個人的な意見で誠に申し訳ないけれど、写真の醍醐味は遠くにあるものをでっかく写すことだ。野球場やサッカー場にいたら、選手の表情とかしぐさをアップで撮りたいと思う。だって、目で見た場合と同じような大きさで撮るのだったら、自分の目で見てたほうがはるかにイイもの(極論だけど)。ともかく、だからこそ超望遠レンズは憧れ。重い、デカい、威圧感ある。でも、欲しい!
でかい望遠レンズで撮影するのが夢でした
子どもの頃、重~いレンズを抱えて撮影するのが夢だった。40代の僕が子どもの頃だから、それは当然フィルムカメラ時代のお話。一枚一枚を今よりも慎重に撮っていた頃のことである。夢の中の光景は、渓流があって、その川の中洲みたいな岩場に止まる青緑色の鳥(ナニ?)を、抱えるほど重い超望遠レンズで離れたところから狙ってみたかった。今、こうして書いてみると、なんて具体的な夢だったんだろう。
成長して四十路の今、残念ながらまだその夢は現実に達成していない。いつしかそれが夢でなくなったってことなのだろう。でも、ほぼ同じようなシチュエーションで鳥(青緑ではなかったけど、あれもナニ?)を撮ったことはある。……ただし、抱えるほどの超望遠レンズを用いたのではなくて、光学30倍ズームのコンデジで撮った。倍率的にはこれで十分。中洲の鳥を手元まで引き寄せられるし、画質的にも、ものすごく高画質ではないけれども、まあ素人写真として鑑賞に堪えられるくらいには撮れるのだもの。
この30倍コンデジがわが家にやってきたせいで、3台ほどあるデジタル一眼レフの出番はグンと減ってしまった。当然、重~い超望遠レンズをわが家の3台の"デジイチ"に取り付けて撮影した経験もない。子どもの頃のあの夢は、本当に遠くへ行ってしまったんだなぁ……。
キヤノン"白レンズ"の最高峰「EF800mm F5.6L IS USM」に触ってきた
などと年頃の物思いにふけっていたある日、「魅惑の高級家電」第2弾として今回の仕事のお話がきた。キヤノンの800mm超望遠レンズを抱えて青緑色の鳥を撮るチャンスがとうとうやってきたのである。
「EF800mm F5.6L IS USM」。当然、単焦点である。同社製レンズの受注生産でない通常ラインアップで従来の最長焦点距離は600mmだったが、とうとう800mmが登場した(といっても4年前のことではありますが)。余談だが、レンズの製品サイクルは一般的にかなり長く、モノによっては10年20年という製品もあるくらい。
800mmといえば、フルサイズの高級一眼レフに取り付ければ文字通り800mmなのだけれど、われわれ一般庶民(一緒にするなよという方には申し訳ない)が普通に買うようなAPS-Cの小型イメージセンサーを採用する一眼レフカメラであれば、×1.6でなんと1,280mmという焦点距離にもなる。これなら川の中洲の青緑色の鳥だってベンチの中のイチローだって問題なし。お月さまもクレーターや凸凹のエッジをハッキリ捉えられるだろう。
その800mmを借りる。希望小売価格175万円(税別)!……のレンズ単体を手に抱く。重さ4.5kg。ズシリとくる。
「EF800mm F5.6L IS USM」を「EOS-1D X」に取り付け、手持ちで構えてみる。レンズだけを持ち上げたときはそれほど重さを感じなかったけど、こうやって構えるとさすがに左手には重さがズンとくる。三脚設置で撮るのがベストってことだろう |
「さすがに重いとは思いますが、ボディやレンズの軽量化技術によって、以前のラインアップで最長焦点距離だった600mm(5kg超!)よりもずいぶん軽い重量を実現しているんですよ」とキヤノンマーケティングジャパンのカメラマーケティング部カメラ商品企画第二課の佐野昌宏さんは意気揚々だ(ちなみに現在の600mmラインである「EF600mm F4L IS II USM」は、やはり軽量化技術の賜物で約3.92kg)。そう言われてみると、たいして重くない気がしてくるから不思議なものである。さすがに軽々ととまではいかないけど、よっこらしょという言葉とは無縁の世界だ。
持ち上げるときだけでなく、置くときも細心の注意を払って置く。なにせ175万円。クルマが買えちゃうレンズだ。ある意味、自分のものとして買うのは怖くもある。腫れ物の上に重いものを置く感覚で、恐る恐るテーブルの上に戻す。その姿を見て、佐野氏が笑った。
「精密機器ではありますが、そこまで慎重にならなくても大丈夫ですよ。いちおう、アウトドアで使い回すものですから」
ふむ、たしかに一理ある。そんなヤワだったら家の中でしか使えない。そして家の中でこのレンズを使える家は、相当に広い。うちのマンションじゃ狭すぎて、いちばん遠い壁を狙ったってピントが合わないだろう。
ありがたきお言葉に従い、こんどはややぞんざいに置く。ボディがテーブルと触れて小さく音を立てる。大丈夫だといわれても、やっぱり多少はビビる。
今回対応してくださったキヤノンマーケティングジャパンの佐野昌宏さんに「EF800mm F5.6L IS USM」を持っていただいたところ。レンズフードの部分は人間の頭部と大差ない大きさだということがひと目でわかる |
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