ディズニー・アニメ作品の代表作といえば『トイ・ストーリー』シリーズ! と思っている方も多いのではないだろうか。それは興行収入の面をみても明らかだ。だが、米BOX OFFICE MOJOが発表した全米週末興業成績(2012年11月2日~11月4日)で初登場第1位を獲得し、日本では今週末から公開されるディズニーの最新アニメーション映画『シュガー・ラッシュ』にも期待がもてる。同作は人間たちが知らないビデオゲームの世界を舞台に、ヒーローになれない"悪役"のラルフと、レーサーになれない"ひとりぼっち"のヴァネロペが大冒険を繰り広げる感動のファンタジー・アドベンチャー。日本のゲームキャラクターも登場するなど、日本人にも縁の深い作品となっている。今回はリッチ・ムーア監督に、同作にまつわる様々な制作秘話を聞いた。

リッチ・ムーア
カリフォルニア芸術大学のキャラクター・アニメーション課程を卒業後、1987年、ラルフ・バクシ監督のTVアニメシリーズ「Mighty Mouse:The New Adventures」のデザイナーおよびライターとしてキャリアをスタートさせる。これまでに「ザ・シンプソンズ」の最初の5シーズンで17のエピソードを監督したほか、映画『ザ・シンプソンズ MOVIE』ではシークエンス・ディレクターを務めた。エミー賞優秀アニメーション番組賞やアニー賞アニメーション番組部門優秀監督賞などの受賞歴がある。映画『シュガー・ラッシュ』が自身初の長編アニメーション映画監督デビュー作となる

――この作品の制作期間や携わったクリエイターの人数を教えて下さい。

「原案の時点から考えると制作期間は約4年間ですね。スタッフは一番多いときで450名ほどが関わっていました」

――同じディズニー映画『トイ・ストーリー3』のときなどは、多くの人が原案制作に携わったと聞きました。今回も同じプロセスだったのでしょうか。

「この企画については、製作総指揮であるジョン・ラセターに私がアイディアを提案したところから始まりました。そこから、脚本家のフィル・ジョンストンとふたりだけでコツコツと約1年かけて脚本の第一行を書き上げました。次に、絵コンテのアーティストたちが加わって、実際にビジュアル化していき、下絵になるラフなアニメーションを作っていきました。これらの作業で約2年かかっているんです。基本的なテーマやキャラクター設定は脚本の第一行から変わっていないのですが、プロット自体は、まったく違うものになっていますね。最終的な形になるまでに7回くらい大幅な変更を加えています」

――この作品のアイディアはどうやって思いついたのですか?

「元々、ディズニー・アニメーション・スタジオにビデオゲームを題材にした長編アニメ作品の企画が存在していることを聞いていたんです。そこで、その企画を本格的に実現させようとストーリーを温めていきました。ただ、ビデオゲームのキャラクターは同じ動きをすることだけをプログラムされているので、いざ、この映画を作ろうと思ったときに、つまらない作品になってしまうのではと心配したんです。ですが、発想の転換で、キャラクターが自分の決められた動作(仕事)がイヤだったらと考えたんです。キャラクターが他の動き(こと)がしたいと言い出したらどうなのかとね。それがこの映画に繋がっていきました」

ゲームの悪役キャラのラルフは、みんなに愛されるヒーローになるために自分のゲームを飛び出し、お菓子の国のレース・ゲーム“シュガー・ラッシュ”に迷い込む。だがそれは、ゲーム界を揺るがす大事件の始まりだった……
(c)2013 Disney. All Rights Reserved.

――なるほど。プログラムを"仕事"と捉えることが、このストーリーのはじまりだったわけですね。

「アニメ作品『LOONEY TUNES』を手掛けた伝説のアニメーターであるチャック・ジョーンズという方がいるんですが、彼の手掛けた作品で、敵対関係にある狼と羊の番をする犬が、それを自分たちの与えられた仕事として考えていて、"毎日タイムカードを押し、ふたりで一日中喧嘩し、今日も仕事お疲れと言ってタイムカードを押して帰る"という設定のアニメがあったんです。僕はこの作品が凄く好きで、今回の作品では、それを思い出したんです。この作品でもビデオゲームのキャラクターたちがプログラムを"仕事"と捉えていて、ひと仕事を終えたらみんなで一杯やるような、そういうノリが面白いんじゃないかと。また、この作品の場合は、キャラクターの大半は自分の"仕事"に満足しているが、主人公のラルフはとにかく悪役にうんざりしているという点が一番おもしろいと思ったんです」

――この作品では、映像表現としての新しい試みはあったのでしょうか。

「作品のなかに登場する"シュガー・ラッシュ"というビデオゲームは、すべてがお菓子でできているという設定なのですが、そのお菓子の質感をリアルにCGで再現するため、ライティングにこだわりました。具体的には「グミライト」という新たなライティングソフトを開発しました。このソフトによって、半透明で光が透けてみえるグミなどのお菓子に対する光の表現を忠実に再現しているのですが、これが画期的な試みでしたね。僕はこの作品の監督として、"お菓子をきれいに見せたい"という想いからツールの開発担当者にそういうツールを作ってと注文しただけなんですけど、開発を担当したエンジニアたちから、「君はこれがどれだけ革命的なことなのか分かっていない! これでCGアニメの世界は変わる。こんな機会を与えてくれてありがとう」とまで言われましたよ(笑)」

――これまで、ずっとアニメ作品を制作されてきましたが、今後、実写作品を監督してみたいという想いはありますか。

「元々、僕自身がアニメーション映画が好きだということだけでなく、アニメーション作品を作ることも好きですし、とにかく、アニメーションに対する情熱が一番あるんです。だから、実写作品にはあまり興味がないですね。だけど、ここで生涯、実写映画を撮らないと宣言してしまうと、今後、何が起きるか分からないので、そこまでは言えませんけどね(笑)。なので、今のところは願望がないということですかね」

映画『シュガー・ラッシュ』は3月23日より全国公開。