小学生向け通信教育事業へのジャストシステムの取り組み

ジャストシステムは、1999年6月より小学生向け学習支援ソフト「ジャストスマイル」、2012年からは授業を支援する「ジャストスマイル5」を提供している。あまり知られてはいないが、小学校におけるソフトウェア導入率について80%という非常に高いシェアを持っているという。これについて、ライセンス事業部事業部長の植松繁氏は「ソフトウェアの随所に教育的配慮をし、学校教育の現場で先生方の意見・要望を徹底的に取り入れて機能強化をしてきた」と理由を挙げている。製品のバージョンを上げていく上で現場の教師たちとディスカッションを繰り返したという。そういった取り組みが反映されて、代表的な機能「ATOKスマイル」、「ひらめきライター」、「はっぴょう名人」、「つたわるねっと」などの完成度を高めてきた。

図4 ジャストシステム ライセンス事業部 事業部長 植松繁氏

図5 「ジャストスマイル」のシェア

「ATOKスマイル」は、「ジャストスマイル」用に開発されたATOKで、同じ文章でもログインするユーザーの学年に合わせて平仮名や漢字の表記が変更される。「ひらめきライター」は小学生向けの作文支援ソフト。作成した文章を音読して再生できる機能が付属しているのが特徴で、読み返しによって作成した文章の問題点などを把握しやすくなっている。「はっぴょう名人」は、聞き手を意識したプレゼン資料作成ソフト。「つたわるねっと」は、情報モラルの学習ソフトだ。

図6 「ジャストスマイル」が受け入れられた理由

それに加えて、植松氏は、「学習指導要綱改訂による学校教育の変化もそのひとつ」だと語った。2002年度の改訂、いわゆる"ゆとり教育"によって、完全週休二日制、「総合的な学習の時間」の創設、主要四教科「国・算・理・社」の大幅な内容削減が導入された。これについては、現在でも「円周率は"3"」、「台形の面積は取り扱わない」など教育レベルの低下をもたらしたとして今でも批判がある。実際にPISA(OECD生徒の学習到達度調査)の数学的リテラシー得点の変化は、2000年に1位だったものが、2003年は6位、2006年は10位と落ち込んでいる。

図7 教科書のページ数と教育時間の変化

図8 PISA(OECD生徒の学習到達度調査)の数学的リテラシー得点の変化

こういった点を踏まえて、2011年度には学習指導要領が再改訂されたが、教科書の内容は約1.5倍に増えたのにもかかわらず、授業時間は、約1.1倍しか増えていない。結果として、学習進度を速くせざるを得ず、その影響は、一部学習項目の省略、家庭でのプリント学習の増大など様々な問題が発生し、その結果として理解度における教育格差が拡大しているという。こういった状況に対応する答えとして今回ジャストシステムが提案するのが「スマイルゼミ」だ。

植松氏は、「学習進度の速まりに合わせて基礎・基本の定着にはその日のうちに復習・解決する必要が重要であり、何にもまして毎日それらの学習を行うように習慣化させる必要がある」と述べる。そういった要望に応えるものとして、通信添削や学習塾、家庭教師などを利用する方法もあるが、「従来の通信添削は、添削は丁寧だが解答が戻ってくるのに時間がかかりその日のうちに問題の解決ができない。また、学習塾・家庭教師では、その日のうちに解決できるがコストがかかる上、毎日利用することできない」などの点を挙げた。これら課題に答える新しい教育アプローチとしてジャストシステムが考案したのが、今回のタブレットを使った通信教育「スマイルゼミ」となる。

図9 学習指導要領再改訂により教科書の内容が増大

図10 従来の教育アプローチ

「スマイルゼミ」を開発する上で植松氏が重視したのは、「その日のうちに解決できる」、「子供たちが夢中になる」、「自ら学習し、習慣化できる」の三点だ。そして、その要件を満たすものとしてタブレットを利用することが考案されたという。「タブレット」を利用した通信教育は、すでにシンガポール、韓国などでも利用されており、日本でも2010年度より総務省の「フューチャースクール事業」、2011年度からは、文部科学省の「学びのイノベーション事業」などが進められている。この事業報告では、タブレットを利用することで学習効率が上がることも公表されている。政府は、遅くとも2020年度までに児童生徒一人一台のタブレット整備という目標に掲げている。

図11 海外の教育現場におけるタブレットの利用

図12 国策としてのタブレット教育の推進