撮られる人が「こんなふうに写りたい」と感じる色を

―― そのプレミアムオート PROでは、シーン判定の種類も増えたとのことですが。

(松永氏)「はい、プレミアムオート PROは被写体や撮影状況を自動的に判断して最適な画像処理を施すのですが、その判断結果をより複雑に判断できるようになりました。

例えば、"青空"や"人物"単体の判定は今までにもあったのですが、"青空+人物"というミックス判定はなかったんです。これがなぜなかったかというと、人物に最適化する処理と青空に最適化する処理に矛盾するところがありまして…」

愛情たっぷりにZR300の技術を熱く語る松永氏と、企業秘密に抵触ギリギリの内容を厳しく(?)チェックする西坂氏

―― と、いうと ?

(松永氏)「青空や風景は、どちらかというとカッチリとシャープに撮って、ディテールもしっかり出したい。一方、人物は柔らかく描写した方が雰囲気がいいですし、シワなども目立ちません。その両立が難しかったんです。そこで、先ほどのホワイトバランスと同様、画像を解析して、ここは空、ここには人物といったように、判定と最適な処理をエリアごとに行っています

また、今回からシーンとして"ローライト"の判定が増えました。これは室内のことで、今までの"夜景"とは適用する画像処理が異なります。夜景の場合、暗い部分をあまり明るくせず、黒をグッと締めるんです。ネオンや電灯など光源の色味は、できるだけ残します。ローライトでは、同じ光源でも室内ではきちんと補正してあげないと、色が被っているように見えてしまう。暗部が暗いのもダメですね。夜の室内でも、昼間のように明るく再現するようにしています。

ZR300のプレミアムオート PROには、さまざまな判定に伴う画像処理を入れていて、計32シーンを判定します」

―― 32シーン ! もう、ユーザーはプレミアムオート PROにしておけば、何も意識しなくていいですね。

(西坂氏)「こういった認識能力には、まだ伸びしろがあると思います。将来的には、撮影モードはプレミアムオート PROだけ、というモデルも成立するようになっていくでしょうね」

真逆光下の比較作例。右下がZR300だ。フラッシュは使用していないが、被写体の色をはっきりと拾った上で、肌の色をやや暖色に補正。血色の良い健康的な肌を表現してくれる

―― お話を伺って、ZR300は美しい写真を撮るためにこだわり抜かれたカメラだということがわかりました。では、その根底に関わる部分、カシオとしての画作りのポリシーを教えてください。

(松永氏)「肌の色には、特にこだわりがあります。開発陣はほぼ男性なので、以前は男性だけで発色の方向性を決めていました。その頃は業界的にも忠実な色再現を求める風潮があって、自分の子どもの肌色を研究したりしながら、一生懸命やっていたんです。それから次第に、女性社員にモデルになってもらったり、撮影した写真の評価をお願いすることが増えてきた。すると、写っている人は忠実な色再現では良しとしないんですね。

そこで、写っている人がどんな色を選ぶのか、サンプルを増やして調べました。その結果、わずかに赤味が差して生き生きとした肌色、という結論を得たのです。肌の色味をほんの少し暖色に振ったような…。それ以来、プレミアムオート PROでは、これをポリシーにして色を補正しています」

―― 撮られる人が「こんなふうに写りたい」という意見を重視しているんですね !

(松永氏)「そうです。 人物に関しては、それが一番重要だと思うんですよ」

ZR300ではこのほかにも、インタフェースの改善や、無線LAN機能を内蔵したメモリカード 「FlashAir」と「Eye-Fi」への対応といった細かなケアも行われている。ちなみに、後者については、ほかの一部機種(ZR15、ZR20、FC200S、EX-ZR200)でもファームウェアを更新することで、機能が実装される。詳しくは別記事をご確認いただきたいが、こういった購入後のアフターケアはユーザーにとって非常に嬉しい。

「ZR200(写真左)の撮影メニューには、スペースが空いているところがあったんですが、ZR300(写真右)では(ショートカットによる)設定を無駄なく配置して空きスペースをなくすことで、使い勝手を向上させました。まぁ、これは小ネタですが(笑)」(西坂氏)

ZR200とZR300の違いを教えてもらおう、という軽い動機で始まった今回の取材だったが、結果的にはやや難しい話になってしまったかもしれない。ただ、それはとりもなおさず、すでに高水準にあるZRシリーズの性能をさらに押し上げた高度な技術について、スペースが許す限りご紹介したかったゆえでもある。「日頃からの技術とアイディアの積み重ねをここぞとばかりに実装した」と松永氏は語る。ZR300は「羊の皮を被った狼」なのだ。