時代は既に64ビット。以前から32/64ビット版をリリースしているWindows OS(オペレーティングシステム)や、Macintosh(マッキントッシュ)のOS Xも以前から64ビット化されています。その一方でソフトウェアにも、64ビット化の波が訪れていますが、まだ完全移行したとは言い難いのが現状。そこで一定の知名度を持ちながらも、64ビット化されていることを知られていないオンラインソフトや市販のソフトウェアを紹介します。64ビット版OSをお使いの方は是非ご覧ください。

定番テキストエディターも64ビット化

記念すべき一回目は、Windows 3.1時代からWindows 7の時代まで日々更新され続けている、定番テキストエディターの「秀丸エディタ(以下、秀丸)」を取り上げます。当初、秀丸はOS/2というOS向けテキストエディターとして誕生しましたが、同時期のOSであるWindows 3.1に移植されると、瞬く間に人気を集める定番テキストエディターとなりました。蛇足ですが、当時はインターネットではなく電話回線を用いたパソコン通信が主流。秀丸の作者である斉藤秀夫氏の作品「秀Term」は、Windows 3.1上でも処理落ちせずにパソコン通信を楽しめたため、秀丸と同じく定番ツールに数えられていました。

秀丸エディタ

OS/2やWindows 3.1上での動作を前提としていましたので、当時は16ビットソフトウェアとしてリリースされていましたが、Windows 95がリリースされる1995年には、32ビット化や当時のテキストエディターとしては比較的先進的なUnicodeにも対応するバージョン1.50をリリースしました。そして待望の64ビット化は2008年8月のバージョン7.09からです(図01)。

図01 64ビット版の秀丸。自身のダイアログでは「秀丸エディタ64」という表記が確認できます

残念ながら64ビット版秀丸は、システムの安定性を維持するためにファイルやレジストリを仮想化する「VirtualStore(バーチャルストア:Windows Vistaから導入)」に対応しておらず、マクロファイル用フォルダーの配置に悩まされます。Windows XPなどで秀丸を使用し、64ビット版Windows 7上でも秀丸を使用する場合、この点で戸惑ってしまうのではないでしょうか。

従って、「%ProgramFiles%\Hidemaru\Macro」フォルダーは使用できませんが、ユーザーフォルダー下に独自のマクロフォルダーや設定ファイル用フォルダーを用意するか、UAC(ユーザーアカウント制御)を無効にするといった回避策が残されています。前者はユーザーファイルが管理しやすくなると同時に、ほかのコンピューターへ移行しにくくなりますが、その際は「秀丸エディタ持ち出しキット」で対処してください。

後者はセキュリティリスクが発生しますが、Windows XP時代と同じ感覚で操作できますので、セキュリティ対策を講じた上で選択しましょう。なお、このほかにも64ビット版Windows OSのセキュリティ設定から、一部のマクロ命令文による「%WinDir%」フォルダーに対する書き込みは行えませんが、大きな問題とはならないでしょう。

図02 <その他>メニュー→<動作環境>とクリックすると開くダイアログで「64Bit版」を開き、各項目にチェックを入れることで、32ビット版DLLや変換モジュールが使用可能になります

図03 64ビット版秀丸の動作状態。ご覧のとおり64ビットイメージとして動作しています(Process Explorerを使用)

長い歴史を持つ秀丸だけに、下位互換性は大きな問題となります。64ビット版秀丸で32ビットDLLや32ビット変換モジュールを使用するには、事前に<その他>メニュー→<動作環境>とクリックすると開くダイアログの「64Bit版」に並ぶ項目にチェックを入れることで動作します。ただし、同ダイアログの注意書きにもあるとおり、互換性の維持はパフォーマンスの低下を引き起こしますので、DLLや変換モジュールも64ビット版に変更するか、同等の機能を持つ代替品に乗り換えましょう。

さて、読者のなかには「各種制限があるなら32ビット版で十分」と考える方もおられるでしょう。確かにそれも正論です。そこで32/64ビット版秀丸で特定の操作に必要な時間を測定してみました。環境は64ビット版Windows 7 Professionalで秀丸の常駐なし、高速化パフォーマンスは最小設定として導入した各秀丸を使用し、約10万字のテキストファイルにreplaceallfast関数を用いて、十種類程度の文字列置換を300回行うマクロを用意。こちらの実行結果15回の平均値を割り出しました(図04)。

図04 32/64ビット版秀丸によるマクロ実行結果(単位は秒)

図04をご覧になると一秒差しか発生していないため、誤差の範囲と思われるかもしれませんが、15回の平均値であることを踏まえますと、わずかながらも64ビットネイティブの長所が結果に表れたと言えるでしょう。なお、起動時間の差ですが、そもそも秀丸には常駐機能が備わっていますので、あまり意味がない比較となるため今回は割愛しました。

このように動作環境を満たしていれば、64ビット版秀丸を使用しない手はありません。また、秀丸を支える各ツールも64ビット化され、印刷機能を拡張する「秀丸パブリッシャー」や、古風なファイラー機能を持つ「秀丸ファイラーClassic」も64ビット版が揃っています。執筆環境をネイティブな64ビット上で構築したい方に、秀丸は良い選択肢となるでしょう。64ビット版Windows OSを使用し、これまで秀丸を使ってきた方や、ほかのテキストエディターに乗り換えを思案している方は、64ビット版秀丸を候補にお加えください。

阿久津良和(Cactus)

秀丸エディタ Ver8.13

作者: 斉藤秀夫氏
ジャンル: テキストエディター
価格: 4,200円(シェアウェア)
Web: サイトー企画