセントとして加えることも大切だと思っています。

――佐藤さんのデザインの「作業」について、最近の例でお教えいただけますでしょうか。

例えば、日本コカ・コーラさんと作ったコカ・コーラの瓶を再生して作った食器についてなのですが、厚みがあったり、飲み口が丸まっていたり、底の部分に滑り止めのドットがあったりすることで、あの印象的な赤いロゴをつけなくても、さりげなく「コカ・コーラ」を思い出させることができるようデザインしました。人には根底でつながっている、共感するような記憶があると思うので、ブランディングにはそういった側面が大切だと思います。

佐藤がデザインした、コカ・コーラの瓶を再利用したテーブルウェア「Coca-Cola Bottleware」

そういう意味で言えば、今回ご一緒させていただいている大塚家具さんは、まさに宝の山。掘り出せば掘り出すほど、魅力的な物が出てきます。それらを、デザインという接着剤を使ってどう人とリンクさせていくか。その試みの第1弾が、この「EDITION BLUE」です。インテリアとのつきあい方について、引っ越す度に全部変えなくても、生活の変化に合わせて少しずつ変えていけばいいんですよ、と提案できたらすごく嬉しいですね。

というのも、僕自身も日頃からそういった視点を持っていまして。建築を勉強していた時は、「物事を神の視点から見なさい」と教わりました。雑貨ひとつ作るにしても、まず都市から考えなさい、と。この街にはこういう道が必要で、こういう建物があって、だからこういう家具を部屋に置くだろうし、そして雑貨はこのような物をデザインしなくては、という流れで。

――なるほど。考え方の流れが、逆三角形の構造になっているんですね。

まさにそうですね。ただ、僕の場合、「神の視点」から見た総合的な評価ではなく、ひとつ魅力的な小物があるだけでも、生活は豊かになると考えていて。小さな感覚を大切にすることが日常にとって大切なのではないかと感じています。それを今回、セレクトショップといった形で実現できたことはすごく嬉しいですね。

――建築からデザインの世界に進まれた佐藤さんですが、今回リデザインした家具からロッテのガム「ACUO」のパッケージデザイン、建築物、展示会やイベントの空間デザインまで多岐にわたって手がけていらっしゃいます。ご自身では、○○デザイナーと自称するとしたら何に当たると考えていらっしゃいますか?

(○○デザイナーという肩書きは)あまり関係ないなと思っています。ロッテのガム「ACUO」のパッケージデザインも、個人住宅の設計も、これまで手がけてきた物は結局ユーザーが人間である以上、そんなに変わらないかな、と。もしかしたら、犬小屋などを作ったら変わるかもしれませんが(笑)

同じ人である以上、言語や文化、国籍をこえて共通している部分があると思っています。例えば、ろうそくの炎を見たら癒やされるとか、夕陽をみたら「きれいだな」と思うとか。世の中は広いので違う考えの人もいらっしゃるかもしれませんが、何となく皆さんが共通で感じる本能的な部分や、感情的な部分があるのではないか。そういうところに訴えかけていけたらと思います。

それによって世界や社会が変わるかというと、個人的にはあまり変わらない気がしています。でも、じわじわと地道に行っていくことで、ほんの少しでも世の中がいいほうにシフトしてくれたらいいな、と。そんな視点でいると、デザインする内容が家具であっても、ガムであってもそんなに変わらないと感じるんです。

――先ほどおっしゃられたように、「神の視点」と逆の方向から考えているんですね。

そうですね。目線は普通よりもちょっと低いくらい。5センチくらい下げるほうがよく見えるので。

――話は変わりますが、佐藤さんが普段アイデアを発想される時の方法を教えていただけますか?

何か特別なこと、背伸びをするのではなくて、やはり、目線を下げるというか、肩の力を抜くようにしています。人は意外と、「これは自分じゃない」、「これは嫌い」とバリアを張って生きています。これだけ情報が多い時代なので、自分に必要なものだけを得ようと突き詰めた結果、自分に必要ないと感じたものは遮断してしまいます。でも、自分と関係ないと思った要素の中にも、魅力的なアイデアのきっかけは潜んでいたりします。

なので、あえて情報にアンテナをはるというよりは、自分が空気清浄機のフィルターになったみたいな感覚で、さまざまな物が自分を通過するようにしています。たまにフィルター掃除をしてみるとそこからアイデアが見つかって、掃除をしたことで次のアイデアが引っかかりやすくなる。そういう感覚に近いかもしれないですね。

――ありがとうございました。