iPhoneおよびAndroid端末(※)と連携するカシオのG-SHOCK、「GB-6900AA」と「GB-5600AA」。発表以来、人と時計の新しい関わり方を提案するアイテムとして話題の製品だが、その開発は決して一朝一夕にはいかなかったという(※Android端末の対応機種はカシオ計算機のWebサイトにてご確認いただきたい)。

「GB-5600AA-1JF」(写真左)、「GB-6900AA-1JF」(写真右)

何度もプロジェクト立ち消えの憂き目に遭いながらも、Bluetooth SIG(Special Interest Group)のワーキンググループで中心的人物として活動し、Bluetooth v4.0(Bluetooth Low Energy Wireless Technology)の規格化に参画したカシオ計算機の道蔦聡実氏に、G-SHOCK製品化への軌跡と今後の展開についてお話を伺った。

「デザインと使い勝手を崩さない」

カシオ計算機 時計事業部 モジュール開発部 モジュール企画室の道蔦聡実氏

―― 道蔦さんは、本製品に関わる以前はどのような製品を担当されていたのですか?

道蔦氏「腕時計がリモコンになる『腕リモ』や、タッチスクリーン式のデータバンクを手がけました。あと、MP3プレイヤー付きの腕時計ですね。2000年頃だったでしょうか」

―― 当時から多機能系のアイテムが得意だったんですね(笑)。

道蔦氏「そうですね。MP3プレイヤーについては、2000年に初期型のiPodが発売されて、そちらの市場が強かった。そのちょっと前、1999年にカシオはリストカメラというカメラ機能付きの腕時計を発売したこともあるのですが、116×116ドットの小さな液晶表示でしたし、2000年頃から携帯電話にカメラが搭載されるようになってきました。Jフォンのいわゆる『写メール』ですね。実際、これらの付加機能は、腕時計より携帯電話の方が使いやすかったんですよ」

携帯電話の登場で腕時計市場が縮小していく中、中高生、大学生の間には、時間は携帯電話の画面で見るというスタイルが定着し始める。そして、腕時計は就職して初めて買うという人が増えていく。この流れを打破するために、腕時計業界の中では、腕時計と携帯電話をつなぐプロトコル(通信手順)の標準化が生じていたという。その技術として白羽の矢が立てられたのが、Bluetoothだった。

スマートウオッチの機能と2年間の電池寿命を実現しながら、通常の5600シリーズと同サイズを実現した「GB-5600」

道蔦氏「当時、Bluetooth付きの携帯電話も登場していました。そこで、2002年のBluetooth SIGのミーティングに、当社を含めた日本の時計メーカーが一緒になって、企画書を持って行ったのです。携帯電話と時計をつなぐ規格をBluetoothで作りたいというスピーチをしたのですが…。『おまえたち何しに来たの?』的な対応でしたね。暗い思い出です(笑)。でも、結果的にはデバイスID『WATCH』をもらって帰ってきました」

―― その後、製品化はされたのですか?

道蔦氏「私も一生懸命やったのですが、カシオはあくまで腕時計としてのサイズと、電池の消費を気にせず機能が使えることを目指していたため、この段階での製品化は見送られました。当時のBluetooth規格では、電池を充電式にすることを避けられず、それでも電池寿命が一週間程度しかなかったのです。それではあまりにも使い勝手が悪い。

それに、腕時計としてはサイズ大きくなりすぎて、デザインを崩してしまうのも納得できませんでした。今回のG-SHOCK(編注:「GB-6900」「GB-5600」)をご覧いただければ分かる通り、通常の6900系モデルや5600系モデルとまったく変わらないサイズと、2年の電池寿命を実現しています。これは当初から必須条件だったのです」

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