auの2012年夏モデルとして提供されているHTC製のAndroidスマートフォン「HTC J (ISW13HT)」のグローバルモデル(W-CDMA版)が、2012年9月中旬に台湾・香港で発売されることが明らかになった。台湾では9月11日に大々的な発表会も開催されている。

HTC Jはもともと日本のKDDIとHTC Nipponが共同開発した日本市場向けのスマートフォン。おサイフケータイや赤外線など日本のニーズに合わせた機能を搭載し、発売直後から販売ランキングの上位を維持するなど、高い評価を得ている。今回、この日本向けに開発されたHTC Jが、一部機能を省きHTCの本国・台湾と香港で発売されるのである。

過去には北米のVerizon wirelessやSprintの特定市場向け端末が、遅れてグローバルモデルとして世界展開するというケースはあったが、日本向けの端末が国外で発売になったのはHTC史上初の事例だ。

果たして「日本人好み」の機能を前提に開発されたHTC Jが海外市場で受け入れられるのだろうか。

台湾はアジア諸国の中でも親日で知られている国である。若者のファッションやカルチャーは日本文化をフューチャーしたものが多い。街中にも日本語の看板を掲げたお店が目立つほどだ。今までのHTC端末とは全くイメージの異なる日本人をターゲットにデザインされたHTC Jは、台湾の若者達、特に日本国内でも好評を得ている女性層に好意的に受け入れられるのではないかと、筆者は思う。

台湾のHTCショップにも日本生まれのHTC Jがならぶことになる

加えて、HTC Jのハードウェアのスペックは十二分。グローバルで提供されるハイスペックモデル「HTC One S」をベースにコストパフォーマンスを考慮して開発されたHTC Jだが、台湾国内での価格はOne Sよりも抑えられている。One Sとほぼ同等のスペックの端末がOne Sよりリーズナブルな価格で提供されるのだから、若い層を中心に台湾市場でも歓迎されるだろう。

台湾内では、iPhoneを提供する米Apple、GALAXYシリーズの韓国Samsung Electronics、これにHTCを加えた3強がしのぎを削っている。これに加えて、ファーウェイをはじめとする中国メーカーが加わり、HTCもホームとはいえうかうかしてられない現状になってきている。日本生まれのHTC Jという他メーカーにない独自のテイストの端末を提供することで、差別化を図り迎え撃つことができるか注目だ。

香港で発表されたHTC J。和風テイストは受け入れられるのだろうか

それでは香港市場ではどうだろうか。発表後に香港のネット上の意見を見てみると「スペックがほぼOne Sのモデルを新たに販売する意味は」「ガラパゴス化した日本向けのHTC端末がグローバルモデルとして登場」など、成熟した香港市場であるがゆえに厳しい反応も見受けられる。

その一方で「デザインの良いHTC端末」という好評価も多い。HTC Jの赤、黒、白というカラーバリェーション展開を「和風テイスト」と紹介しているメディアもあった。どちらかというと質実剛健なデザインのHTCグローバルモデルが提供されている香港市場では、HTC Jの「ニッポンテイスト」デザインは珍しいようだ。

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HTC Jの台湾・香港市場での反応は未知数だ。しかし、この2つの市場での挑戦は、守勢する欧州市場で牌の取り合いをするより賢明だ。台湾、香港市場の先には中国市場があり、積極的に中国市場に攻勢を強めているHTCとしては、同じアジア圏の日本、台湾、香港で好セールスを記録したものを巨大な中国市場でも展開したい、という狙いもあるのだろう。

HTCの現状は欧州・北米といった先進国のスマートフォン市場で強力なライバルに苦戦し、シェアはピーク時と比べ半減している。まだまだフィーチャーフォンの利用者が多く、圧倒的な人口の新規ユーザーが眠る中国市場は、グローバル展開をしている端末メーカーとしては最重要マーケットと言えるだろう。

HTC Jは台湾のHTCが提供する端末ではあるが、日本生まれで日本育ちのようなもの。ワンセグ、おサイフ、赤外線という日本独自の”ガラパゴス機能”を省いたリリースされるが、「ニッポンテイスト端末の海外展開」の1つの事例となりそうである。

(記事提供: AndroWire編集部)