先日お伝えした通り、モバイル向けOSの新機軸として、米MozillaがFirefox OSを発表した。スペイン・バルセロナで開催されている携帯関連見本市「Mobile World Congress 2013」のプレスイベントでは、そのFirefox OSをサポートする企業のひとつとして、日本のKDDIが挙げられ、今後の同OSを搭載した製品を提供するとしている。イベント終了後、KDDI 執行役員専務の石川雄三氏にFirefox OSへの取り組みについて聞いた。

石川雄三氏

石川氏は、Firefox OSは「オープンなOSで制限がないところ」が魅力と説明。同OSの採用の背景には、「革新的なモノをいち早く採り入れたい」「このOSにより面白い、楽しい世界ができるのではないかと」といった考えがあったと語る。そのため、「こういう機種をこういうターゲットに出す」といった具体的な提供端末は決まっていないという。

日本の携帯キャリアが賛同する新OSとしては、NTTドコモが推進する「Tizen」(米Intelや韓国Samsung Electronicsなどが共同開発)がある。日本の端末メーカーもTizenへの賛同を示しているが、石川氏は今後もずっとそうだとは限らないという認識で、現状は「Tizenに関しては考えていない」と語る。Firefox OSはよりオープンで、アーキテクチャの観点からも、VMを使わないので省電力性能が高いなどのメリットがある、と石川氏。ただし、Tizenの可能性を否定したわけではなく、今後もメーカーなどから提案があれば検討するし、逆にFirefox OSの完成度が高まれば、これをメーカーに紹介することもあるという。ただし、現状でまだ決まったものは何もないようだ。

具体的な提供端末も固まっていないKDDIのFirefox OS端末だが、「安くて機能が足りないものを出すつもりはない」と石川氏。今回プレスイベントで紹介された2つの端末は「思ったよりも動いていた」との認識だ。

また、この2つの端末は、基本的には初心者向けなどの低価格でローエンドの端末であったが、KDDIではこうした端末ではなく、高機能端末を検討しているという。「しっかりとした機能がないと日本のユーザーには受け入れられない」と石川氏は語る。一方で、「従来のサービスをそのまま対応させるだけでは面白くない。何か新しいものを付け加えたい」とのことだ。

Firefox OSは課金の仕組みも自由でキャリア決済も使えるし、独自マーケットも提供できる。バックグラウンドでの通信がなくてもアプリが動作できることから、石川氏は「新しい料金の仕組みもできるのではないか」と話す。現在、「(M2Mを除くと)1億台ぐらいのハンドセットがあり、その35%ぐらいがスマートフォン」だという。これがさらに増加し、5,000~6,000万台規模になると、「今までのスマートフォンで対応できない機能、ビジネスモデル、提供料金といった課題が出てくると石川氏は説明する。

こうしたときに、iOSとAndroidという2つのOSの選択肢だけでなく、Firefox OSもカバーすることで、「何かが生み出せるのではないか」という期待感が生まれる。可能性を見越してFirefox OSへの取り組みを進め、「最適な時期に(端末を)出せる準備をしなければならない。それを積極的にやるというのがKDDIの方針」と石川氏は話す。また、iOSやAndroid、Windows PhoneといったOSに不満があるのではなく、もっと別のものが欲しいというユーザーや、今後の可能性を考えた上での選択であることを強調。「節操なくやっていて、若干いい加減だが、(目的を)固定的には考えていない」している。

モバイル向けOSでは、アプリの存在も重要になる。Firefox OSではHTML5を採用しており、Mozilla側では今後HTML5アプリが主流になるとみている。石川氏は、Webの標準技術で開発できるため、「開発者の母数が増える」とコメント。Webクリエイターなども参入できることから、「開発者の範囲が広がり、何か必ず面白いアプリが増えてくると思っている」という。

なお、Firefox OSはオープンソースのOSだが、KDDIとしても貢献していく意向。モバイル機器のセキュリティ面において、KDDIはauスマートパス、auマーケットでためたノウハウがある。このノウハウを活かし、ペアレンタルコントロール、携帯ネットワークへの負荷をOSレベルで効率的にする技術などで、すでに実際にコードを作成してコントリビューションしようとしているそうだ。「積極的に開発に入っていって、惜しみなく(成果を)戻して使ってもらいたい」という。石川氏は、ほかのOSとの優劣ではなく、選択肢としての可能性である点を繰り返し強調。前述の通り、どういったターゲットに向けて、どういった製品を、どの程度の規模で展開するといった戦略は現時点では決めておらず、「スマートパス構想にうまく取り込めたらいいというのがザックリとした基本戦略」と話している。