近畿大学は10月15日、白色LEDの光を使って高速の光通信を行う「可視光通信」で、単独のLED光源を用い、信号増幅のための特別な部品や装置を一切使わずに行う実験としては世界最速クラスの614Mbpsのデータ通信速度を実現したことを発表した。同成果は、同大工学部 電子情報工学科の藤本暢宏 教授の研究グループによるもので、成果は2012年9月19日、光通信に関する世界最高峰の学会「ECOC 2012」にて発表された。

可視光通信は、LEDを高速で点灯・消灯させることでデジタル信号化した光を、受光素子が感知することによりデータの伝送を行うというもの。目に見える光が届く範囲で通信を行うため、データ漏洩などのリスクが小さいとされ、照明機器を用いた家庭内の情報ネットワークや交通安全システムなどでの活用が期待されている。

今回の実験は、特別な部品や複数のLED光源を用いた信号の増幅なしに、単独のLED光源を含むすべての部品に市販品を用いることで、LEDの単純な点滅によるデータ通信速度を試したもの。LEDの単純点滅という本質的な機能と低コストな環境を前提とすることで、将来の実用化につながる研究成果を得ることを目的としており、その結果、同じ条件で従来、最速であった125Mbpsを大幅に上回る614Mbps(伝送距離40cm)を記録したという。

高速化を実現できた要因としては

  1. 隣り合う信号同士の干渉を許容する「デュオバイナリー伝送」技術を活用したこと
  2. 送信部と受信部の双方に抵抗とコンデンサからなる簡素な回路を導入し、応答を速めたこと

が挙げられると研究グループでは説明している。

従来の同様なシステムでは、光の三原色(赤・緑・青)を分離するために波長フィルタが必要となっていたが、今回は赤だけを点滅させたため、波長フィルタを不要とした。部品すべてを市販品としたことで、低コストかつ高速の可視光通信システムの構成が可能であることが示された形だ。

なお研究グループでは今後、天井の照明機器を用いる室内データ通信システムで最低限必要とされる伝送距離2mの実現と、さらなる高速化を目指すとするほか、今回の技術を応用し、複数のLED光源や3色すべての活用などを行うことで、さらに高ビットレートでの通信を試みていく方針としている。