国立天文台は9月19日、野辺山太陽電波観測所の「電波ヘリオグラフ装置」による太陽面全体の活動状況の観測と、名古屋大学(名大)太陽地球環境研究所の「惑星間空間シンチレーション法」による太陽風の速度の観測の2つの長期間データを比較することにより、太陽の高緯度の活動と惑星間空間の活動が大きく関係していることがわかってきたと発表した。

太陽を取り巻く惑星間空間には、太陽から吹き出す太陽風で満たされており、その構造は太陽風によって決まる。野辺山太陽電波観測所では、1992年より電波ヘリオグラフ装置(画像1)を用いて、長期間の太陽の電波撮像観測を継続中だ。

同装置は口径80cmのパラボラアンテナ84台を、東西490m、南北220mにわたって配置した「電波干渉計(電波望遠鏡)」で、周波数17GHzで太陽全面の電波強度の分布を観測することができる。

通常1秒間に1枚の画像が1日8時間連続して得られるが、その内1日1枚の画像約1カ月分から太陽の自転を利用して展開図を合成し、さらにそれを経度方向に平均することによって、約17年分のデータから1枚の「電波蝶形図」(画像2)を合成された。17年間に限ったのは太陽風と太陽電波の同時観測が行われた期間によるためだ。

電波ヘリオグラフ装置によると、20年間にわたって太陽全面の活動が弱まりつつあり、また各部(北半球、南半球、高緯度、低緯度)の間の活動の同期が失われつつあることがわかってきている。

画像1。野辺山太陽電波観測所の電波ヘリオグラフ装置

画像2。電波蝶形図。横軸が年、縦軸が太陽面の緯度、カラーが電波の明るさ(強さ)を表している

一方、名大太陽地球環境研究所(旧空電研究所)では1970年代より、コンパクトな電波天体の強度変動(シンチレーション)を3~4地点で同時に観測することにより、惑星間空間を吹いている太陽風の速度を観測している(画像3)。

太陽風の速度は、太陽風中の密度のゆらぎが太陽風に乗って電波天体の視線を横切ることにより、電波天体の強度ゆらぎを引き起こすので、これを地上の複数点で観測して時間的なずれを求めることでわかるという仕組みだ。

その観測を行っている太陽地球環境研究所の「シンチレーションアンテナ」は、天空に散らばる多くの電波天体を利用することにより、地上において全天の太陽風速度の分布を得ることができる非常にユニークな装置なのである。

そして観測された速度の分布から約1カ月ごとに惑星間空間の展開図を合成し、さらにそれらを経度方向に平均して緯度分布とし、それらを並べて長期変化を示したものが太陽風蝶形図(画像4)だ。

画像3。富士観測所のシンチレーションアンテナ(提供:名古屋大学太陽地球環境研究所)

画像4。太陽風蝶形図。電波蝶形図と同じ座標で、カラーは太陽風速度を示す

あらためて電波蝶形図(画像2)の特徴だが、こちらは極域(高緯度)が明るいことだ。しかも、明るい時期は黒点(低緯度)の活発な時期と逆相関を示す。高緯度が活発な時期は黒点のほとんどない活動極小期で、逆に極が暗くなる時は黒点活動が極大の時期だ。

高緯度と低緯度を併せた太陽全面の(グローバルな)活動は観測を開始した20年前から次第に低下している。また、南半球と北半球の活動の同期、南半球における低緯度と高緯度の活動の同期がくずれてきているのもここのところの注目されている状況だ。

一方、太陽風蝶形図(画像4)は今回の研究で初めて作成したもので、惑星間空間全体の太陽風速度分布の長期にわたる変化を一目でとらえることが可能だ。これによると、高速風(秒速700km以上)が高緯度から中緯度に広がっていることがわかる。

高緯度で高速風が消えるのは黒点活動の最盛期で、高緯度の電波強度が最低になった時だ。北半球では電波の明るさと太陽風速度の関係は非常にはっきりしており、活動周期ごとにそれを繰り返している。しかし南半球では北半球に見られるようなはっきりした関係が見られない。活動周期ごとに異なった関係を示す。2000年以降の太陽風速度分布は不規則な構造があり、電波観測から推測されるグローバルな活動周期活動の乱れに関係していると推測される。

以上の2種類の観測データを併せることにより、太陽と惑星間空間の構造の関係を見ることができたというわけだ。電波で明瞭に検出できる高緯度の活動と高速太陽風がよい相関を示すことがわかり、今後もこれらの観測を継続すると共に、それらの間の関係の相関だけでなく、これらを支配している物理機構についての研究を進める必要があると、研究グループは語っている。

地球は惑星間空間の低緯度に位置しており、画像4からわかるように太陽面の高緯度の活動に依存している高速太陽風からは直接的には影響を受けていない。

しかし、太陽風の風圧によって決まる惑星間空間全体(太陽圏)からは間接的影響を受ける。例えば、太陽風によって外に掃き出される太陽圏外からの銀河宇宙線の量の増減が、地球の大気に影響を与える可能性があるのだ。しかし、これが直接地球の温暖化や寒冷化と結びつくかどうかについては、地球の気候の研究との共同研究が必要である。

20年間の太陽電波観測によると、太陽全面にわたる活動が低下していると共に、活動周期の同期がくずれつつあることがわかってきた。同時期の太陽風速度の観測によると、太陽風速度の大きな減速の兆候は見られないが、不規則な年変動を示すようになっている。太陽が原因で太陽圏全体の活動の同期が狂ってきているのだ。

このような状況であるために、太陽活動および惑星間空間の長期間にわたる観測は今後ますます重要となってくると共に、これらの関係の研究を継続し、地球大気への影響の検討することも必要であると研究グループは語っている。