左から「UT-63Q」「UT-53Q」「UT-43Q」

UT-63Qでは、折りたたみ時がコンパクトでありながら、脚を伸ばした状態では全高1,510mmを確保

大きくて重い三脚は持ちたくないが、使用時の十分な高さと剛性感は確保したい……そんな相反する要求をかなえる新発想の三脚がベルボン「Ultrek(ウルトレック)」シリーズだ。人気の既存モデル「UT-43Q」に続き、このたび、より頑丈な上位モデル「UT-63Q」が新登場。その製品の狙いと見どころを開発陣に語ってもらった。

180度の脚パイプ反転可能な三脚

ベルボン「ウルトレック」シリーズは、脚パイプを180度反転させる独自の構造によって、一眼レフを支える丈夫さとA4サイズのバッグに収まるコンパクトさを両立した小型三脚だ。2010年に発売された初代モデル「ウルトレック45L」と、その雲台を変更したモデル「UT-43Q」は、デジタル一眼のビギナーから写真を趣味にする愛好家層まで幅広いユーザーに支持され、発売当初から現在まで同社の人気商品のひとつになっている。

そして、パイプ径をさらに太くすることで、より大きなカメラやレンズにも対応できる上位製品として「UT-63Q」と「UT-53Q」が新登場した(UT-63Qは11月発売、UT-53Qは近日発売予定)。どちらも「CP+」などのイベントに参考出品され、カメラファンの間で注目を集めていたモデルである。

「伸ばしたときに150cm以上の高さがありながら、収納時の縮長が30cm以下に収まる三脚は、ウルトレックシリーズだけの特徴です」。こう語るのは、ウルトレックの設計を担当したベルボン設計部の副技師長 石井清賢氏だ。同シリーズに共通した最大の特徴は、いっぱいまで伸ばした際に、平均的な男性の目の高さ辺りに相当する全高を確保しながらも、縮長は30cmを切ること。一般的な三脚の伸縮比(縮長に対する全高の比率)は約2.5倍程度だが、ウルトレックシリーズでは実に5倍以上もの伸縮比を達成している。

この驚異的な伸縮比の実現には、「ダイレクトコンタクトパイプ」や「トラニアンシャフトシステム」といった同社の独自技術がキーになっている。ダイレクトコンタクトパイプとは、三脚の脚パイプに特殊な断面形状を採用し、パイプを半回転させるだけで脚を素早く伸縮・固定させる仕掛けだ。

ベルボン 設計部 副技師長 石井清賢氏

石井氏によると、断面形状をいかに工夫するかが、ダイレクトコンタクトパイプの設計上で最も苦労した部分だという。「一般的な歯車曲線では成り立ちませんので、さまざまな形状を試作してカット&トライを繰り返し、最終的には疑似インボリュート曲線と呼んでいる形状にたどり着きました」と石井氏は述べた上で、「単に図面上で曲線を作ればいいのではなく、使用するアルミの材料特性や弾性などを考慮しながら設計しています」と設計の際に相当な工夫が必要だったことを明かした。

さらに、石井氏は「材料特性を考慮し設計しているので、100分台の寸法精度がないとパイプはうまく締まりません」と精度の確保に苦慮したことを述べている。「完成したダイレクトコンタクトパイプは、2つの縦の線によってパイプとパイプがしっかりと固定され、非常に安定性が高いといえます」と石井氏が語るだけあり、新製品のクオリティについては相当期待できそうだ。

"ボルトレス"が可能にした驚異の伸縮性

ベルボン 設計部 取締役部長 塩崎健司氏

一方、トラニアンシャフトシステムとは、パイプの中を中空にすることで、パイプを奥まで収納可能にする仕掛けだ。「他の一般的な三脚は、パイプの根元に貫通ボルトなどの部品があるため、たとえパイプの段数を増やしても高さをあまり伸ばすことはできません。しかし、このトラニアンシャフトシステムではボルトなどの部品を廃することで、パイプのぎりぎりのmm単位まで伸縮できるのです」と語るのは、ベルボン株式会社 設計部 取締役部長 塩崎健司氏だ。

これらのダイレクトコンタクトパイプとトラニアンシャフトシステムは、そもそもはウルトレックシリーズとは別ラインとなる小型三脚「ウルトラ」シリーズで初採用されたもの。その上で、さらに伸縮比が高く、より持ち運びに便利な三脚を作りたいという同社社長からの提案によって、「ウルトラ」から「ウルトレック」へと進化していったのだ。