デジタルアーツは12日、10~18歳の子どもと、同年代の子を末子に持つ保護者を対象に実施した携帯電話・スマートフォンのフィルタリングなどに関するインターネット調査の結果を公表した。同調査によると、子どものスマートフォン利用率が前年比で約2倍になり、スマートフォン移行が進んでいる反面、フィルタリングの利用率は低率にとどまっている現状が明らかになったという。

本調査は今年6月に実施され、子ども618人、保護者618人の計1,236人から回答が得られた。昨年12月に公表された調査に続くもので、子どものスマートフォン利用の実態などが示されている。

調査の結果は次の通り。子どものスマートフォン利用率は30.6%になり、前回調査の14.4%から2倍以上の増加。スマートフォンを利用していない子どもでも56.8%が今後使用したいと回答しており、スマートフォンへの関心の高さが伺えた。保護者では利用率が36.1%、使用したいという回答が42.1%だった。

スマートフォン利用者の内、よく使うアプリを調査したところ、子どもはYouTube、ゲームに続いてLINEが42.1%と多く、これにを加え、Twitter、mixi、Skype などのSNSアプリを積極的に使っていることがわかった。

スマートフォンの使用状況と今後の意向。子どもの利用が増え、関心も高まっている

利用アプリのうち、特に子どもではSNSアプリの利用が多かった

未成年の携帯利用にはフィルタリングの設定が義務づけられているが、実際にフィルタリングを利用していたのは35.4%にとどまり、前回比で6.1%の減少だった。特にスマートフォン利用者は前回比3.7ポイント減の23.8%(フィーチャーフォンは39.2%)しか設定されていなかった。

フィルタリングの利用状況。全体の利用率が低下し、特にスマートフォンでの利用状況が低かった

購入時に店頭でのフィルタリングの説明を受けた経験は38.9%にとどまり、約6割が説明を受けていなかったか、受けても覚えていないと回答。スマートフォンを持つ子どもは約半数が説明を受けていないか覚えていなかった。説明内容も、法で定められた対応である点と、フィルタリングの効果に関してのものが多く、実際の被害、スマートフォンは簡単にインターネットに接続できるといった点への説明はなく、同社は「なぜフィルタリングを入れるのか分からないと、子どもも不便さを感じるだけではないか」(デジタルアーツ経営企画室広報・コーポレートマーケティング担当・吉田明子氏)と指摘する。

店頭でフィルタリングの説明を受けた割合は4割弱にとどまり、リスクの説明も少なかった

スマートフォンのセキュリティ対策としては、「ウイルス対策」「むやみにアプリをインストールしない」「個人情報入力控える」というPCでのインターネット利用と同様の対策を挙げる回答が多い。しかし、フィルタリングの導入に関しては、保護者の45.6%が必要と答えたのに対し、子どもは26.7%しか答えておらず、「フィルタリングが必要という認識が子どもに薄い」(同)結果だった。

スマートフォンが主流になることについて、アプリによって便利になるという回答が多かったものの、セキュリティを不安視する声も多い。子どもよりも保護者の不安が大きく、特に母親が不安視する傾向が高かった。逆に子どもからは「スマートフォンなしでは生活できなくなる」という声も大きく、特に女子高生の6割がそう答え、依存率の高さを伺わせた。

スマートフォンに必要な対策では、フィルタリングで保護者と子どもの意識に大きな差があった

セキュリティ上の不安の声が保護者では大きいが、子どもは「スマートフォンなしで生活できなくなる」という声が多かった

調査に協力した、弘前大学教育学部で「ネット・ケータイ問題」の研究プロジェクトを率いる大谷良光教授は、「ネット・ケータイ問題を子どもの視点から見ると3つの側面から整理できる」と話す。1つはネットいじめ問題で、掲示板やSNSでの誹謗中傷などがあり、青森県の調査ではいじめの27%が該当し、「特に高校生でネットいじめが多い」(大谷教授)という。

調査年代や次期の違いはあるので厳密ではないが、全国に比べて青森県のフィルタリング導入率が高くなっている

対策としては、子ども同士で起きるため、いじめ指導が基本で、メールの着信拒否などの対応が考えられる。従来の携帯電話にもあったことで、スマートフォンが普及したからといって状況が変わるわけではないという。

ネット依存・健康被害問題も挙げられ、これは個人の問題であるため、教育的・心理的に働きかける対策を大谷教授は紹介する。

最後が有害情報・情報発信・セキュリティ問題で、出会い系・アダルトサイトへの誘引や詐欺、個人情報窃取、著作権侵害などの情報発信、有害情報へのアクセスで、子どもの人格形成にも影響する、と大谷教授。

この場合、外部の攻撃者がいることになり、対応として大谷教授は「子ども自身に少々の被害体験を経験させながらネット被害免疫を形成し、ネットリスク教育を行う」という方策を挙げる。フィルタリングやマルウェア対策が必要で、スマートフォンの時代になって被害は拡大していくとみている。

スマートフォンの普及で被害が拡大する背景の1つに「無線LANの急速な普及がある」と大谷教授。従来の携帯フィルタリングは携帯回線向けに提供されていたため、それを回避できる無線LAN通信の登場で、端末へのフィルタリングの設定が遅れていると指摘する。

大谷教授は、「従来の携帯電話で起きた問題はすべて起きる」うえ、射幸性の高いスマートフォンゲームによる金銭被害、マルウェアによるプライバシー侵害、アダルト動画や有害サイトへのアクセスといった問題が拡大するとみる。

「フィルタリングを利用するには、子どもが危険を認識し、納得しなければならない」と大谷教授。青森県では、教員への講演や専門家の巡回指導、保護者への働きかけを行い、子どもと保護者の双方への理解を深める対策を進めた結果、フィルタリングの導入率は6割を超えた、としている。

MIAU(インターネットユーザー協会)代表理事でコラムニストの小寺信良氏は、LINEが同意を撮りつつ電話帳をサーバーにアップロードして利用者を検索する機能について、「子どもにスマートフォンの情報を送信することの意味が本当に分かっているか」と指摘。App StoreやGoogle Play上のアプリレビュー欄にユーザーIDが書き込まれている現状が「出会い系みたいになっていて放置状態」と懸念を表明する。

小寺氏は、「自転車の補助輪のようなもので、まずは補助輪をつけ、慣れたら片方ずつ外す。ケガはしょうがない」と表現し、フィルタリングの必要性を強調。大谷教授も同様の意見で、リスクを理解させるリスク教育をしながら、子どもを守るためのフィルタリングの重要性を訴える。

また、デジタルアーツの経営企画室コンシューマ担当の工藤陽介氏は、「保護者の知識が追いついていない」点も挙げ、「フィルタリング業界のリーディングカンパニーとして、リスクの啓発啓蒙をしていきたい」と話している。

中央が弘前大学の大谷良光教授。左はMIAUの小寺信良氏、右はデジタルアーツの工藤陽介氏

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