産業技術総合研究所(産総研)は12月12日、2012年8月20日~9月13日に海洋調査船「第七開洋丸」(499トン、日本海洋株式会社所有)による沖縄県久米島および鹿児島県沖永良部島周辺海域の海底調査を実施し、これまでカルデラ地形を持つ海底火山や海底熱水活動が知られていなかった久米島西方海域において、新たな海底熱水活動域を発見したと発表した。

この海底熱水活動域は海底火山のカルデラ内にあり、活発な熱水活動を示すプルームを音響調査で複数確認したほか、海底熱水活動に関係して形成されたチムニーの破片と考えられる試料を採取したこと、同様なカルデラを持つ海底火山がこの熱水活動域に隣接するように複数存在し、これらの一部からは熱水活動により形成されたと考えられるマンガン酸化物を採取したことも併せて発表されている。これらの成果は、産総研 地質情報研究部門の池原研副研究部門長らの研究グループによるものだ。

日本周辺海域の知的基盤情報としての海洋地質図の整備は、海域で発生する地震など自然災害による被害の軽減をはかる上で重要だ。また、海洋地質図は海域での効率的な鉱物資源開発を進めるためにも欠かせない。

鉱物資源の供給不安が広がる昨今、日本の領海および排他的経済水域内の海底鉱物資源の存在が注目されている。海底鉱物資源の開発に向けての調査研究は国として進められているが、持続的・安定的な鉱物資源の供給のためには、新たな鉱物資源が賦存する可能性がある海域の発見に資する知的基盤情報を整備し、活用していくことが求められているところだ。

産総研は日本周辺海域の海洋地質図の作成を継続して行っており、2008年度からは琉球列島およびその周辺海域の調査を行っている。2011年度の「第2白嶺丸」(2127トン、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構所有(当時))による調査では、久米島西方海域(画像1)の一部にカルデラを持つ海底火山を複数確認した。

これらの海底火山には海底鉱物資源の賦存が期待されるため、2012年8月20日~9月13日に「第七開洋丸」の航海(GK12航海:主席研究員は、産総研 地質情報研究部門の板木拓也研究員)により海洋地質調査を実施した。

画像1。海底熱水活動が発見された場所(●印の場所)

GK12航海では、久米島西方海域で海底地形調査や岩石・堆積物採取など海洋地質調査を実施。その調査において、直径数kmのカルデラ地形を持つ海底火山の1つで、魚群探知機などによる音響記録により活発な火山活動を示すプルーム(画像2・3)が複数確認され、同時に著しい発泡現象を示す堆積物も採取された。

音響記録で確認されたプルームはこの発泡した堆積物の採取地点付近から立ち昇っていることから、プルームには多くの気泡が含まれている可能性が高いという。また、カルデラ内で海水の濁度の異常を観測すると共に、チムニーの破片と考えられる硫化水素臭のする試料(画像4)が採取された。以上の観測結果から、カルデラ内での活発な熱水活動の存在が示唆される。

画像2。魚群探知機でとらえたカルデラ底から立ち昇るプルーム

画像3。音響測深機でとらえたカルデラ底から立ち昇るプルーム

画像4。カルデラから採取されたチムニーの破片と考えられる試料

これまでの海洋地質調査で、近傍の海底火山において、熱水活動に伴って形成されたマンガン酸化物の存在が確認されている。これらは、今回熱水活動が発見されたカルデラとは別のカルデラでも熱水活動が存在する可能性を示し、複数の海底火山が現在も活動的であり、そこでは海底熱水活動があることを示唆するという。

なお現在は、GK12航海で得られた資試料につき、(1)海底地形解析、(2)採取された岩石・堆積物試料の鉱物・化学分析、(3)岩石試料の年代測定、(4)堆積物中のガス組成分析の分析が進められているとした。

今回の調査結果より、久米島西方海域の海底火山域に海底熱水活動が存在することが明らかとなった形だ。海底熱水活動に伴っては鉱床の形成が期待されることから、今後、経済産業省および石油天然ガス・金属鉱物資源機構との密接な連携のもと、海底熱水活動の分布範囲の把握、活動様式、鉱床存在の可能性について調査・研究を進めていく予定としている。