映画『アベンジャーズ』の躍進が止まらない。世界全体での興行収入はすでに15億ドルを突破し(9月10日現在)、早くも全世界の歴代映画興行収入ランキングで第3位の記録をたたき出している。そんな同作は、元々Marvelの発行しているアメコミ作品だ。文字通り、アメコミとはアメリカン・コミックス(以下、アメコミ)というアメリカの漫画である。しかし、アメコミは日本のマンガと同じ"漫画"でありながら、それぞれ違った文化のなかでまったく別の進化を遂げたコンテンツとして扱われている。マンガとアメコミはどう違うのか。Marvelのシニア・バイスプレジデント、クリエイティブ&クリエイター・ディベロップメント担当であるC.B.セブルスキー氏に話を聞いた。

C.B.セブルスキー
「マーベル・フェアリー・テールズ」などの作品で知られるマーベル・ワールドワイドの作家/編集者。同社のクリエイティブとクリエイター開発担当シニア・バイスプレジデント(シニア・バイスプレジデント、クリエイティブ&クリエイター・ディベロップメント)を務める。これまでに「マーベル・フェアリー・テールズ」、「スパイダーマン・フェアリーテールズ」、「アベンジャーズ・フェアリーテールズ」、「ローナーズ」などの制作に携わっている

――日米の漫画には、白黒とカラーの違いという大きな違い以外にも、様々な相違点があるわけですが、漫画制作に携わる日米のクリエイターの意識にも違いはあるのでしょうか。

C.B.セブルスキー「まず、根本として、作品に携わっているクリエイターの育ってきた環境に違いがあると思いますね。日本では、"漫画家になりたい=自分オリジナルな作品を生み出したい、新しいキャラクターを作り上げたい"という想いが強いと思いますが、アメリカの場合は、"漫画家になりたい=MarvelやDCコミックのキャラクターを手がけたい"と想うことが多いんです。こういった違いがありますね」

――なるほど。

C.B.セブルスキー「もちろん、アメリカでも、オリジナル作品を手がけたいと思っている漫画家もいます。ですが、アメリカでは漫画家の90~95%はMarvelなどの出版社に属しているのが現状なのです」

――コンテンツ制作面での違いについても教えて下さい。

C.B.セブルスキー「日本では、アシスタントがいるにせよ、基本的にひとりのクリエイターがストーリー制作から、すべて自分自身で作品制作を行ないますよね。一方、アメリカの場合は作家、ペンシラー、インカー、カラーリスト、編集者といった最低でも5名のチーム体制で作品を手がけています。なかには、『シン・シティ』シリーズや『300』を手がけたフランク・ミラー、『ヘルボーイ』を手がけたマイク・ミニョーラのように、すべて自分で担当するクリエイターもいますが、一般的にはチーム体制で取り組んでいます」

――個人的にはストーリーにも違いがあると思いました。

C.B.セブルスキー「そうですね。これは私の個人的な意見ではあるのですが、日本のマンガには、グルメをはじめ、ゴルフや野球などのスポーツ、SFなど、様々なジャンルの作品がありますよね。ですが、アメコミの約75%はスーパーヒーローものです。ただ、我々はすべての作品内で、キャラクターの人間味・人間性を重要視しています。"スパイダーマン"や"ハルク"といったスーパーヒーローの話と思われがちですが、これは、あくまで"ピーター・パーカー"や"ブルース・バナー"の話なんです。スーパーヒーローであっても、我々と同じように心配事や様々な恋愛事情、悩みなどをすべて持っている人間であるというところを大切にしているんです。ファンの方々にも、そういったところを共感してもらっています」

コミック制作段階原画 ペンシル(モノクロ)

色づけ段階

――Marvelに所属するクリエイターのなかには、Marvelブランドで自分のオリジナルキャラクターを生み出したいと考えている人もいると思うのですが。

C.B.セブルスキー「私たちは常に新規のアイディアに関しては前向きに受け入れる態勢をとっています。ですが、クリエイターには、まずMarvelブランドの8000を超えるキャラクターたちを使った作品で経験を積んでもらい、その後、新しいキャラクターのアイディアを出してもらえればと思っています」

――ハリウッド映画では、世界に発信することを前提に作品を制作することで、成功をおさめています。アメコミの場合も同様なのでしょうか。

C.B.セブルスキー「Marvelの哲学では、優秀なクリエイターたちが、ハートのあるキャラクター、素晴らしいストーリーを生み出せば、アメリカであっても、日本であっても、アルゼンチンであっても、スウェーデンであっても、皆さんに気に入ってもらえると考えています。なので、とくに国の境界線は考えていません。マーベル・メディア名誉会長でもあるスタン・リーは、Marvelの作品について、"あなたの窓の外の世界"なんだと昔から言い続けています。我々は、現実社会をアメコミで表現しているのです。それを踏まえて、これまでの作品を見ていただくと、それぞれの時代や歴史というものを織り込みながら作品が展開していることを理解してもらえると思います」

――なるほど。あくまでも純粋に作品のクオリティを高めていくことに注力しているということですね。

C.B.セブルスキー「私自身、手を切ればMarvelのロゴの血が流れるくらいのファンなのですが(笑)、Marvelのファンは、"マーベルゾンビ"と呼ばれるくらい、熱狂的な方が多く、作品内に不自然なところがあればすぐに気づく方々ばかりです。我々は、そういったファンの方々をとても大切にしているんです。以前、グローバルなビジネス展開を考慮し、”今、中国が注目されているから、そこを狙った要素を入れてはどうか”という試みを行ったことがあるのですが、無理やり作品内にその要素を織り込んだため、作品自体が壊れてしまい、うまくいかなかったんです。そのような前例からも、とにかく、各クリエイターが自分の心の声に耳をすまし、自分のクリエイティブセンスを最大限に発揮し、作品をつくることで、とても素晴らしい作品が自然と生まれてくると考えています」

――熱狂的なファン、信頼してくれるファンがいるからこその制作スタンスなわけですね。

C.B.セブルスキー「これは、"マンガ"であっても"アメコミ"であっても変わらないと思うですが、高い意識をもった優秀なクリエイターたちが最高のパフォーマンスを行ない、ファンに作品を提供するということが一番大事なのだと考えています」

写真撮影では、快くスパイダーマン(左)やハルク(中央)、マイティ・ソー(右)のポーズをとってくれた

撮影:石井健

合わせて読んでほしい記事
【インタビュー】映画『アベンジャーズ』アイアンマンのパワードスーツはすべてCGだった!?
【インタビュー】漫画家・桂正和が語る『TIGER & BUNNY』のキャラクターデザイン論

TM&(C)2012 Marvel & SUBS