小さな工夫の積み重ねによって実現した軽量化

NECパーソナルコンピュータ 商品開発本部 梅津秀隆氏

次に機構設計を担当したNECパーソナルコンピュータ 商品開発本部 梅津秀隆氏が登壇し、軽量化に向けた設計技術について紹介した。

前述の通り、「LaVie Z」は重量900g未満、薄さ15mm未満を目標にして開発が進められたが、「マグネシウムリチウム合金」のほかにもNECの持つ薄型化、軽量化のノウハウが集約されている。

まず「LaVie Z」では、筐体一体型LCD設計を採用している。従来はLCDユニットの金属フレーム部分を外装部品にそのまま組み込んでいくのだが、「LaVie Z」の場合はLCDユニットの部品をバラバラにして外装部品に組み込む形となっている。従来使われていた金属フレームを取り除くことで、厚さ0.3mm、重量4.0gの削減が可能となった。

筐体一体型LCD設計

「少なく見えるかもしれないが、こうした工夫の積み重ねによって世界最軽量を実現している」と梅津氏は話す。

品質が確保されているユニットではなく、部品をばらばらにして組み込むため、NECPCの担当者がパートナー企業に張り付いて、生産立ち上げを行い品質を維持しているという。 「マグネシウムリチウム合金」を使いこなすための工夫も行っている。「マグネシウムリチウム合金」は現状、シンプルな形状のプレス成形しかできないため、通常のPCのように底面部に部品を組み込む方式を採用できない。そのため、キーボード側の外装部分に部品を集約させる形となっている。

「マグネシウムリチウム合金」を最大限生かすための設計が施されている

また、通常は部品同士の間に隙間を作って設計を行うが、「LaVie Z」では隙間をなくした隙間ゼロ設計を行い、後から必要な部分のみ隙間を持たせる手法を採っている。

「LaVie Z」は丸みを帯びたデザインで、「カプセル」をモチーフとしたラウンド形状となっているが、これも「マグネシウムリチウム合金」を生かすためのデザインとなっている。「マグネシウムリチウム合金」をプレス成形すると外周部に鋭利な金属端が出てしまうため、キーボード側の外装部分に丸みを持たせて、底面側の鋭利な部分を内側に入れる方式にしている。

キーボード面にも薄型化と軽量化の工夫がある。従来はバスタブ構造の筐体にアイソレーションバー付きのキーボードを乗せるという手法だったが、「LaVie Z」は外装部分に井桁状のフレームを作り、下側からキーボードをはめ込み、64個所のネジで留めるという構造とした。

筐体一体型のキーボード設計

この筐体一体型のキーボード設計は、プロトタイプとして昨年公開された薄さ9.9mmのAndroid端末「MGX」の技術を流用している。これにより厚さ1.0m、重量15.0gの削減が可能となったという。

井桁型の外装部品の下からキーボードユニットをはめる

部品1つ1つにまで気を使った軽量化

基板についても従来はBTOへの対応や製品間でマザーボードを共通化するために、配線と部品の密度を上げた高密度実装により、基板面積を小さくしていたが、「LaVie Z」ではその制約を排除した。基板の高密度化をやめ10層から8層へ層数の削減を行うとともに、貫通ビアで銅箔も減らし薄型化を図っている。

基板にも大きな手が入っている

底面を外すと基板が見える。通常の基板よりも面積が広く、その分薄さを確保している

軽量化についても多くの課題があったようだ。部品の集約と、さらにキーボードをはめ込むための井桁構造によってキーボード側の外装部品には多数の穴があるうえに、軽量化のために薄型化している。そのため、ダイカストの際に金型のすみまで溶けた金属が流れにくくなっており、歩留まりが悪くなってしまったという。

キーボード側の外装などでも大きな課題があった

キーボードは64本という多くのネジで留められている。「組み立てには手間がかかるし、通常は組み立てや修理がしやすい設計をするが、今回は軽さに着目してこういった構造を採用した」と梅津氏。

キーボード側の外装。マグネシウムダイカストで製造されているが、穴が多く非常に複雑な形状となっている

キーボードユニット。裏側にはねじ止めのための穴が多く空けられている

「構造設計をする中で、部品1つ1つに対して『これをやったら何gになるか』という問いかけをしながら重量の検討をしているが、デザイン側からの要求もある。ロゴを光らせたいという要望があったが、LEDを積むとそれだけで1g重くなってしまう。何とか重さを増やさずに特長を出したいということから、ホログラムのロゴを採用した」と設計の苦労をにじませる。また本体カラーが1色なのも「きれいに色を出すには、塗装を重ね塗りしないといけない。そうするとそれだけで1g~2gと重さが乗ってしまう」と重さへのこだわりも見せた。

さらなる軽量化も?

NECパーソナルコンピュータ 設計技術部 部長 伊藤泰久氏

質疑応答では、他社が「マグネシウムリチウム合金」を使う可能性について質問があがった。小野寺氏は「すべての工程でネゴシエーションをして課題を解決していかなければならない。他社がやろうと思っても簡単にはできない」という。

説明会に参加していたNECパーソナルコンピュータ 設計技術部 部長 伊藤泰久氏は、「『LaVie Z』は人と人とのつながりがスタート。これまで蓄積してきたリレーションが成功の大きな鍵だった。設計や製造生産、品質保証のメンバー、協力会社のメンバーのリレーションがうまく回ってできていると思っている」と話した。

また、これだけの軽量化のノウハウが詰め込まれた「LaVie Z」だが、さらなる軽量化に向けての検討も行われているという。

小野寺氏は、「今回はマグネシウムリチウム合金を底面のみに利用しているが、天板、あるいは外装部品全体に利用した場合という検討も行っている。私も設計を担当していたときには、軽量化を行うためにタッチパネル部分を変えたり、極端なことをいえばはんだの量を減らしたりということもあった。極限まで挑戦することで軽量化の余地はある」と述べ、今後の製品開発に期待をみせた。