2005年に誕生した米国発のテクノロジー系DIY工作専門雑誌『Make』の世界観をベースとしたものづくりの祭典「Maker Faire」。技術愛好家からクラフト作家、教育者、ホビイスト、エンジニア、アーティスト、学生、企業など多岐にわたる作り手(Maker)が出展する同イベントの東京版「Maker Faire Tokyo 2012」が、12月1日・2日の2日間にわたり、日本科学未来館(東京・お台場)にて開催された。

Maker Faireは、アメリカでは2006年に開始。日本では2008年より「Make: Tokyo Meeting」という名称でスタートし、2011年までに7回開催されてきているDIYイベントだ。ただ、なんといっても今回は新たに全世界共通の名称「Maker Faire」を採用して東京版がリニューアル開催される節目のとき。会場には、水道橋重工が開発し、注目を集めている人が搭乗し操作できる巨大ロボット「KURATAS(クラタス)」も展示されると聞き、ミーハー気分で初「Maker Faire」に繰り出してみた。

高さ4m、重量4.5 tの巨大ロボット「KURATAS」。残念ながら訪れた日は機械系のトラブルによりデモンストレーションは中止。それでも、1日中KURATASの周りには人だかりができていた

240組の参加者たちの熱気に包まれる会場

会場に到着すると、どこも通路は身動きがとれないほどの来場者であふれかえっていた。複数フロアに約240組が出展する同イベントを主催者であるオライリー・ジャパンさんからいただいたおすすめブースMAPを片手にぐるりと周った中で、気になったブースをご紹介したい。

アメリカ、日本、韓国、イギリス、オーストラリア、カナダ、シンガポール、中国など世界8カ国で開催されている「Maker Faire」。サンフランシスコでは11万人を超える人々が訪れるなど、盛り上がりを見せている

みのくら

ロボットと電子工作好きのエンジニア「みのくら」さんが趣味で製作したロボットや未来家電を展示。ブース内で一番人気は、放り投げたゴミを追いかけてくれる「勝手に入るゴミ箱」。2012年の夏に動画サイトで公開され、ニコニコ動画、Youtubeそれぞれで100万再生を突破している作品で、デモンストレーションにも多くの人が足を止めて見入っていた。

放り投げたゴミをセンサで感知し、自らキャッチしに来てくれるゴミ箱。なかなかうまくキャッチできない姿も人間味があってよい

目標を自動追尾する「自動照準のエアガン」。搭載されたUSBカメラで青い物を認識し、青い物が左に動けばエアガンも左に、上に動けばエアガンも上に動くようにプログラムしているという

ヒゲキタ

イベント会場となった日本科学未来館では、500万個の恒星を投影することができるプラネタリウムが人気だが、工房ヒゲキタが出展していたのは、恒星数5,800個の手作りピンホール式プラネタリウム投映機。調理用アルミボウルを使用した投映機を駆使して映し出される星空は、アメリカ・カリフォルニア州のイベントでも好評だったとか。

調理用アルミボウルに穴を開けて作ったというピンホール式プラネタリウム投映機。星空だけではなく、赤青メガネを使った立体映像もドームに投影され2倍楽しめた。紙芝居師のようなヒゲキタさんの語りに子どもも大はしゃぎ

Eyes, JAPAN Co. Ltd.

ドイツの大学と共同開発しているという、レゴのマインドストームを使ったマシンでラテアートを作る「FabCoffee」を紹介していたのが「Eyes, JAPAN Co. Ltd.」。コーヒーのミルクフォームの上にユーザーが選んだ写真やイメージを描くことが可能できるFabCoffeeはオープンソースとなっており、「GitHub」よりプログラムをダウンロード可能だ。

ベルトコンベアを動かし、本体上部に搭載された注射器が絵や文字を描く。マシンは通常、福島・会津若松の「Eyes, JAPAN」にて見ることができるという

RADIATION-WATCHプロジェクト

非営利プロジェクト「radiation-watch.org」ブースでは、低価格で高性能なスマート放射線センサ「ポケットガイガー」を展示。安価に誰でも入手できるスマートフォン接続型の線量計を普及させ、市民レベルの放射線監視ネットワークを構築することを目的とした同プロジェクトの研究開発は、宮城県石巻市のメーカーを中心として、日本国内のハード・ソフトエンジニアや大学研究者、また海外の専門家によって支えられているという。

「ポケットガイガー」全シリーズの特別販売会も行っていた。1,000円台からというお手頃な価格だ

羽ばたき飛行機製作工房

コウモリ、昆虫など飛行生物の模倣から、自然界には見られない羽ばたきメカニズムの創造まで、ユニークなデザインの機体を製作している「羽ばたき飛行機製作工房」。会場内にて行われたデモ飛行では頭上を飛んでいく"飛行物体"に思わずひきつけられてしまった。

2013年からは、デジタル3Dによるパーツ製作に移行し、代表的な機体の主要パーツをデジタルデータ化してダウンロード可能にするほか、3Dプリントサービスを利用して、成形パーツの頒布も行っていく計画だという。

アニメ映画『天空の城 ラピュタ』に登場する架空の有人羽ばたき飛行機「フラップター」をモチーフにしたモデルも。宮崎アニメファンにはたまらない…

JapanDrones

個人用ロボットヘリコプター(UAV)のソフトウェア開発をメインに取り組む「JapanDrones」では、屋外にてロボットヘリコプターの自動操縦の実演も行われ、ラジコン用のヘリコプターやクアッドコプターなどに小さなコンピュータやGPSを内蔵することで誰でも簡単に飛ばせることを実証。ロボットヘリコプターは、遊びだけでなく、空中写真撮影、ロボット工学の研究、災害調査などの用途が期待されている。

日本科学未来館前の広場にて行われたデモ飛行。周囲の建物にぶつかることなく飛行する様には歓声も

FabLab Japan

3次元プリンタやカッティングマシンなどの工作機械を備えたオープンな市民制作工房の世界的ネットワーク「FabLab Japan」。2012年には岐阜県にIAMASの人材や技術を活用したITとものづくりの交流拠点として「f.Labo」が誕生しており、ブースではfabrication(制作、加工)だけではなく、fan(愛好者)、future(未来)、foundation(出発点)、freedom(自由な)などさまざまな想いを「f」に込めたf.Laboの活動をアピールしていた。

岐阜県大垣市にあるIT拠点「ソフトピア」に2012年2月にオープンした「f.Labo」。7月14日~16日に開催された「第2回産廃サミット」出展作品やコンテスト「展開図武道会~この椅子いいっすね!」 、これまで開催したワークショップを紹介していた

Autodesk

3Dデザインツールを提供するCADソフト大手「Autodesk」ブースでは、デザインツール「123D」、「SketchBook」 などのプレゼンテーションを実施。3Dのソフトを使いデータを作り、レーザーカッターで加工し立体物を作り上げるまでを来場者が体験できた。

ボール紙で型を取った立体模型を実際に組み立てていくワークショップも行われた

ナカダイ

群馬を拠点とする総合リサイクル処理業者「ナカダイ」では、多種多様な優れた廃棄物を「ソーシャル・マテリアル」として捉え、ブース内にてLANケーブルのミニプールやマテリアルライブラリーを展示。これまでの「廃棄」を新しい価値の「生産」へと転換する21世紀型モノづくりを提案していた。

"発想はモノから生まれる" という考え方に基づき、オープンしたモノづくりの拠点「モノ:ファクトリー」を紹介。カラフルな廃棄物はモノづくりスイッチをオンにしてくれる

ホットプロシード

福岡にある国内唯一のパーソナル3Dプリンタメーカー「ホットプロシード」では、2012年に新たに発売した10万円台のパーソナル3Dプリンタ「Blade-1」と10万円台のパーソナルレーザー加工機「Blaster」の展示・デモンストレーションを実施。話題の3Dプリンタを前に熱心に説明を聞く来場者が多かった。

10万円台で買える3Dプリンタ「Blade-1」は、オープンソースの「RepRapプロジェクト」から派生したもの

工房Emerge+ & BDP

BDPとは、ペーパークラフト作家のBoxDogPuppy(林たけお)さんの頭文字を取ったもの。工房EmergeとBDPのコラボブースでは、超高精細なペーパークラフトを販売したほか、「泳ぐサメ」モビールを制作するミニワークショップも行っていた。

morecat_labと共同企画したUSBボリュームコントローラやUSB-DACデジタルアンプ用エンクロージャも展示していた

オリジナルマインド

メカトロニクス関連の組み立てキットの開発を行う「オリジナルマインド」ブースでは、メカトロニクス中古品の販売と基板加工機「KitMill」シリーズの展示・デモを実施。コンパクトで動作音が静かだという「KitMill CIP100」を紹介していた。

ブースでは、オンラインショップよりも安価にてDCモーターやコントロールボックスなどメカトロニクスの中古品を販売していた

スイッチサイエンス

電子工作用のモジュールを販売するオンラインショップ「スイッチサイエンス」は、Arduinoなどのボードに加え、同社オリジナルのモジュールを中心に展示・販売。LEDでピカピカ光る犬と猫の飾りを作るワークショップも行っていた。

LEDで光る犬と猫を作るワークショップは子どもにも人気。ピカピカ光る完成品をつけて会場内を歩く姿も愛らしかった

アールエスコンポーネンツ

1937年に設立した電子部品ディストリビューター「アールエスコンポーネンツ」。世界中で人気となっているLinuxで動作する名刺サイズの低価格パソコン「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」などがブースには並べられていた。日本でのRaspberryPi TypeBの販売価格は2,950円だという。

次世代のIT開発者やプログラマーのために開発された「Raspberry Pi」。世界中の子供たちがより手軽にパソコンに触れられる機会を提供する

OtOMO

小中学生向けのプログラミングワークショップを開催する「OtOMO(オトモ)」ブースには、子どもたちが作った「Scratch」で制御する全高3mの巨大な「キリンタワー」が登場。キリンのシッポを動かすと、Webカメラを搭載した頭部が動く仕組みになっており、大人顔負けの"子どもプログラマー"の活躍っぷりに未来のMakerの姿を見た気がした。

来場者ではなく、立派な出展者である子どもプログラマーたち。巨大キリンは会場でもひときわ目立つ存在だった

テクノ手芸部

電子工作と手芸を融合させた新しいものづくりを「テクノ手芸」と名づけ、「光るイクラのシャケ」など斬新な作品を発表し続けている「テクノ手芸部」ブースでは、2冊目となる著書『羊毛フェルトでふわピカ動物をつくろう』を紹介。キリン型の基盤や目が光るネコのストラップなども販売され、2日目の午後にはほぼ完売状態となるほどの人気を見せていた。

ネコストラップは、まばたきするように設計されているなど、さりげないところにもこだわりが

新刊『羊毛フェルトでふわピカ動物をつくろう』。LED+羊毛フェルトキットが付属し、購入してすぐに「目が光るウサギ」もしくは「目が光るシロクマ」づくりが楽しめる

このほか会場には、雑種手芸家「miquraffreshia(ミクラフレシア)」、手芸家「のそ子」、手織りのアトリエ「ペシュカ」、ハンドメイドとビンテージを楽しむアメリカ発のオンラインマーケット「Etsy」ら、手芸系Makerも勢ぞろい。"モノづくり"をキーワードに多種多様な分野の作り手たちが一堂に会するのは「Maker Faire」ならではの光景だろう。

一度見たら忘れられない「miquraffreshia」の作品群。気になった方は公式サイトも是非のぞいてみてください!

「のそ子」ブースにて「キノコ人間になってみよう」と展示されていた羊毛キノコ。記念撮影する人多し

なお、今回見逃してしまった人は、「Maker Faire Tokyo」の次回開催が予定されている2013年秋もしくは冬をお楽しみに。将来的には地方での開催も予定しているらしく、日本国内でも「Maker ムーブメント」がどんどん広がっていくことになりそうだ。